スターダストロマンス

月も無い夜はただただ暗くて恐ろしかった。
陸でもない海はその身を呑み込んでしまいそうに真っ黒く揺れていたから尚更だ。
けれどそれが違うということを教えてくれたのはあいつだった。
真っ暗な空を指差して“綺麗だろ”と言う。
恐る恐る見た空には星があった。
はじめは大きな星しかわからなかった。
けれどそいつと並んで空をじっと見つめていると一つ、二つ、無数の星屑が視界に現れた。
波打つ海の飛沫の様に真っ暗な空の海に散る星屑。
恐ろしかった夜空は輝く銀河に変わった――。



「綺麗だな」
隣でサッチが呟く。
「相変わらず星が好きだねい」
小さい頃の思い出を思い出し、サッチの言葉に相槌を打つが一瞬きょとんとしたサッチは笑って言った。
「違うよ」
何がおかしいのかと若干眉を寄せるがサッチは気にもせずそれどころか穏やかな眼差しで自分のことを見つめた。
「お前が」
意味がわからなくてしばし呆然とした。
「青い炎は夜に映えるな」
サッチは不死鳥であるこの炎が好きだった。
暗い夜空。
綺麗な星空は暗い世界でこそより輝くが手元の酒を開けるために今は炎を灯していた。
能力の使い方としてはお粗末かもしれなかったが便利なのだから仕方がない。
暗い中、ちらちらと揺れる翼型の青い炎は熱も持たず、温かみも感じられず、どちらかというと自分の中では冷たい寂しい印象だった。
何度も蘇る体は人とはもはや程遠い。
誰かが言ってきた言葉だ。事実その通りだった。
守る力を得るために失った物、また奪う物がある。
後悔が無いとは言わないがそれでも自分の選んだことであり、いまやこの能力は自身の一部である。恐ろしいことは無い。
けれどやはり人が言う様に美しいものだとも思えなかった。
青く冷たい炎。
けれどサッチの手は触れられもしないのにそれを撫ぜるように宙を揺れる。
「温かいな」
触れるその手は炎を通り抜け、手の平を握り締める。
普通に考えたら体温のことだろう。
けれどサッチは手の平に纏う青い炎を見ているようだった。
「錯覚だよい」
「錯覚じゃねぇよ、温かい」
唇が甲に触れる。
サッチの顔は青い炎に埋もれていた。
「俺にとっては温かい」
静かに微笑む顔は穏やかでそして優しい眼差しをしていた。
「お前がどう思おうと誰がどう感じようと俺には温かいよ」
サッチの両腕が伸びて自分の体を抱き締める。
「それじゃあ、ダメか?」

温かい。

抱かれる熱と言葉が胸に染み込んでじわりじわりと温まる。
抱かれる肩越しに真っ暗な空を見上げれば輝く星があって、それを透かすように自身の青い炎があった。
「……十分だねい」
そんな言葉が零れた。
再び目を合わせたサッチが嬉しそうに笑う。

真っ暗な夜空に輝く星屑たち。
キラキラ夜空を彩って真っ暗な世界に光を落とす。
零れる光を受け取って細やかに酌み交わす酒は特別な味。
自然と重なる手の平に笑みが零れた。


(甘く輝く星屑銀河)



空を見たら月は無く暗いけれど代わりに星屑が満面に輝いていたので。
モビーのように海の上だともっと星が降る様に輝いているんだろうなぁと思うとわくわくします。
まったりした静かな夜もいい…。


[ 7/23 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -