結局のところ

いい加減、顔上げろよな。

声をかけて部屋に入ったのにも関わらず、俺の視線の先にはもくもくと本を読みふけっているマルコの姿。
せっかくの上陸だってのに、ずっと本に夢中になっている。
「……なあ、マルコ。どっか出掛けねぇ?」
「……」
「せっかく久々の上陸なんだからさー」
「……」
「なぁ、マル「うるせぇな。そんなに出掛けたきゃ一人で行ってこいよい」
すぐこれだ。
集中している時はテコでも動かねぇ。
何がそんなにおもしろいんだか。
何事もなかったかのようにまた本をを見つめているマルコを睨みつける。
俺のこともそれくらいもっと見てくれたらいいのに。
一人で行けと言うが、それでは意味が無い。
マルコが一緒でなければ。
つまり俺はデートがしたいのだ。
デートが。
そこのところをわかっているのだろうか。

せめてもの抵抗で部屋の中をうろうろしたり、マルコの私物を弄ったりするがまるで反応がない。
こいつマジで本しか見えてないな。
机の上にはまだまだ本が乗せられている。
おそらくこれ全部を読んでしまうつもりなのだろう。
これじゃ、出掛けるのは本当に無理そうだ。

「あ〜あ」
ボスッと音を立ててマルコのベッドにダイブする。
そのまま枕を抱いてベッドの上をゴロゴロと転がる。
どうせ俺のことなんか見えてないんだからこれくらいいいだろう。
今度は抱きしめた枕に顔を埋めてみる。
……マルコの香りがすんな。
いい匂いとはお世辞にも言えない気がするが、馴染み深いこの匂いはどこか安心する。
枕から顔を上げてちらりとマルコを見るが、その顔は相変わらず、本の方を向いている。
俺はなんでこいつのこと好きになったんだろうか。
不意にそんな考えが俺の頭をよぎったけれどもそんなこと考えたってしょうがない。
好きなものは好きなのだ。
ちょっとでもいいからこっち向いてくんねぇかなぁ。
そんなことを思っても無駄なことはわかっていたが、それでもほんの少しの期待を込めてマルコを見つめる。
本に集中しているその顔はいつもより眉間の皺が一本多い。
そんなに真剣に見なくてもいいだろうによ。
ていうか、眉間以外の皺もなんだか増えたか?
そりゃ、俺らもそこそこいい歳だしな。
心は若いけどよ。
あれっ?こんなこと考えている時点でもう歳か?
んー、どうでもいいか。
でも目は相変わらず眠たそうな目ぇしているよな。
唇は分厚いし。
でも触れると柔らけぇんだよな。

……ちょっとキスしたくなったかも。
そのままマルコの唇をじぃっと見ていると、なんだか視線を感じた。
目線を少し上げてみると、本ばかりを見ていたマルコが俺のほうを向いていた。
俺も目線を上げたため、ばっちりと目が合う。
「……」
「なに見てんだよい」
黙ったままの俺にマルコが口を開いた。
「見てたら悪いか?」
「落ち着かないんだよい」
「ずっと夢中になってたくせに」
渋い顔でマルコ見る。
「そういう風に見えてたのかい」
ハァとため息をついてパタンと本を閉じてしまう。
しおりも挟まないで閉じちまっていいのか?
ていうか、もう読まないのかよ?
不可解なマルコの行動に眉をひそめるがふとあることに気がついた。
その事実に驚いてマルコを見る。
「……気がついたかよい」
見ればばつが悪そうな顔をしたマルコがいた。
確かに俺が部屋に来てからもマルコはずっと本ばかりを見ていた。
声をかけても、好き勝手していても、ずっと本を見ていた。
そう、見ていただけだ。
部屋に入ってから大分経つというのにその本のページは一度もめくられてはいなかった。
「なんだよい、その顔は」
「え?」
「ニタニタと気持ち悪いよい」
どうやら俺の顔は相当緩みきっているらしい。
「だって、なぁ?」
嬉しいだろ、やっぱり。
「……行くよい」
笑顔を浮かべたままマルコを見ていると、突如ずっと手にしていた本を机に置き、椅子から立ち上がった。
「どこに?」
わかっていたけれど、そしらぬ顔で聞いてみる。
ちょっとした意地悪だ。
「出掛けるんだろい」
これまた不機嫌そうな声。
わかりやす過ぎる反応にまた笑みがこぼれる。
「本はいいのか?」
「何が言いたいんだい?」
「いや、なんでも」
「なら聞くなよい」
「へいへい」
適当に返事をしながらマルコの腕に抱きつく。
「あっ、おい!」
「いいじゃん♪いいじゃん♪」
怒った声を上げながらも、決してその手を振り払ったりはしない。
なんだかんだ言ってても、結局は優しいのだ、こいつは。
その証拠に“一人で行ってこい”と言ってたくせに、その日だけでなく停泊中の間ずっとマルコは俺に付き合ってくれた。


(なぁ、次はどこ行く?)
(まだ回る気かい)
(だめか?)
(……はぁ。もういいからさっさと決めろい)
(おう!)



結局、何が書きたかったんだっけ?
よくわからなくなった。
マルコのベッドでゴロゴロしてみたいと思ったのは確か。
うん、どうでもいいな。
後、マルコの眉間の皺が一本多かったのは本ではなく、サッチが気になってしょうがなかったからです。
見てないけど、見てるみたいなね。
どうでもいい設定でした☆


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