Become a daddy and a mom!

「おい、マルコあれ……」
そうマルコに囁きかけるサッチ。
なんだろうかとサッチが指差した方向を見れば、小さな女の子が一人、辺りをきょろきょろしながら歩いている。
マルコは目を見張った。
今回上陸したこの街は比較的治安がよく、穏やかなところだが、それでも中心地から離れると怪しげな店の立ち並ぶ通りもある。
ここはそういうところだ。
そんなところに女の子が一人歩いているというのは驚くべきことだ。
「声かけてみようぜ」
そう言って女の子の元に歩き出すサッチ。
マルコもその後を追う。

「こんなところでなにしてるんだ?もしかして迷子なのか?」
いきなりサッチに声をかけられ、明らかに驚いた様子を見せる女の子。
「あ〜、大丈夫。お兄さん、怪しい人じゃないから」
ニコッと笑って見せるサッチ。
「十分怪しいだろい、リーゼントのおっさんなんて。自分でお兄さんとかずうずうしいんだよい」
追いついたマルコが呆れ顔で言う。
「なんだと!それならマルコの方が十分怪しいだろ。なんたってパイナップルなんだから」
「失礼なこと言ってんじゃないよい」
「イダダダ……」
サッチの頬をつねるマルコ。
「……迷子じゃないよ」
女の子が口を開いた。
マルコとサッチは慌てて女の方を見る。
危うくその存在を忘れるところだった。
「じゃあ、なんで一人でこんなところにいるんだ。……えーっと、名前聞いてもいいかな?」
サッチが女の子に尋ねる。
「うん。リナだよ」
「そっか、リナはどうしてここに?どこか遊びに行くとことか?ここは危ないぞ?」
「ううん、家出してきたの!」
「へぇ〜、そっかぁ。って、家出!?」
「うん!」
元気よくうなずく女の子。
「だってリナのパパもママもひどいんだよ。今日はみんなでお出かけしようって約束してたのに急にだめになったって……」
しゅんとした顔をしてうなだれる。
「いや、でもパパとママにも事情があるんだろうし……落ち込むなよ、なっ!」
サッチが慰める。
「リナよりも大事な用って?」
哀しげな瞳で見上げられる。
「いや、それはわかんねぇけど……」
「きっと二人ともリナのこと嫌いになっちゃったんだ」
「そんなことないって」
慌てて、フォローする。
泣き出しそうな顔をする女の子を見て、サッチは必死だった。
「ねぇ、二人が私のパパとママになって!」
なんとか宥めようとサッチが色々話しかけていると、女の子が突然言い出した。
「ええ!?」
「だめ?」
ウルウルとした目でじっと訴えかけられる。
「いいとも!」
あまりの愛しさに女の子をぎゅっと抱きしめるサッチ。
「アホか!」
ドカッとマルコに一蹴り食らう。
「いってぇ!」
「何を勝手に了承してんだよい」
「別にいいじゃないか」
「いいわけあるかい」
「でもこのまま放っとくのも可哀相だぜ?ここいらはちょっと危ないし」
「……」
確かにサッチの言うとおりだった。
ここはこんな女の子が一人で歩いていてもいいような場所ではない。
このまま放っておけば、どうなってしまうかわからない。
「なんにせよ、声もかけてしまったわけだし、とりあえず連れて行こうぜ」
「……わかったよい」
サッチの言葉にしぶしぶマルコは頷いた。



「……で、拾ってきたのか」
呆れ顔でビスタが言う。
「流石に幼児誘拐はまずいんじゃないか?」
ジョズは本気で心配している。
「犯罪だな」
エースが言った。
「ちげぇよ!どうせこの近くに暮らしてるみたいだし、今日一日だけ遊んでやることにしたんだよ!」
「そんなこと言って、マルコとの子供が欲しかったんじゃねぇの?」
「ガキなんていらねぇよい」
憮然としてマルコが言い返す。
「そんな寂しいこと言うなよマルコ。俺とお前の子なら絶対いい子になるに決まってるんだから。でも、だからって人様の子供を勝手に自分の子供になんかしないぞ」
サッチが踏ん反り返りながら言う。
「いや、そもそもお前ら男同士だからね」
すかさず、エースが突っ込みを入れる。
「ところで、どっちがパパでどっちがママなのかな?」
ビスタがしゃがみ込み、ニッコリ笑いながら女の子に聞いた。
「どっちがどっちとかあるのか?」
首をひねるエース。
「そういや、それ聞いてなかったな」
サッチがうんうん頷く。
「俺たちはどっちも男だろい!」
マルコが叫ぶ。
だが、女の子はなんとも無邪気だった。
「あのね!こっちがパパで、こっちがママ!」
そう言うと、笑顔を浮かべながら、それぞれを指差した。
「お!」
「なッ!」
指をさされて、サッチとマルコが声をあげる。
「なるほど、サッチがパパで、マルコがママか」
「うん!」
にこやかに会話をするビスタと女の子。
「なんでだよい!」
マルコが再び叫ぶ。
「ちなみにどうしてそうなのか聞いてもいいかな?」
ビスタが女の子に聞くと、
「だってね、パパがママにキスしてたから」
「はぁ!?」
マルコが素っ頓狂な声を上げる。
「どういうことだい?」
ビスタがさらに尋ねる。
女の子はそれに対して無邪気に答えた。
「だってキスするのは愛し合ってるからなんでしょ?ママそう言ってたもん。それにキスはいつもパパからママにしてるもん」
この場合のママ、パパとはどうやら自分の両親のことらしい。
「ありゃ、あれ見られてたのか」
「サッチ〜!」
マルコは怒り心頭である。
「なんだよ、実際お前が女役なのは本当のこと……ぐはッ!」
得意げに言うサッチにマルコの蹴りが跳ぶ。
「お前ら、外でもそんなことしてんのかよ」
そんなマルコとサッチの様子を見ながらため息を吐くエース。
だが、二人ともそんな言葉は耳に入っていないようだった。
サッチは怒ったマルコに締め上げられている。
「パパをいじめちゃだめ!」
両手を広げて女の子がサッチを庇った。
ビタッ
再び、蹴ろうとしていたマルコの足が空中で止まる。
「うわ〜、やさしいな〜、リナは」
ニコニコ笑うサッチ。
そんなサッチを見て憎憎しげに思いながらも手を出せないマルコ。この場合は足だが。
「パパもごめんなさいして」
サッチを振り返り女の子が言う。
「え?」
「ママが怒ったのはパパのせいでしょ?」
腰に両手をついてお説教モードの女の子。
「……」
「出来ないの?」
困ったような顔を向けられてしまうと何も言えない。
「……ごめんなさい」
「私じゃなくて、ママに!」
怒る女の子。
「……マルコ、悪かった」
「……別にいいよい」
二人ともなんとも複雑な顔で互いを見る。
言い合いなんて日常のことなので、こんなこと別にたいしたことはないのだが、こう真正面からしかられてしまうとなんともばつが悪い。
しかも相手は小さな女の子だ。
「よく出来ました!」
にっこり笑顔を浮かべる女の子。
「えらいな〜、注意できて」
エースがよしよしとその頭を撫でる。
「リナのパパとママもね、よく喧嘩するの。だからいっつもリナ止めてあげるんだ」
誇らしげに言う。
「そっか、ホントえらいな〜」
エースもニコニコだ。
「おい、エース俺らの子だぞ」
サッチが文句を言う。
「誰らの子だい」
そんなサッチにしかめっ面を向けるマルコ。
「今日一日は俺らの子だろ?なぁリナ」
「うん!」
「俺は認めねぇよい」
ママだなんて冗談じゃない。
「一日くらいいいじゃねぇか」
「お断りだよい。母親役ならナースにでも頼めよい」
そう言って、立ち去ろうとするが、
「リナのママになるのそんなに嫌?」
振り返れば、哀しげな表情の女の子。
今にも泣きそうだ。
「……そんなには嫌じゃねぇよい」
「本当!」
「……ああ」
しぶしぶだが泣かれては困るので返事を返すマルコ。
「嬉しい!」
ギュッとマルコに抱きつく女の子。
「なぁなぁ、リナ。俺には?」
サッチが自分を指差しながら女の子に尋ねる。
「パパはリナとママを一緒にぎゅーってするんだよ」
女の子が答える。
「そっか〜。それじゃ、ぎゅー」
その言葉にマルコごと女の子を抱きしめるサッチ。
「ちょっと、やめろい!」
バタバタともがくマルコ。
だが、サッチは止めない。
それどころかさらに腕を締め付けている。
「ところでリナ、俺たちとも遊ばねぇ?」
あまりにもマルコが可哀相になったのか、エースが助け舟を出す。
「遊ぶ!」
サッチの腕の中から顔を出し、女の子が答える。
「リナ〜、パパは〜?」
サッチが寂しげな顔をする。
「パパも!」
元気よく女の子が答える。
「なぁ、ママも一緒に遊ぶだろう?」
笑いを堪えながら、エースがマルコに尋ねる。
「エース、お前……」
明らかにからかった様子のエースにマルコの眉がつり上がる。
「遊んでくれるよね?」
女の子が不安げにマルコを見上げた。
「……もちろんだよい」
マルコは心の中でため息を吐いた。
それから、みんなで船の中をあちこち見て回ったり、マストの上まで登ってみたり、他の船員たちも交えてゲームをしてみたり、その日、一日中たっぷりと遊んだ。



「よし、リナ。もう降りろ」
さきほどから肩車していた女の子を降ろすサッチ。
「ええ〜、もう終わり?」
不満げな女の子。
「だって、もう、帰らなきゃいけないだろう?」
そう言って女の子を見るサッチ。
「……」
「リナがこのまま俺たちの子供でいてくれたら、そりゃ楽しいし、嬉しいけど、本当のパパとママが可哀相だろう?」
「……」
「本当に、本当のパパとママのことが嫌いなわけじゃないんだろう?」
「……うん」
ゆっくりと頷く女の子。
「よし、それじゃあ帰ろうか」
サッチは女の子の頭を優しく撫でると、家の場所を聞き出し、マルコと一緒に女の子を家まで送ることにした。

「……ねぇ」
歩いているとサッチの服の裾を女の子が掴んだ。
「どうした?」
「手ぇ繋いで帰りたい」
女の子が呟いた。
「そうだな。繋いで帰ろうか」
サッチが女の子の手をそっと握る。
「ママも」
女の子がマルコを見上げる。
「……わかったよい」
サッチと繋いでいるのとは反対側の手をマルコが握る。
そして再び三人で歩き出した。

女の子の家では母親が心配しながら、帰りの遅い女の子を待っていた。
事情を説明して女の子を渡すと、その体を抱きしめ、感謝の言葉をのべられた。
そうしているうちに女の子の父親も帰ってきて、またお礼を言われた。
父親も優しそうで、母親に抱かれた女の子を優しく撫でていた。
「それじゃ、俺ら帰りますんで」
「失礼します」
そう言って、女の子の家を後にして、船の泊めてある港へと歩き出す二人。
「パパ、ママ、ありがとう!!」
振り返れば、女の子がニコニコしながら手を振っていた。
傍にいる父親と母親はその言葉に不思議そうに首をかしげている。
そんな様子を見て、二人して笑みをこぼす。
女の子に手を振りかえし、再びマルコとサッチは自分たちの家族が待つ船へと歩き出した。


(なぁ、マルコって卵産めねぇの?)
(何バカなこと言ってんだい)
(だよな〜)
(……)
(あれっ?殴ったり、蹴ったり、しないんだな。もしかしてマルコも子供欲しかった?産む?)
(……殴って欲しいなら、そうしてやるよい)
(いや、うそうそ、ゴメンナサイ!)



『Become a daddy and a mom!』→『パパとママになって!』です。
上手いタイトルが思い浮かばなかったので、英語にしてみました。
ギャグっぽいのが書きたかったはずなんだけど、なんかグタグタになった。
後、『マルコって卵産めねぇの?』ってセリフがちょっと書いてみたかったっていうのがあります。
もし産めたらきっと可愛い子が生まれるに違いない。
不死鳥卵ってどんなのだろう。


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