Which animal is cute?

「次は向こう行ってみようぜ!」
「あんまりはしゃぐないよい。恥ずかしい」
二人の非番が都合よく重なった上陸の日。
サッチは見るからに弾んでおり、マルコもまた表情には出さずとも心のうちではサッチと同じように二人きりの状況を楽しんでいた。

「けどこの祭り面白いよなぁ」
サッチの言葉にマルコも素直に頷いた。
確かに面白い。
辺りには体を飾り立てた人々の姿が目立っていた。
どれも動物の姿を模倣したものばかりだ。
この島では生き物の恵みに感謝し、祭りでそれら生き物に扮装し、祝うという習慣があるらしい。
右にはライオン、左手には馬、その前には大鷲などその種類も様々で見ていて飽きない。
完全に獣と化し、歩く街の住民たちは目を引く。
だがすべての者がそうであるというわけではない。
中には頭に獣の耳をつけたり、ズボンやスカートに尻尾をつけるなどの簡単な仮装をしている者たちもいる。
食べ物等を売る露店の中にはそういう獣の耳や尻尾の飾りを売っている店が見られた。
おそらく観光客用だろう。
今もまた辺りを楽しげに見回していた家族連れが笑い合いながら露店で飾りを購入している姿が見えた。
「なぁ、マルコ。俺たちも参加しようぜ」
「えっ、嫌だよい」
サッチの提案にマルコは首を振った。
楽しそうな事なら何でもやってみたいと思うサッチと違い、マルコは眺めるのは楽しくとも自分が動物の格好をするということには抵抗を感じていた。
「こんだけの人数がやっていれば目立たないって。むしろこのままの方が目立つと思うぜ?」
祭りの中心の大通りにいることもあり、サッチの言うとおり辺りは動物だらけであった。
確かに人であるマルコたちの方が目立つ。
「でもよい……」
それでもマルコは躊躇したがサッチは耳を貸さずすかさず言葉を続けた。
「やろうぜ!折角の祭りに参加しなくてどうすんだ!そうだ。どうせなら二人でお互いのやつ選ぼうぜ。俺あっちで探してくるな!」
そう言うなりサッチはマルコの返事も聞かず、足早に人混みの中へ駆けだした。
「ちょっと、サッチ!」
マルコが止める声もむなしくすでにサッチの姿は見えない。
普段は割とのんびりしているくせにこういうときの行動は早いのだ。
「あっ、ごめんなさい」
一人立ち尽くすマルコにぶつかる女性。
その頭にはやはり耳が付いている。
白くて長いこの耳はウサギだろうか。
そのウサギがマルコに謝った後、笑って隣にいた犬に抱きつく。
きっと恋人なのだろう。
長い耳を揺らしながら犬の姿をした男性と笑い合う女性。
彼らはその格好を存分に楽しんでいるようだった。
「……やるしかないのかねい」
盛り上がる周囲の様子とサッチの去った方向をもう一度見てマルコもまた歩き出した。



「……いないねい」
サッチと別れた場所に戻り、辺りを見回すもののその姿は見えない。
元々きちんとした集合場所を決める前にサッチは消えてしまったし、この場所には目印の様なものもないから仕方がないのかもしれない。
けれどこの辺りで待っていた方が会える可能性は高いのでマルコは空いたベンチに腰かけ、サッチが現れるのを待つことにした。

「マルコ!!」
マルコがベンチに腰かけてから数分もしないうちにサッチは駆けつけた。
人混みをかき分けて走ってくるサッチの姿はその大声のお陰でずいぶん遠くからマルコにもわかった。
「この人混みの中でよくわかったねい」
こちらは探すのに必死だったというのにあんなに遠くから自分を判別できたサッチにマルコは驚いたがサッチは笑って言った。
「だってマルコだもん」
「……そうかい」
さも当然そうに述べたサッチにマルコは俯いた。
その顔はほんのり赤く染まっている。
けれどサッチはそれには気づかず嬉しそうにマルコの手に持っているものを指差した。
「おっ、ちゃんと買ってきてくれたんだな。いい子いい子♪」
「やめろよい」
「いいじゃねぇかよ、ちょっとくらい」
笑いながらサッチがマルコの頭を撫でた。
マルコはその手を即座に払い除けたが、その反対側の手にはきちんと荷物が握られていた。
「ハハッ。よし、お披露目しようぜ。折角だから後ろ向いてつけて“せーの”でお互い振り向こうぜ」
サッチは素早くマルコに己の荷物を手渡し、マルコもそれを受け取って自分の買ってきたものをサッチに差し出した。
二人とも互いに背を向けて支度を整える。
やがて準備が整うと予定通りサッチが合図を掛けた。
「それじゃあ行くぞ。せーの!」
サッチの号令と共に二人が顔を合わせる。
「うわぁ!可愛いなぁ」
「……」
満足そうに頷くサッチの目の前には黒い三角の耳をつけたマルコの姿があった。
「……これは要らなかったんじゃないかい?」
「あった方が絶対可愛いって!お前だって買ってきたくせに」
「そ、そうだけどよい」
居心地悪そうなマルコのお尻には頭についている耳と同じ黒色の長い尻尾。
どういう仕掛けなのかはわからないがお尻につけられた尻尾は空中でくりくりと揺れている。
「なぁなぁ。“にゃあ”って言ってくれよ」
「だ、だれが言うかい!」
サッチの言葉にマルコは赤くなり上擦った声を上げる。
「え〜」
つまらなそうな表情を浮かべるサッチの頭には黄色の丸い耳。
そしてズボンには黄色と黒のしましまな尻尾が付いていた。
「おれは虎かぁ」
面白そうに付けた耳を触り、尻尾を眺めるサッチ。
「本当は狼にしようと思ったんだけど他のやつがしてたからそっちにしたんだよい」
「へぇ……まぁ確かに俺は狼だよなぁ」
「バカ!そういう意味じゃないよい!」
意味ありげに近づいて体触れる手をマルコが慌てて叩き落とす。
「俺は初め羊にしようと思ったんだよな。もこもこの被り物。耳じゃないけど可愛いだろ?」
「やだよい!」
もこもこ頭の自分を想像したのかマルコが叫ぶ。
「そう言うと思ったから諦めてそっちにしたんだよ。猫なんてベタだけど可愛いもんだよな」
そう言ってマルコの耳を弄り出す。
「あ〜、本当に可愛い。抱きしめたくなっちゃうな」
「人前ではやめろよい!それに可愛い、可愛いってサッチの方がよっぽど可愛いよい」
「何言ってんだよ。お前の方が可愛いって!それに俺のはカッコいいだろ?虎なんだから」
「でも可愛いよい?」
「だから可愛いのはお前だって!俺に可愛いとかおかしいだろ!」
「なんで怒鳴るんだよい!第一おかしくないよい、サッチのが可愛いよい!」
「いいや、マルコのが可愛い!!」
気が付けば穏やかなムードは消えて言い争いになっている。
それでも止まらないのがこの二人だ。
周りも気にせず延々と互いの良さを捲し立てる。
聞いているものには惚気にしか聞こえない、なんてことにも気づかない。
互いに互いを褒めるのに必死だった。

驚くことに言い争いは数十分に渡り続いていた。
息を乱しながら相手の可愛さを主張し続ける両者。
まさに永遠とも思えるやりとり。
しかしそれも終わりを迎える。
「ぜーったい、サッチの方が可愛いよい!」
「いや、マルコ!」
「サッチ!」
「マルコ!」
「サッチ!」
「マルコって言ってんだろ!?」
「ふざけんない、サッ「ああもううるせぇな!」
叫ぶマルコの言葉を遮り、サッチが動いた。
マルコの視界が狭まり、唇を襲う柔らかい感触。
「ほら、マルコの方が可愛い」
サッチは悠然と微笑んだ。
「サッ、サッチ、何してんだよい……!」
「どっちがより可愛いかどうかの検証だろ」
動揺するマルコを余所にサッチの指先はその頬をなぞる。
「やっぱりお前のが可愛いよ。赤い子猫さん?」
「ッ……!」
サッチの言うとおりだった。
猫耳をつけたマルコの顔は今、真っ赤に染まってしまっている。
「反論しないのか?」
いつの間にかサッチとマルコの距離は目と鼻の先。
サッチの息がマルコの耳へとかかる。
マルコの肩が動いた。
「……もういいよい」
呟かれた敗北宣言。
「ハハッ、俺の勝ちだな」
「卑怯者」
「どんな手を使っても勝てばいいんだよ」
「節操無し」
「そりゃマルコにだけだ」
「……」
黙ったマルコの額にそっと口づける。
「決着ついたんだし、遊ぼうぜ。折角の祭りなんだから楽しまなきゃもったいないだろうが」
まだ不満げなマルコの頭をサッチがガシガシと撫でる。
それでもマルコはまだ納得いかないような顔を浮かべていたがおもむろに口を開いた。
「……クレープ」
突如発せられたマルコの言葉にサッチはちょっと目を丸くしたがすぐに笑って頷いた。
「そうだな。まずはクレープ食いに行くか!」
そうして行く方向に当たりをつけ、先に進もうとするサッチの手に何かが触れる。
「い、行くよい」
不意に立ち止まったサッチを促すようにマルコが動いた。
いつの間にか二人の間は両者の手によって繋がれていた。
握り締められた己の手に驚きながらもサッチはそれを強く握り返した。
「ほら、早く行くよい!」
「わかったって」
怒鳴りつける恋人の声とは裏腹にサッチは至極楽しそうだ。
祭りはまだ始まったばかり。
楽しげな笑い声渦巻く街中で二つの影もまた楽しそうに揺れた。


(This fight is tigers win!)



相互記念としてきわちゃんに捧げます!

遅くなったけど相互どうもありがとう。
どうぞこれからもよろしく!
確か「41で互いに獣耳選んで喧嘩して最後はイチャイチャ」だったような…。
仲直りのきっかけが思いつかず放置だったけれど強引にキスで終えました!
サッチならやりかねないと思うの(笑)
バカップル書くのは非常に楽しかったです♪

書き直し&返品は受け付けます!
相互ありがとうございました(^^)


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