823本目の花の先(6/7)

「Hey!毎日毎日、ご苦労なこった。そりゃあ一体なんの意味があるんだ?」
遊びに誘った友の奇怪な行動を政宗が問う。
堤防から海へと向かうその手には花が握られていた。
海に向かって花を一輪投じること。
それが政宗の友である元親の毎日の習慣であった。
「まじないみたいなもんさ」
握る花を見つめて、元親は政宗の問いに答える。
「“charm”か?それはまたおかしなことしてるな。何を願うことがあるってんだ」
「会いたい奴がいるのさ」
その手から花が落ち、真っ直ぐに海へと落ちていく。
軽い花は音も無く、海の上に浮かんだ。
「会えないなら会いに行きゃあいいじゃねぇか」
元親が花を海に放る姿を見て呆れたように政宗が言った。
「バーカ。それが出来ねぇからこうしてんだろ」
波に乗って花が揺れる。
波に揉まれてやがては海の中へと沈むだろう。
「へぇ……そうかい」
口調はふざけていても稀に見ない真剣な顔を覗かせた元親の様子に政宗は口を噤んだ。
会いたくても会えないとは一体どんな理由であろうか。
花に想いを託してしまうくらい叶いにくい望み。
もしかしたら相手は既に亡くなっているのかもしれないと考えたがそれにしては元親の目には強い光があった。
さらに詮索を試みても良かったが無粋な気がして政宗はそれ以上の問いかけを止めた。
まぁ、いずれわかることだろう。運が良ければ。
放っておけばずっと海を見つめていそうな友に声をかけ、行き道を急ぐ。
二人の去った後、海に浮かんだ花はやがて踊る波に飲みこまれ、海の中へと消えた。

毛利を待ち始めて2年と3ヶ月と4日。
海に捧げた花の数は今までで822本。
今日で823本目になる花はアネモネ。花弁の色は紫。
花言葉は『あなたを信じて待つ』
手向ける花に少しでも想いを上乗せしたくて詳しくなった花言葉。
初めて捧げた花は庭先に咲いていたパンジーだった。
母親が大切に育てていた花のうちの一つだったが一輪だけ拝借させてもらったのだ。
毛利が転生に向かって消えてから一日も待たずして落ち着かない気持ちになった。
大見えを切ってああ言ったものの元親とて不安が無い訳では無かった。
それでも自分がこうして生きている時に毛利が死んだ霊のままでいるのも嫌だった。
“早くこちらへ来い”
そんな願いを込めて捧げたはじめての花の花言葉は後に調べてわかったが『もの想い』『純情』『私を想って』というようなものだった。
選んでしまったのは偶然だがその事を知った時にはなんだか恥ずかしい気持ちになった。
あながち間違いではない心境であったから尚更だ。
我ながら女々しいと思うがそれでも何かしていたかった。
自分にはただ毛利を信じて待つことしか出来ないのだから。
焦れる想いは消えるどころか日に日に募っていくばかり。
早く会いたかった。

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