愛求ム

「ザビー教に入信しなサーイ!」
おかしなことを言う南蛮の輩が毛利の統べる安芸の国に乗り込んできた。
しきりに愛を謳う黒装束の者たち。周りでは不思議なメロディが響いていた。鼓膜がおかしくなる。
やがて総大将らしき男が元就の前に現れ、そして声高に呼びかける。
「アナタはタクティシャンとなるべきヒト!ワタシ、アナタ欲シイ!ザビー教にアナタの存在は不可欠ネ!」
うるさい!止めぬか!
元就は耳を封じて心の中で叫ぶ。
我があるべき場所は安芸ぞ。
我が守るべきものは毛利ぞ。
ザビー教など知らぬ。
耳を塞ぎ、目を瞑るもどこからともなく歌う天使の声が頭の中へと響き渡る。
この世界に必要なのは〈愛〉。
〈愛〉こそがこの世の全て。
轟く歌声が語りかけてくる。
それはなんだ。愛など知らぬ。愛などあってどうなる。
疑問を持ったことが過ちの始まりだった。
わからぬという事実が〈愛〉とやらの存在を大きくする。
「愛は怖くないヨ!愛は優しいものネ!愛は素晴らしイ!愛を知らないアナタ、愛を知るコトが出来ル!トテモ幸せなことネ!」
幸せなど望んではおらぬ。
我が欲するのは安芸の安寧。毛利家の繁栄のみぞ。
我が心すらも必要ない。
全ては毛利のためだけに。
心の中にある誓いの言葉を繰り返す。だがそれはもはや元就を縛る呪詛のようでもあった。
念じる様に繰り返す心の言葉をまた声が掻き消す。
「アナタの頭脳は素晴らしいネー!ソレを自分のためだけに使うのはトテモもったいないネ!ザビー教の愛を広めるのにアナタ大事!」
熱烈な申し出と今もなお響き渡る天使の歌に元就の頭は軋んでいた。
何故そこまで我を欲する。
誰もそうまでして我を望んだことなど無いものを……。
巡る記憶の渦。
次男として生まれた元就は本来、毛利に必要の無いものだった。城を奪われ、下々のような暮らしを強いられた日々が蘇る。兄が健在であれば元就はここにいない存在だった。
天使の歌はだんだんと声量を増し、今では戦いの中の爆音すらも消し去る勢いとなっていた。
毛利が全て。
それが今の元就の姿。
だが本当に毛利は元就を必要としているのだろうか。
安芸には元就が必要だろうか。
いや、己が知略を超える将などどこにもあらぬ。
ならば我が安芸を統べるのは必然。
だが言い聞かせるように出す結論の中で捨て駒共の顔が何故か浮かび上がってきた。それも犠牲となり、地に伏した者たちのくすんだ眼差し。
何も思わぬはずの元就の背にゾワリとしたものが這い上がった。
「安芸が大事ならソレもイイヨ!ザビー教はタクティシャンが愛するモノも拒まナイ!」
我が愛するもの?安芸が?毛利が?
我は愛など知らぬ。情など必要ない。
我が安芸とそして毛利を守るのはそれが勤めであるからぞ。愛など……愛などあってどうなる。
「アナタ部下たちから恐れられているネ!ソレはアナタが強い証!イイことネ!でも愛があればみんなもっとアナタのために尽くすデショーウ!」
愛があれば我が智略はより活きると申すか。
愛を知れば、愛を与えることが出来たのならばそれはより安芸の地を豊かにすることになるのか。
元就の心が響く歌音に合わせ揺れる。
いつの間にか頭が霞むような甘い響きが心の中に潜んでいた。
いままで信じていたものとは何だったのであろう。
そもそも信じていたものなど我にあったのか。信じるべきものがあったと言うのだろうか。
「愛はアナタのコトを望んでマース!」
また声が謳う。愛が語りかけてくる。
元就はまだ迷っていた。
〈愛〉など知らぬ。〈愛〉とは何か。
わからぬのならば知ればいい。
いや、ここにあるものがすでに愛なのであろうか。
愛は我を望んでいる。
愛を手にすれば安芸はよりよい安寧を得られる……。
頭の中に響く歌声はその中にある思考にさえも届き、絡んで染み渡っていく。そしてやがてはその心まで――。
そう〈愛〉こそが全てなのだ。
虚ろになる目が瞼を閉ざし、そして天上に向かい開眼する。
「我が名はサンデー毛利!」
高らかな声が天に向かって謳う。
輝く日輪に向かい、宣言するその眼差しは強い光を放ち、その色は今までに無い輝きまでも映していた。



ザビプチ3のアンソロに提出させて頂いた物です。
あのナリ様がどうしてザビー教に入信しようと思ったのか考えた結果。
洗脳もあっただろうけどやっぱり根っこは飽くまで毛利家のためだったんだろうなと!
入信してからどう開花するかはわかりませんが…^^
真剣におかしいサンデー様も大好きですw


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