隙間無しの愛

「じゃあ俺は宿とって来るからよい。適当に飲んどけよい」
「ああ」
待つように言われた店は少し古びていて、サッチ以外の客はいなかった。
店主は無口で会話はなかったが、それでも置いてある酒は美味かった。
「ねぇ、今晩どう?」
「ん?」
いつの間にか女が現れ、酒を飲んでいるサッチの隣に腰かけた。
見れば明らかに娼婦の格好である。
「いや、連れがいるから」
サッチはすぐにその誘いを断った。
だが、女は諦めない。
「彼にも他の子を用意してあげるから」
「ダメだ!」
女のとんでもない提案にサッチは思わず声を荒げた。
「あら、もしかしてそういう関係なの?」
「あっ、いや……」
図星を指されて気まずくなる。
サッチが次の言葉を続けられずにいると女の方から問い掛けてきた。
「ふぅん。ねぇ、どっちが抱いてるの?」
「なっ!」
女のさらなるとんでもない発言にサッチは目を見開いた。
だが、すぐに挙動不審に目が泳ぐ。
すると女性はクスクスと笑い出した。
「あなたが抱かれてるのね」
面白そうに赤くなったサッチを見る。
「男の人なのにね」
「……しょうがねぇだろ。あいつが相手なんだから」
「あら、好きで抱かれてるんじゃないの?」
「あっ、いやっ……好きだけど……」
どもるサッチに女が手を伸ばす。
「フフッ、そうよね。好きな相手でもたまには抱かれるだけじゃなくて、抱きたくなるんでしょう?……男だもの」
女の手がサッチの足をさする。
「ねぇ、私を抱いてみない?今日じゃなくてもいいわ。今日は彼の目もあるでしょうし、だからまたこっそり会わない?」
“抱きたいんでしょ?”
そう言って、女はサッチに擦り寄った。
その言葉に、サッチの手が女の体に伸びる。
嬉しそうに女は笑ったが、サッチはその体を押し返した。
「いい、遠慮する」
「どうして?ああ、彼が怖いの?大丈夫よ、ばれなければ」
尚も女は擦り寄るが、サッチはそれを払いのけた。
「違う。俺にはあいつだけなんだ。確かに男としてはあれだし、ヤられるのはすげぇ痛かったりするけど、でも俺は……俺はあいつじゃないと……」
搾り出すように言葉を口にする。
あまりに必死な様子に女も顔を顰める。

「またせたな」

「ッ、マルコ!?」
「あら」
またも流れた気まずい空気に割って入ったのは話題の男。
マルコは驚く二人を余所に店主に向かって声を掛けた。
「おい店主、こいつが飲んだ酒代だい」
そう言って、ばさりと明らかに多い札束を放り投げるマルコ。
そして驚いたままのサッチへと向き直り、言った。
「行くぞい」
「えっ、行くのかよ?飲むのは……」
「止めだい」
サッチの腕を掴み、無理矢理立たせるマルコ。
その目が女の方へ向く。
「おい、女」
「何かしら」
「人のもんに手ぇ出そうとしてんじゃねぇよい。こいつは俺のだよい」
次の瞬間サッチの腕が引かれ、近寄った唇をマルコが塞いだ。
「ん!……んん……う、はぁ……」
いきなりのそれにサッチの息が上がる。
「エロいな」
垂れる唾液をマルコの指が拭い取る。
一瞬サッチはぼうっとなったがすぐに我に返った。
「おい!いきなり何して……むぐっ!」
文句を言うサッチを自分の胸に押し付けて黙らせるマルコ。
そうして女の方に目を向けて言い放つ。
「悪いがこいつを満足させられんのは俺だけなんでねい。てめぇ相手に勃ちやしねぇよい。それ以前にてめぇにこいつは釣り合わねぇよい」
「ひどい言いようね」
「泥棒狐には丁度いいだろい」
勝ち誇ったようにマルコは言った。
「ん……ぶはっ!マルコ、お前何すんだよ!」
緩んだマルコの腕を押しのけてサッチが顔を上げる。
そんなサッチにマルコは平然と言葉を述べる。
「いいからお前は先に宿行ってろい。すぐそこの青い屋根したホテルだ。俺も後から行く」
マルコのいきなりの行動に文句を言いたいサッチだったが有無を言わさない態度に大人しく従った。

「先に帰らしてよかったの?もしかして、あなたが彼の代わりに相手してくれるの?」
残ったマルコにわざとらしく女が問う。
「ふざけたことぬかしてんじゃねぇよい。てめぇみたいな女、願い下げだよい」
「そう」
「今回は見逃してやるけどよい。もしここにいる間に同じようなことをしてみろい、女だろうがただじゃおかないよい。同業者にもよく言い聞かせとくんだねい」
「それを言いたかっただけ?なら、ささっと行って頂戴。言われなくったってもう手は出さないわ」
「そうしてくれると有難いねい」
「でもいずれ愛想つかされるわよ。あんな態度じゃね。もうちょっと労わってあげたら?」
“あなたやりたい放題じゃない”
女は言った。
「愛想つかされる?ハハッ、そりゃないよい」
「そうかしら?」
「ふん、てめぇも聞いてたろい。あいつは俺にぞっこんなんだよい」
「……」
「選んだ相手が悪かったな。今夜は一人で過ごすんだねい」
最後にそう言って、それ以上は女に見向きもせず、マルコは愛しい恋人の下へと足を向けた。

「……本当にむかつく男」

たった一人店に残された女の呟きは誰に届くこともなく、宙に散った。


(……マルコ)
(待たせたねい。女ならまだ酒場にいると思うよい?)
(え?)
(抱かれるのが嫌なら行ってもいいんだよい)
(なっ!マルコ、俺は……!)
(わかってるよい。お前は俺のだ。言ったろい?)



女性相手に暴言吐くマルコが書きたかった。
マルコは意外と早く戻ってきていてて、二人の会話を終始聞いていました。
14のマルコがサッチにあれこれで出来ちゃうのはサッチが自分のこと好きだという過信とも言える確信があるからなんです。
今は甘い雰囲気を堪能してればいいよサッチ。
今回はちょっと若目の14を意識しました。
マルコはこれからサッチのために雷が鳴るたび抱いてあげればいいさ!


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