求愛バード

「サッチ!」

朝の目覚めは鳥の鳴き声から。
それはなんとも清々しい爽やかな朝を連想させるが陸でもない海の上で囁きかけてくれるような小鳥はいない。
陸が近い海ならばよくて海鳥がいるくらいだ。
だが、その鳥は毎朝俺のところにやってくる。
朝だけじゃない。
昼間も、夕方も、夜も。
起きる時も、寝る時も、食事をする時も。
ことあるごとに寄ってくる、そうまるで鶏のようにやかましい鳥が一羽いるのだ。

「サッチ、朝だよい!グッドモーニングだよい!早くその愛しい顔を見せてくれよい!」
ドンドンと扉を突く音……じゃない、叩く音が聞こえる。
「会いたいよい、サッチ。なぁ、サッチぃ」
歌う様にさえずる鳥の声。
ではなくて、実際は低いおっさんの声が猫撫で声に叫んでいるだけだ。
これは目覚め方としてはとても清々しいとは言えない。
「サッチぃ、サッチぃ」
「あー、もうわかってるから!」
「ああ、やっとお目覚めかい?おはよい!焦らすだなんていけない子だよい。ああ、だけどそんなとこも可愛いよい!」
応えれば響くように返ってくる言葉の数々。
寝起きの頭には少しきつい。
ボサボサになった髪を掻き上げ、気怠い体をベッドから起こした。

「ああ、会いたかったよい!」
扉を開けた途端のバードキス。
ただしこの表現はマルコが不死鳥だからそう言っているだけであって実際それはもう濃厚なディープだ。
「ん、んんぅ、んぐぐ……」
情緒なんてあったもんじゃない。
頼むからそんな舌よりも新鮮な空気を吸わせてくれ!
「はぁっ……愛してるよい」
ミシッという音が聞こえてきそうな抱擁。
目の端にひきつった顔の自隊の隊員の顔が見えた様な気がしたが目を瞑る。
頼むから見なかったことにしてくれ!
「サッチ、お返しのキスはどうしたよい?」
子供が菓子を強請る様な表情だ。
ちょっと不満気でそれでもきらきらと期待に満ちた青い目。
仕方なしに唇にそっとキスを返せばまたするりと舌が滑り込み、また翻弄される。
悔しいがキス自体は上手い。
「もう俺寂しくて死んじゃうかと思ったよい!いい匂いだねい」
「あ、ちょっ……やめッ、んぅっ……」
唇を離したかと思えば首筋に顔を埋められて匂いを嗅がれた。
肌に触れる鼻先がくすぐったい。

寂しくて死ぬとマルコは言ったが離れていたのはたった一晩でしかない。
だが本来ならずっと寝所を共にしたいとマルコは主張していた。
けれどそれは却下された。
俺を含む他の面々によって。
そりゃあ、毎晩おっさんの喘ぐ声が壁越しに漏れて聞こえてきたら誰だって嫌になるだろう。
喘がされている本人だって毎晩は辛い、仕事にも支障が出る。
それなのに何ともないこの男が恐ろしい。
自重させるためにも部屋は別々と掟が作られた。
オヤジの命とあってはマルコもそれをないがしろには出来ない。
俺も連日起こる腰痛から解放……はされなかった。

「エロいよい!サッチ!エロ過ぎだよい。我慢できなくなるよい!」
「だから朝っぱらからは止めろぉおおお!」
何に興奮したのか発情した鳥が自分の喉元を喰らった。
歯が緩やかに首の筋を噛んだかと思うと小さくきつく吸われて肌に虫刺されのような痕が残る。
それでも飽き足らないのか鎖骨には濡れた舌が這う。
「サッチだってその気なんだろい!そんなエロっちぃ声出して!照れなくっても俺は構いやしないよい。でもその顔もやらしくて大好きだよい!」
「ッ、この阿呆……!」
熱が集中する。
それは決して顔だけじゃない。
当てつける様に押し当てられたマルコの股間はしっかりと自身の欲望を主張していて、何故かそれにつられて自分もちゃっかりと芯を持っていた。
「サッチ、愛してるよい」
うっとりとした鳥の声。
背後に当たる自室の扉。
伸びる不死鳥の手はそのドアノブを捉えている。
本気で食べられてしまう……!
貞操の危機だとか今更言う気はないが今は不味い。
朝っぱらからこんな鳥の相手をしていたら一日足腰が役に立たないのが決まっている!
哀しいかな、隙を見つけた鳥に襲われるのはもう何度目かと数えるのも疲れるほどだった。
「おい、お前ら朝っぱらから乳繰り合ってんじゃねぇぞ!」
突如現れた救いの天使、いや悪魔だった。
鬼のような形相の和服を纏った使者が今まさに手にした銃を打ち抜いた。
「何すんだよい!イゾウ!」
弾丸が触れあいそうなマルコと俺の鼻先を通過した。
ちょっとでも動いていたら互いの鼻が無くなるところだ。
イゾウの腕は信用しちゃいるが流石にゾッとした。
「朝からそんなことしているてめぇらが悪い!」
「仕方ないだろい!サッチが俺を誘ってるんだい!ここで襲わなかったら男じゃないよい!ただの不能だよい!」
「違う!俺、誘ってない!誘ってない!」
なんてことを言うんだ、お前は!
睨んできたイゾウに必死になって首を振ってみせる。
これで本当に俺のせいだと認識されたらたまったもんじゃない。
「とっとと朝飯喰いやがれ!コックたちも困るだろうが!第一、今日は隊長会議なんだぞ!忘れてんじゃねぇだろうな?」
「覚えてるよ!ほら、マルコ離れて!」
「ちっ……」
舌打ちしたマルコがようやく離れるのを見てとるとイゾウは背を向けて去った。
とりあえず、最悪の事態は免れたらしい。
「しょうがねぇ、朝ご飯にしようかい。俺、今日はホットケ「今日はオムレツと野菜スープだ」」
他の何が押し負けようと食事のことに関しては負ける気はない。
「サッチのオムレツ大好きよい!チーズたっぷりにしてくれよい」
強気で押してもこの通りだから疲れるけれど。
ため息を吐いた俺に対し、マルコはさも幸せそうな笑みを浮かべている。
そんなに俺と一緒にいられるのが嬉しいか。
日々の求愛行動には正直疲れるが愛されているという事実に悪い気がしていないのも事実。
自分の腕をがっちりと抱くこの鳥男のためにまずはチーズたっぷりのオムレツと酸味あるトマトとバジルの組み合わせが美味しいスープの朝ご飯を作ってやるとしよう。
また始まった慌ただしいだろう一日に気合を入れつつ、食堂へと足を踏み出した。


(サッチ、愛してるよい)
(だから腰を撫でるな!尻を揉むな!)
(だったらそんな誘う様に振るもんじゃないよい!触ってくれって言われてるのかと思うじゃないかい!)
(どうやったらそうなる!ッ、おい、どこに手ぇ置いてるってんだ!)
(そりゃ、ち(素直に答えるなぁあああ!!!))



飴蛙様に相互記念として捧げます!

大変遅くなりました。申し訳ありません。
「ぐったりなサッチとそんなサッチを問答無用で弄り倒すマルコ」とのリクでしたがどうでしょうか?
サッチを全身全霊で愛する鳥男をコンセプトに書いてみたのですがギャグになりました。
サッチもなんだかんだでマルコ好いてますがw
そして残念ながらえろいのは未遂で終わりました。
きっと突入してたらサッチは延々啼かされてたと思います(笑)

書き直し、返品は受け付けますのでお気軽に!
相互どうもありがとうございました(*^ω^*)


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