半分の月

ゆらゆらと揺れる視界に浮かぶ月はその半身を闇に落とし、綺麗な半月をしていた。
雲一つない星空の中でより一層輝くその大きな星は晩酌をするにはもってこいの肴だ。
いつもの樽ジョッキではなく、簡単に割れてしまいそうな透明のワイングラスをサッチの指が柄を摘まんで掲げる。
そこに並々と注がれた酒はフツフツと気泡を生み出して、また透き通る金色だった。
グラスを通して空を見れば、真っ黒な闇が鈍い金色となり、輝く月はよりその色味を増して輝いているようにも見える。
ゆらゆらとグラスを振ると中の酒がグラスの中で踊り狂い、雫が一滴宙に舞う。
グラスを通してみる空も踊っているようだった。
「何してるんだい」
隣から声がする。
ゆっくり振り向いたサッチはその顔を見て笑った。
「ん〜なんかこうしてると世界が回ってるみたいじゃねぇ?」
マルコに向かって酒をゆるゆるとサッチの手が回す。
「バーカ。回ってんのはお前の頭の方だろい」
「え〜そうか〜」
サッチは少し不満気に首を傾け、納得していない様にまたグラスをゆるゆると回し始めた。
そんなサッチの様子をマルコはただ見ていた。
二人きりの細やかな酒盛り。
星の輝く夜はそれでも暗くて、手元の明かりは船内から溢れる光と天の半月の光だけ。
傍らにランプもあるがそれをつけるのはもっと後からでいいだろう。
サッチと同じくワイングラスに注がれた手の元の酒をマルコは煽る。
目の前にいるサッチはいつもと変わらなそうに見えて、強かに酔っていた。
よくよく見ればその肌はうっすらと赤みを増し、目もどこかぼんやりとしており、何よりどこか眠そうでもある。
「ほら、いい加減振り回すのは止めろい。零れるぞ」
酒はまだサッチの手の中で回っていた。
「だぁ〜いじょーぶっ……あっ……」
“大丈夫”と強く言う者の大丈夫ほど当てにはならない。
遠心力を受けていたグラスはその中身を回していた本人へと発散した。
「あー……」
顔の下半分と胸のあたりまでが濡れた。
咄嗟にスカーフで拭おうとしたサッチだが当然そのスカーフも塗れている。
びしょ濡れのスカーフを手にしばし途方に暮れるサッチ。
「まぅこ〜……」
寂しげな声がマルコの名前を呼ぶ。
けれど、とうとう言葉まで不自由になったのかその口が吐いたのは正しい名前ではなく、実にふにゃけた音の塊。
マルコはため息を吐きながらも腰の布を引き抜き、その濡れた箇所を拭いてやった。
「んんっ……」
くすぐったそうに身を捩るサッチを宥めながら床に零れた酒も拭き、拭いた腰布は傍らに放り投げた。
「おさけぇ〜」
空になったグラスを手にサッチが酒瓶を手招きする。
「もう入ってないよい」
「嘘らぁ〜」
マルコが残る酒瓶をもう空だと横に転がして見せてもサッチはまだ疑っている。
「まるこぉ〜」
寂しげな声がまたマルコを呼ぶ。
「仕方ねぇな……」
立ち上がるマルコにサッチが緩んだ目を期待で輝かせた。
「ふひゃっ!?なに……?」
急に両の腕で掬い上げられ、お姫様抱っこされる形になったサッチは逃げ出そうとするものの酒に酔った体とこの体制では逃げられない。
困ったサッチがマルコの方を見つめるとその後ろで綺麗な半月を見た。
少しその輝きに目を奪われたサッチ。
すると何か暗い影が落ちた。
「んっぅ……」
落ちてきたのは生温かな唇だった。
思わず息を吸おうとしたサッチの口の中にマルコの舌が侵入し、優しくその舌を絡め取る。
「はぅっ……んぅ、ん……」
角度を変え、柔らかい口づけを繰り返せばそれだけでサッチはもうトロトロになり、最後に軽く啄むとその口からは深いため息が零れた。
「最後の酒の味は美味いかい?」
ゆらゆら揺れる視界の中でやはりマルコがゆらゆらと笑っている。
よくわからなかったがサッチはコクリと頷いた。
なんだか柔らかくて甘くて美味しかった。
「続きが欲しければ後は部屋でしてやるよい」
続くマルコの言葉にもサッチは大人しく頷いた。
「……もっと欲しい」
夢現に呟かれたその言葉にマルコは笑って、わかったとその頬に口づけた。
ゆっくりと部屋への道を辿る足。
暗い闇夜に浮かぶ半月だけがその場に取り残された。



「414合同企画」様に提出させて頂きました。
ツイッタの診断で14と入れたら『欲しいだけあげる・真っ赤な唇は半月よりも綺麗に・ひらがなで呼ぶ名前』と出たのでこんな形に。
お部屋の中では絶対やらしいことしてますね!
お酒が覚めてから昨夜のことを話されてサッチ恥ずかしさで真っ赤になればいいと思います(笑)


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