変わらぬ想い

夜が明けた。
窓から射しこむ日の光がベッドにある体を優しく包み込む。
とても穏やかな朝。


「長くなったよねい」
「ん?」
聞こえた呟きに窓に向けていた目を引き戻すと隣で寝ていたやつが眼を開けていた。
何のことだろうかと屈んで聞こうとすると、横たわる体から手が伸ばされた。
手は俺の頭部に触れ、流れるように髪を梳く。
「ああ、まぁな」
髪のことだったのか。
納得して目を閉じ、触れる手に身を任せた。
「よく伸ばしたよねい。邪魔じゃないのかい?」
「別に」
「そうかい」
何度も滑る指先。
とても心地がいい。
「昔はあんなツンツンだったのにねい」
閉じた瞼の向こうにクスクスと笑う顔が見える。
「いっつも変な頭にして、だから伸ばしたのかい?」
頬を掻く指先にそっと目を開ければその顔はやはり笑っていた。
「さあ、どうかな?」
「違うのかい?」
「そうだな」
意外そうな顔。
でもあの髪型は俺のポリシーだが髪を伸ばした理由とは直接関係がない。
「じゃあ、なんで?」
「特別な理由はないよ」
「ふぅん」
会話する間もマルコの指先は俺の髪に絡められる。
すると何を思ったのか絡めた髪にマルコはそっと唇をつけた。
「……綺麗だよねい」
ふっと微笑む顔。

こんなことが前にもあった。
そうずっと昔の話。
付き合うどころかまだ大人にもなってない子供の頃の話だ。



「サッチ!」
「ん……ああ、マルコか」
明るい掛け声に身を起こし、瞼をこする。
「あ、邪魔しちゃったかい?」
「あーいい、いい。ちょっと転寝してただけだから。どうした?」
「これオヤジがくれたんだよい!」
嬉しそうにマルコが差し出したものを見る。
「……ブラシ?」
なんだか意外で呟いた。
「うん!それでどうせだからサッチにしてもらえって」
「俺に?」
わからず首をかしげているとマルコは慌てたように説明を始めた。
「ほら!俺不死鳥だろい?この間から羽が抜けて大変なんだよい」
そういえばみっともないくらい羽が抜け落ちて泣きそうになってたな。
生え変わりってことを知らなくて禿げるかもしれないって。
慰めるのが大変だった。
「その、だからオヤジが梳いてもらえって。俺も……サッチにしてもらいたい」
「いいよ、してやる」
恥ずかしがることなんてないのにもじもじするマルコに内心笑ってそれでも快く頷いた。

「痛くないか?」
膝の上に鳥になったマルコを乗せ、一生懸命ブラシを動かす。
「うん、大丈夫よい。サッチは本当に器用だねい」
「そっか?へへっ」
褒められて嬉しくなりブラシを握る手により一層力を込めた。
「それ気持ちい」
空いた手で首の方を掻いてやるとうっとりとした声が聞こえる。
得意になって全身がつやつやになるまで手を動かし続けた。

「ありがとうねい」
最後にぶるぶるっと体を震わせて鳥目を細めて満足気に笑った。
「へへっ、どういたしまして。でもホント綺麗だよなぁ」
梳き終えた青い体を優しく撫でる。
ふわふわしてて雲みたいだ。
「サッチも綺麗よい」
撫でているとマルコが思いがけないことを言った。
「え、俺が?冗談だろ?」
笑って返す。
この綺麗な羽に比べられるほど自分が綺麗とは思えなかった。
「冗談なんかじゃないよい!」
ドンッ
「うわっ!?」
「あ、ごめんよい」
いきなり人型に戻ったマルコがバランスを崩して俺の方に倒れ込んできた。
鳥の体よりも重く確かな感触になんだかドキドキした。
「ほら、やっぱり綺麗だよい」
「え……」
微笑むマルコは俺の髪を優しく撫でている。
「サッチの髪、とっても優しい色をしてるよい」
「バ、バカ言うなよ!お前の方が……!」
微笑みながらそんなことを言われて声が裏返りそうになった。
マルコは変だ。
俺の髪が綺麗だなんて。
不死鳥の時の青い羽毛も人間の時の輝く金色の髪もお前の方がずっと綺麗なのに。
「俺はサッチの髪、好きよい」
「へ?」
急にくすぐるような柔らかい感触を頭のてっぺんに受けた。
何をされたのか一瞬訳が分からなくてマルコを見つめると照れたような顔を浮かべていた。
「気持ちよさそうだったから……ごめんねい?」
「ッ////」
キスされたのだと鈍い頭が理解して顔が真っ赤になった。
「サッチ?」
「お、俺、もう行く!」
赤い顔を見られたくなくて駆け出した。
「え?ちょ、待ってよい!」
「嫌だ!」
追いかけてくるマルコの気配を感じて足を速める。
こんな顔絶対見せたくない。
「サッチ!待ってくれよい!キスしたことなら謝るよい!」
「だー!言うな!」
それでもしつこく追いかけてくる足音と叫ぶ声に耳を塞いだ。
それでも頭の中では先ほどの行為が頭から離れず、俺はマルコへの想いをこの日はっきりと意識するはめになった。



「……ッチ、サッチ?」
「……ん?ああ、なんだ?」
呼ばれていることにようやく気がついた。
「急に黙るからどうかしたかと思ったよい」
「ごめん」
そういえばあの後結局追いつかれて散々文句を言われたんだよな。
泣きそうな顔して“置いていくな”って。
本当に可愛かったよなぁ。
「ニヤニヤして気持ち悪いねい」
思い出し笑いする俺の頬をマルコが抓った。
「いだだっ!ひでぇな!」
「俺のこと無視するからだよい」
「悪かったって」
拗ねた体を抱きしめると渋い顔をしながらも抱き返してきた。
うん、今も可愛いわ。
ぬくもりと共に幸せを感じる。
「なぁ、マルコ。俺の髪好き?」
「え?」
「なぁ、好き?」
どうしてももう一度聞いてみたい。
お前のあの一言が、行動が、俺が髪を伸ばすきっかけだったと知ったらどう思うだろうか?
「……綺麗って言ったろい?好きだよい。髪だけじゃなくて全部愛してるよい」
「へ……」
予想外の言葉に言葉が上手く出なかった。
マルコを見ればようやく自分の言ったことを意識したのか段々と顔に赤みが増していく。
「や、やっぱり今の無しよい!」
「おい、マルコ!」
布団をかぶり閉じこもる相手を叩いてみるも出てこない。
「マルコってば!」
握られた布団は剥がれない。
「サッチ〜マルコ〜。朝飯!」
部屋の外からドンドンとドアを叩く弟の声が聞こえる。
「ほら、マルコ!呼ばれてるぞ!出て来い!」
「やだよい!」
「我が侭言うな!」
「な〜早く来いよ!」
「ちょっと待ってくれ!ほら、マルコ!」
「う〜」
「マルコ!」
「もう先いくぜ〜!」
とうとう諦めて去っていく足音が聞こえる。
「ああ、行っちまったか。なぁ、いい加減出て来いよ、マルコ」
「……」
「もう俺も行くからな」
そう言ってベッドを降りようとすると腰が引かれる。
見れば布団の隙間から青色の目が覗いていた。
「……置いて行く気かよい」
「お前が出てこないからだろ?」
「……」
「ほら、行くぞ」
ばつの悪そうな顔に置いていた服を投げ与える。
隠れていた体がもそもそと這い出し、服を身にまとう。
「ちゃんと着れたな」
「バカにすんない」
頭を撫でてやると不満そうに返してきた。
他愛ない言葉のやり取りをしながら食堂へと向かう。

「ああ、そうだ。言い忘れてた」
「ん?」
食堂へ向かう途中思い出してマルコの方へ向き直った。
そして首を傾げるその耳元へそっと胸に抱く言葉を告げる。

「俺も愛してるよ」


(おい、待てよ!マルコ!)
(うるさいよい!)
(お前が先に言ったんだろー?)
(言うな!恥ずかしい!)
(そんなとこも可愛いぜ?)
(なんでお前はそういうこと平気で言えるんだい!)
(そりゃあ・・・)
(やっぱりいい!言うな!)
(えー。つまんねぇの)



サッチが髪を伸ばした理由を考えた結果。
リーゼントはたまたまでも髪伸ばした理由はこういう些細なことなんじゃないかなぁと。
子サッチにとったら全然些細なことじゃないですけどね(笑)
今と昔で立場が逆ですね。
リーゼントがマルコに褒められた髪を見せつけるためのものにしか見えなくて困ってます。
(そんな主張の仕方は間違ってるよ!)
鳥マルコのブラッシングがしたいです。


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