すべては君のため

ふんふんふん♪

鼻歌交じりにスキップしながら、楽しそうに甲板を行くのは4番隊長であるサッチだ。
何か特別なことでもあるのかその顔はいつも以上に緩んでいる。
「機嫌よさそうだな、サッチ隊長」
「なんでも前の島でいいことがあったらしいぜ」
「へぇ〜」
「でもあの人はいつも楽しそうだよな」
「確かに」
「でも今日はまた特別だな」
傍目から見てもその楽しげな様子は丸分かりである。
そしてサッチはその楽しげな様子のまま、彼のテリトリーでもあるキッチンへと姿を消した。
だが事態はこの後、一変する。



「ああ〜〜〜〜!!」
モビーディック号にサッチの悲鳴が響いた。
「どうしたんだ!」
「何があったんすか!」
「大丈夫か、サッチ!」
悲鳴を聞きつけ駆けつける面々。
キッチンまで行くと、哀しそうな表情を浮かべ、箱を手に握るサッチの姿があった。
「どうしたんだ?」
ビスタが尋ねる。
「これ見てくれよ!」
泣き出しそうな顔を浮かべながら、手にした箱を差し出す。
「……何も入っていないようだが?」
「そうだよ!!何も入ってないんだよ!」
今度は大きな声を出して怒り始めた。
「一体どうしたんだい」
ひょいと顔を覗かせたのはマルコだ。
「見てくれよ!これ!」
「なんだ。それか」
「何か知ってんのか!?」
「確かケーキだったねい。美味かったよい」
「ッ!お前か〜〜〜!!」
サッチの怒号が響いた。
「ちょっ、なんで怒るんだよい。作った菓子なんていつも食べさしてくれるだろうが」
「これは違うんだよ!」
珍しくマルコに強気で詰め寄るサッチ。
「これは前の島で手に入れた有名店のケーキなんだよ!並ぶの大変だったんだぞ!仕事が終わってから味見たりして色々研究しようと今まで我慢してたのに……」
どうしてくれんだよ……、と再び哀しそうな顔をする。
「おっ、俺だけじゃないよい。エースも一緒に食ったんだよい!」
あまりに悲痛な顔を浮かべるサッチにたじろぐマルコ。
「何?エースもか!?」
バッと俯いた顔を上げるサッチ。
「あのやろ〜、今日は朝食も昼飯もたっぷり食ってたじゃねぇか!」
再び怒り出すサッチ。
哀しんだり、怒ったり、実に急がしそうである。
「エースはどこだ!」
「確か向こうで昼寝していたな」
イゾウが甲板を指差せば、箱を投げ出し駆け出すサッチ。

「エ〜〜〜〜ス!!!」
「うぉ!サッチ!どうしたんだ?」
「どうしたんじゃねぇ!」
「へ?」
「お前、ケーキ食っただろ!」
「ああ、あれか。大丈夫、美味かったよ」
ニカッと笑うエース。
「大丈夫じゃねぇ!」
「は?」
「あれはサッチが料理の研究用に自分の為に買ったものだったんだと」
ジョズがフォローを入れる。
「え!マジで!」
心底驚いた顔をするエース。
サッチを見ればその顔は本当に怒っている。
「ゴメン!!!」
すぐさま立ち上がり、頭を下げるエース。
「……ハァ。もういいよ。お前らが菓子を見れば手を出してしまうことを忘れて、そこら辺においていた俺も悪かったしな」
ため息混じりに言う。
騒がして悪かったな、と手を振りながら自分の部屋へと帰っていくサッチ。
だが、その背中はなんとも切なかった。

「……やっぱ止めとくべきだったか」
ポツリと呟くエース。
あの時、本当は食べてもいいかどうか迷ったのだ。
……結局欲求に負けて食べてしまったわけだが。
「食べちまったもんはしょうがないだろい」
共犯者であるマルコが言った。
「でもサッチ本当に哀しそうだったぜ」
「……」
「あ〜、どうしたらいいんだろう」
机に突っ伏すエース。
「機嫌が直るようにしてやればいいんじゃないか」
横から声が入る。
「だからどうやって……って、ビスタ!」
「全くお前らには困ったもんだな」
呆れた顔をするビスタ。
「なんできたんだ?」
「そりゃ、サッチがあんだけ哀しそうな顔をしたんだ。原因であるお前らに文句を言いに来たくもなるさ」
「……ゴメン」
「まあ、確かに食べてしまったものはしょうがないがな」
そう言ってため息を吐く。
「だが、マルコ。もう少し反省しろ」
「……ちゃんとしてるよい」
ばつが悪そうな顔をするマルコ。
一応、サッチにあんな顔をさせてしまったことを反省はしているようだ。
「ところで機嫌直すにはどうすればいいのかな?」
エースが尋ねる。
「……そうだな。本人はもういいって言っているだけに謝っても効果は無いだろうな」
「謝る以外にどうしろってんだい」
「「「……」」」
黙り込む3人。
「それならいい方法があるぜ」
「俺たちも協力しよう」
声がする方に目を向ければ、ニヤリと笑う女形隊長とその横に立つジョズの姿。
???
わけがわからずに、はてなマークを浮かべる三人。
一体何を考えているのだろうか……。



「急げ〜〜〜〜!!!」
バタバタと船員たちが駆け回り、現在船内は大忙しだ。
下っ端クルーも年配のクルーも一緒になって働いている。
「……なんか外が騒がしいな?」
あれから部屋に閉じこもっていたサッチだが、外が騒がしくなったことに気づき出て行こうとする。
「戦闘でも起こったか?」
今のオヤジに手を出してくる奴がまだいたか……、とドアを開けようとしたがその前に誰かが入ってきた。
「ビスタ!」
「よお、サッチ。落ち着いたか」
「……まあな」
曖昧な笑顔を向けるサッチ。
「ちょっとお茶しようと思ってな」
ほら、と紅茶とナースからせしめたクッキーを差し出す。
「入ってもいいか?」
「いいぜ」
二人して椅子に腰掛けてくつろぐ。
「ところで外が騒がしいようだけど?」
カチャリとカップを置いてサッチが尋ねる。
「ああ、ちょっとな」
「ちょっと?」
「まあ、大した事じゃない。それよりこれは美味いぞ。……お前が買ってたケーキほどではないと思うが……」
ためらいがちにビスタが言う。
「そんなに気にしなくてもいいさ。……うん、美味いよ」
そんなビスタを見て、サッチは笑みを浮かべて言った。
「……」
実はビスタがサッチをお茶に誘ったのは時間稼ぎである。
今、部屋の外ではサッチのための宴の準備が急遽行われている。
さきほどのサッチの哀しそうな姿を見ていた船員たちはもちろん、4番隊長であるサッチを元気付けるための宴とあってみんな張り切って動いている。
これはイゾウのアイディアだ。
宴で元気付けるとはなんとも海賊らしいが、気分を盛り上げるにはぴったりだろう。
途中でばれてしまっては大変なので、話が一番上手そうなビスタが足止めの役目を言い渡されたのだった。

「……おっと、そろそろ夕食の支度を始める時間だな」
時計に目をやり、立ち上がるサッチ。
「そろそろ、キッチンの手伝いにいってくるわ」
そう言って出て行こうとする。
「ちょっ、ちょっと待て!サッチ」
「なんだよ?」
不思議そうな顔をするサッチ。
「いや、この間のことなんだが……」
ビスタがなんとか話を続けようとするが、
「悪いな。また夕食の時にでも話そうぜ。色々話をして気分も軽くなったことだしな。ありがとうな、ビスタ」
笑顔を浮かべてドアに手をかけるサッチ。
……だめだこれ以上引き止められない。
そうビスタが思ったとき……。
「サッチー!!!」
バーンとドアが開きエースが駆け込んできた。
「……痛てぇ」
「え!?サッチ、大丈夫か!」
突然開けられたドアにぶつけた鼻をさするサッチ。
「ゴメン!」
「あー、もういいわ。で、何の用だ?」
申し訳なさそうな顔をするエースにサッチが問いかけると、
「準備が終わったんだ!」
嬉しそうな顔を浮かべるエース。
「準備?」
「バカ!エース今言うんじゃない」
ビスタがエースに注意する。
「いけね!」
「全く……」
しまったという顔をするエースとため息をつくビスタ。
「だから何なんだよ?」
サッチにはまるでわけがわからない。
「とにかく早く来てくれよ」
そう言ってサッチの手を掴み、引っ張るエース。
「ちょっと待てよ!」
抵抗する間もなく、サッチは甲板へと連れ出された。



「おお、来たか!」
「サッチ隊長〜!」
「サッチー!」
甲板まで来てみれば、大勢のクルーとオヤジの姿。
みんな嬉しそうな顔を浮かべ、手をぶんぶんと振っている奴らもいる。
辺りを見渡せば、豪勢な料理と酒樽が置かれている。
これから宴が始められるだろうということは見てすぐにわかった。
「……何だよこれ?今日、宴の予定なんてあったか?」
「どうやら間に合ったようだねい」
突然のことにサッチが戸惑っていると後から声がした。
「マルコ!」
「ほらよ」
そう言って差し出したのは白い包み。
「なんだよ?」
「開けてみろい」
そういわれて開けてみると中に入っていたのはケーキだ。
どうしたんだとマルコを見ると、
「勝手にケーキ食って悪かったよい。残念ながら前の島までは遠すぎて無理だったが、次の島までは近いから飛んで買いに行ってきたんだよい」
申し訳なさそうな表情で、謝罪の言葉を述べられる。
「宴も大急ぎで準備したんだぜ!サッチが元気出るようによ!ケーキのこと本当にゴメンな」
続けてエースが言った。
「……バカじゃねぇの」
ポツリと呟く。
ケーキって言ったって、前の島の奴は限定品の特別な奴だし、わざわざ次着く島まで代わりのものを買いに行くか?
宴だっていきなり準備するのは大変だっていうのに何してんだよ……。
あまりのことに呆然とする。
「サッチ、嬉しそうだねい」
ニヤニヤとマルコが声をかける。
「は?何言ってんだよ!」
心の中では悪態をついていたものの、喜ぶその気持ちはしっかりと顔に現れていたようで、周りのやつらはさも満足そうな顔を浮かべている。
「どうだ、サッチ。機嫌は直ったか」
オヤジも声をかけた。
「機嫌も何も、不機嫌になった覚えはねぇよ……」
そうサッチが可愛くない答えを返せば、オヤジはその顔に笑って皺を寄せた。
「グララララッ!ならいい!」
その大きな手で頭を撫でられる。
「あ、サッチ、ずりぃ!」
「我慢しろ、エース」
ジョズに宥められるエース。
「よし!お前ら!今日の宴はサッチのための宴だ!感謝して騒げ!!」
おおおおお〜〜〜〜!!!
オヤジの声に全員が声を上げる。
俺のための宴が今始まった。



とにかく愛されているサッチが書きたかった。
ちゃんと書けてるかな?
白ひげ海賊団はすごくいい家族だと思います。
書いてて楽しいです。
そして欲を言えば、タイトルセンスが欲しいです。
毎回すごく悩みます・・・
企画「I Love 4444!!!!」様に提出させていただきました。


[ 12/12 ]

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