鬼の苦難

「アニキー! どうか入信してくだサーイ!」
「アメージング・ザビー! パイレーツ長曾我部、我らはあなたを歓迎しまーす!」
どこからともなく壮麗な旋律が鳴り響き、それに合わせるように信者たちが高らかに言葉を口にしていた。歌を歌うかのごとく、発せられるその声は酷く頭を痛めつけるものだった。
「だから俺に近づくんじゃねぇ! 入信なんてぜってぇしねぇぞ!」
「相変わらずですネ! だけどイヤヨイヤヨも好きのウチ! 本当は愛を欲してますネ?」
ぞわりとする猫撫で声で言ったのはこの集団をまとめる教祖ザビーであった。
「だから求めてねぇ!」
あらん限りに首を振る。じりじりと迫りくる信者たちの面妖さに野郎共までもがやりにくそうな表情を浮かべていた。
「素直になった方がよいですよ、パイレーツ長曾我部。大人しく素晴らしきザビー様の洗礼を受けるのです!」
甲高い声が響く。
まだ声変わりも迎えてないだろう少年が元親の前に現れた。
「大友……!」
「いい加減、観念しなさい! こんなにもあなたのことを求めて下さっているザビー様の愛がわからないのですか!」
「わかりたくもねぇよ! 大体、パイレーツ長曾我部とか長すぎんだろうが!」
「ならば〈パイレーツ元親〉に改めまショー! これで入信してくれますネ?」
「誰がするか! 馴れ馴れしく俺の名前を呼ぶんじゃねぇ!」
「コラ、口が悪いですよ! パイレーツ元親、あなたが望んだことじゃありませんか」
「望んでねえええええ! お前も呼ぶんじゃねぇ!」
もはや無駄骨である。
弄ばれている自分の状況に気づきながらもそれを見逃すことは了承の意となりそうでどうしても口が出てしまう。けれどその反論も実のところ意味のないものであった。
早く追い払わなければ精神が病む。
止まることの無い旋律もまた頭痛を招いていた。
「もーアナタとっても頑固ネ! ワタシも流石に傷つきマース! 入信を怖がるコトは無いヨ! 今日はそんなアニキに素敵なお友達を連れて来たネ!」
「友達って誰だ」
「我よ!」
響く声音。現れた姿に元親の口は壊れたカラクリの様に動いた。
「ももももも毛利!?」
「長曾我部、愛すべき隣人よ」
動揺する元親の心はその言葉で更なる打撃を受けた。
「何だって?」
よく見知ったはずの相手の口から出た〈愛〉という言葉にとてつもない違和感を感じる。
「ザビー様がそなたを見初められた。同じ瀬戸内に住まうものとして我もそなたを歓迎しよう」
氷の面と呼ばれる毛利の顔に浮かんだ極上とも言える笑みを見て元親の目は転げ落ちんばかりに見開いた。
どうやら先ほどから耳に響く旋律で鼓膜が狂ってしまったようだ。もしくは話の通じない相手との会話に気が狂ってしまったか。
憎くも好敵であるはずの相手の言動に元親の脳は混乱を極めた。
「ふふふ……そなたが混乱するのも無理はない」
元就の言葉に元親は救いを求める様にその顔を見る。何か自分が理解出来る答えをくれるだろうか。
そんな期待を込めてその目は変わり果てた旧敵を見る。
「だが愛はそれほどに素晴らしきものなのだ! 愛を知るがいい。愛は美しきものぞ」
うっとりとした顔で愛を述べる元就の姿を見て元親の心は今度こそ打ち砕かれた。
「俺はぜってぇに入らねぇぞ!」
歩み寄る信者たちとその教祖、そして幹部となった旧敵を前に元親はそう吐き捨て、背を向けた。
こうなったならば一時退却。有り体に言えば逃げるしかない。
「お待ちナサイ! パイレーツ元親!」
「ぜってぇ嫌だあああああ!」
疾風が駆け抜ける。
逃げるは鬼。追うは愛を謳う人々。
普通とは真逆の鬼遊びの行方や如何に。
荒れ狂う瀬戸内の海が穏やかさを取り戻すのはまだ先の話となりそうである。



戦煌!3にて配布したザビプチのペーパー。
ザビー教色を出したいなと思ったらアニキ入信勧誘のギャグ展開に(笑)
果たしてアニキは逃げ切れたのか…^^
ナリ様の入信を知ったらアニキはすごい衝撃を受けるんだろうなぁと思います。


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