一番乗り手

そいつはその日一番を取るためにいつも夜に訪れる。
「お疲れさま」
未だ机に向かう自分に差し出されるのは程良い温かさを持ったホットミルク。
もうそろそろ仕事は終えろということだろう。
素直にペンを置いて礼を言い、カップに口づける。
湯気とともに甘い香りが鼻から入って中身を飲み込むと口の中にもそれが広がった。
わずかに蜂蜜の入ったそれはじわりと内側から体を温めてくれる。
「美味しい?」
問いかける顔はじぃっと俺を見ていて頷くとそれは柔らかく笑った。
目尻に浮かび上がる小皺が年を感じさせてこいつともずいぶん長い付き合いになるのだなと不意に思う。
「温まるだろう」
「ああ」
短い返事を返し、また一つ頷くとくしゃくしゃと頭が撫でられる。
決して不快ではない行為だが乱された髪に形ばかりの抗議として相手の髪も崩してやる。
風呂から上がって間もないだろう髪はまだ濡れていて、床に滴が落ちた。
「ちゃんと拭いとけよい」
「拭いたって。気になるなら後はマルコが拭いてよ」
ほら、と肩に掛けていたタオルを渡して寄越す。
なんで自分がと思ったが頭を下げ、濡れた髪を寄越す姿にまぁいいかと手をかける。
タオル越しに少し硬めの髪の感触がわかる。
湿っていくタオルを真上から軽く匂うと当たり前だが洗いたての髪の香りがした。
「ほら終わりだよい」
「んー……」
終わったのにも関わらずどこか名残惜しげに顔を上げないサッチ。
いい加減起きたらどうだとその頭に手をかけようとした瞬間あべこべに自らの首に手がかけられる。
「ひひっ。ちゅーってな」
引き下ろされた顔が見たのはようやく首を上げたサッチの顔で、まもなく互いの口が付く。
触れた唇は風呂上りのせいかいつもよりしっとりと温い。
「何すんだよい」
「なぁなぁ、マルコもちゅうして」
少し不機嫌っぽく言ってみても目の前の相手は笑っているばかりで……。
「くだらねぇ」
溜め息が一つ。
「あー、ひでぇの」
拗ねたように唇を突き出すサッチだけれども本気ではない。
それは先ほどの言葉がまた自分の本心ではないと気づいているからだろう。
人目があれば照れを見せていたかもしれない行為も二人きりのこの空間ではあまり意味をなさない。
好意を受けるのはもはや当たり前だから。
「寝ようか?」
サッチの言葉が緩やかに響いて誘われるままに椅子から立ち上がった。
おいでおいでと招く手に引き寄せられ、隣を空けられたベッドへと潜り込む。
「温かいな」
言葉と共にぎゅっと体を抱き締められる。
抱き寄せる腕に互いの体は密着し、少々冷えてきた気候には有難い熱を生む。
風呂上りのサッチはそうでなくとも温かくて、すぐに心地よい睡魔が顔を覗かせる。
目を閉じればすぐにでも夢の国へと俺を連れて行ってくれるだろう。
「なぁ、マルコ」
「んー……?」
もう半分くらい夢の中を彷徨っていると優しいサッチの声がふわふわと降ってきた。
「お誕生日おめでとう」
ゆっくりと刻まれる祝いの言葉。
「……ありがとよい」
今年もまた一番に聞けた。
心地よい空間に優しく投げられた祝福の言葉に頬が緩む。
「明日の朝ご飯にはケーキ食べような」
「よい……」
額に柔らかいキスが落ちる。
そのまま意識も暗がりに落として。
朝目覚めた時にはきっと最高の一日が待っているだろう。


(Happy birthday Marco!☆)



遅くなりましたがマルコ誕です!
ほのぼの甘いの!
毎年サッチが一番乗りに祝福の言葉を告げていたらいいなぁとか。
イチャエロもいいけれどただほんわか二人でしててもいいなとか!
とりあえずいちゃついててください!
おめでとうマルコ!


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