嘘つきは嫌い

「おい、マルコ。そこら辺で止めておいたらどうだ」
「うるせぇよい」
ジョズの静止も聞かず、マルコはさらに酒を煽る。
「俺の勝手だろい。まだまだいけるよい」
そんなマルコの傍らには空になったボトルが何本も転がっている。
すでに目は虚ろで、心なしか体もふらふらしている。
「だが、「いい加減にしろ」」
ジョズの声に誰かのものが重なった。
「サッチ!よかった。こいつをなんとかしてくれ。ほら、マルコ、サッチが来たぞ」
「ああ〜、サッチィ〜?」
不快そうに顔をしかめるマルコ。
その様子をお構いなしにジョズはサッチにマルコを押し付け、自分は自室へと帰った。

「はんッ、腐れリーゼントが何しに来たんだよい」
「ひでぇいいようだな」
「ふん」
鼻で笑ってさらに酒を煽ろうとするマルコ。
それをサッチの手が止める。
「なにすんッ……んん、ぅ……ふん……」
文句を口にする唇を塞ぐ。
抵抗しようにも酒の入った体は上手く動かず、マルコはなされるがままだった。
「ふっぅ……はっ、ッやめろよい!」
ドンとマルコがサッチの胸を突き飛ばす。
「誤魔化してんじゃねぇよい!」
そう言って、睨みつける。
「誤魔化す?」
マルコの言葉に怪訝な顔を浮かべるサッチ。
「そうだよい」
「何をだよ?」
「惚けんなよい!」
「だから何を?」
サッチにはマルコが何のことを言っているのかさっぱりだった。
キョトンとしたサッチの顔を見て、マルコもようやく相手が本気で言っていることに気がつく。
そしてその事実にマルコの唇が震えた。
「まさか……覚えてもないのかい?」
「覚えて?」
未だ不思議そうな顔をするサッチにマルコの目が潤んだ。
「嘘つき」
ぽつりと呟かれた言葉。
マルコの目からじわりと涙が溢れた。
「えっ……ちょっ、マルコ!?」
サッチが驚いている間にもマルコの涙はじわじわと滲み出し、とうとうシクシクと泣き出してしまった。
「うぅっ、っ……ひっく、うっく……ぅ……」
頬を流れる涙がポタポタと甲板を濡らす。
肩を揺らし、嗚咽が漏れる。
「ええ?」
サッチには何がなんだかわからない。
その様子が更にマルコを辛くさせる。
「うっ……っふく……」
「マルコ、頼むから泣き止んでくれ!」
自分が悪いのかもわからないまま、サッチは懇願した。
「謝るから、なっ!」
「意味もわからず謝ってもらったって嬉しくないよい!」
サッチの手をマルコは振り払う。
その間にも涙は流れ、目は真っ赤になっている。
サッチは必死に頭を巡らせた。
今日は怒られるようなことは何もしていないはずだ。
「……の……る……して……」
「は?」
泣き声に混じりわずかに声が聞こえる。
けれど、よく聞き取れない。
「マルコ、もう一度!」
サッチは叫んだ。
「……」
「もう一回だけ、なっ!」
「……今日の昼間何してた」
「昼?」
昼間は確か新メニューの考案にコックたちに混じって参加していた。
マルコの好きそうな甘い料理のアイディアもあって興味津々に取り組んだのを覚えている。
「約束してたのに……」
ぽつりとマルコが言った。
その言葉にサッチがハッとした。
「お前それで怒ってたのか?ケーキなら代わりのを作ってやったろ?」
確かに島に着いたら一緒にケーキを食べに行こうとマルコを誘っていた。
けれど、コックたちに参加しないかと言われて今日は止めにしたのだ。
約束のケーキがおじゃんになれば怒るに違いないから代わりのケーキを作って。
「違うよい」
「じゃあ……」
「デートだったのによい」
「そんなこと気にしていたのか」
サッチの目が見開いた。
「そんなことって……」
マルコの目にまた涙が滲む。
「わっ、泣くなよ!?」
「ひどいよい……」
今にも涙が零れ落ちそうだ。
「ごめん、そこまで楽しみにしてくれているとは思わなかったんだよ」
「バカ、サッチ」
「ごめん」
「謝罪なんていらないよい」
「でも……」
戸惑うサッチにマルコが抱きついた。
「もっとすることがあるだろい?」
胸元に擦り寄る。
「昼間いなかった分の時間、今くれよい」
「マルコ……」
月に影が落ちる。
暗さを増した室内で行われる二人だけの行為はマルコの心を甘く溶かした。


(次嘘ついたらもう知らないからねい)
(もう懲りたよ)
(本当かねい)
(本当だよ!)
(約束だよい)



マルコに「嘘つき」と言って泣いて欲しかった。
ついでにサッチに「バカ」と言って欲しかった。
自分の欲望を詰めた小説です。
ちょっとは甘く出来たかな?


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