雨の日の日常

「だ〜ッ、も〜、いきなり降ってきやがった!」
バタンとドアを閉めながらサッチが言った。
その髪はびしょびしょに濡れて、自慢のリーゼントはぐちゃぐちゃになっている。
「おい、サッチ。ここは俺の部屋だよい」
「わかってるよ」
「それならそんな格好で入ってくるんじゃないよい」
髪だけじゃない。
体全体がびっしょり濡れていた。
「別にいいだろ?文句はいきなり降ってきた雨に言ってくれ」
「自分の部屋に行けばいいことだろい」
「お前の部屋の方が近かったんだよ。それに恋人だろ?」
「……雨やんだら出て行けよい。俺はまだ仕事中なんだよい」
「冷てぇな」
そう言いながら、ごそごそと濡れた体のままクローゼットを漁り出すサッチ。
「おい、何勝手なことしてんだよい」
「このままじゃ風引いちまうだろ」
「濡れた体で人のもの触るんじゃないよい」
「じゃあ、どうしろっていうんだ?」
唇を尖らせるサッチにため息を吐きつつ、机から立ち上がる。
「俺が選んでやるから待ってろい」
そう言って、とりあえずタオルを渡す。
「まずは体をふけよい」
「サンキュー、マルコ」
途端に顔を輝かせるサッチ。
本当に、こういうところは可愛いんだけどねい。

「ほらよい」
「ん、ありがとう」
着替えを受け取り、早速、自分の濡れた服を脱ぎ、着替えだすサッチ。
「……マルコ着替えづらいんだけど」
その様子をじっと見る俺にサッチが言った。
「俺はかまわねぇよい」
「俺はかまうんです」
「全部見せ合ってる仲じゃねぇか」
「そうだけど、あらためて着替えを凝視されると恥ずい」
「……仕方ないねい」
ちょっと不満だったが、どうせ見ようと思えばいつでも見れるものなので、くるりと後を向いて、そのまま途中だった仕事の続きを再開する。
カリカリカリ……
「なぁ、マルコ」
休まずペンを走らせているとサッチが声をかけてきた。
「なんだい?」
「仕事ってまだ終わらねぇの?」
「どうした?」
「いや、どうせならかまって欲しいな〜って」
「無理だよい」
「ケチ!」
「お前が勝手に入ってきたんだろい。そこら辺の本でも読んでろい」
「え〜、お前の持ってる本って難しいやつばっかじゃねぇか」
「じゃあ、出て行けよい」
「また俺に濡れろって?恋人失格だぞ」
「……何度も言うが俺は仕事中なんだよい。お前、俺の邪魔をしたいのかい?」
「……」
俺の言葉にようやく黙るサッチ。
俺だって本当はかまってやりたい。
だけどこの仕事は早くに終わらせてしまわなければならないのだ。
さぞ、サッチの目には俺が冷たく映っていることだろう。
不本意なことに心の中でため息を吐く。
「……わかった、大人しくしてる」
そう言うと、サッチは適当な本を取り出してベッドに転がった。
その姿を目の端に捕らえつつも、止まっていたペンを再び走らせた。



「おい、サッチ……」
ようやく仕事が終わり、退屈しているだろうサッチに声をかける。
だが、サッチの姿を見て言葉をつぐんだ。
見ればスースーと寝息を立てている。
「……はぁ、まったく」
ため息を吐いたものの、可愛らしい寝顔に頬が緩む。
仕事が忙しくて冷たくしてしまったが、こうして恋人がそばにいるということは素直に嬉しい。
それもこんなに無防備な姿を見せられれば尚更だ。
足元に投げ出された布団を手に取ると、その体にそっとかぶせてやった。
そしてその寝顔をじっと見ながら考える。
手を伸ばし、かぶせた布団を再び持ち上げるとその腕の隙間に自分の体を納めた。
起きたらサッチはどんな反応をするだろうか。
その時のことを想像して、笑みをこぼしながら温かい感触と共に瞳を閉じた。


(やべ、寝ちまった!)
(ん……)
(っ、マルコ!?)
(……ああ、起きたのかい?)
(お前なんで一緒に・・・)
(……いいから、もう少し寝てろい)



タイトルがあまり活かされていない気がする。
とにかく微笑ましい二人が書きたかったんです。
書けてるかどうかは別として!
ちなみに体が濡れてしまってマルコに服を借りたサッチは当然パンツまでマルコのものをはきました。
……どうでもいいことですね。
でも下着まで恋人のものを身に着けるとかいいと思う。


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