海軍と海賊の愛

「よう♪」
「お前……!」
「また会ったな」
掛けられた声にマルコが振り向くとそこに立っていたのは一人の男。
「お前がストーカーしてるんだろい!」
もはや見慣れてしまったその男に対し、マルコは息を吸って怒鳴りつけた。
「人聞きが悪いなぁ。俺はこの島に用事があっただけだぜ?あんたもだろ?」
「ッ……その手には乗らないよい!」
「ハハッ、つまらねぇなぁ」
鋭い鉤爪が光るのを目の端に捉え、サッチは頬に触れかけた手を止めて、素直に両腕を上げた。
「残念。後、ちょっとだったのになぁ」
「いい加減俺に付きまとうのを止めろよい」
サッチの動きを見て変身を解くマルコ。
もとより街に近いこの場所で本格的な戦闘に及ぶ気は無かった。
「気に入っちまったんだ。しょうがないだろ」
「どこがしょうがないんだよい!」
マルコは声を張り上げたがサッチは平然と返してきた。
「全部。何もかも。なぁ、これでも真剣にあんたのこと愛してるんだぜ」
「海賊風情が愛を語るんじゃないよい」
「おいおい、それは差別じゃないか?」
「だとしたら何だよい!」
一瞬の間に足が振られた。
パンッ
「相変わらず狂いの無い、いい動きだ。流石だぜ」
不意打ちには何も言わず、ただその動きを褒める。
「くっ……」
全力で振りかぶった足も片手で止められた。
足に食い込む指の強さにマルコの背にぞわりとしたものが襲う。
「でもやられたからには返さなきゃな?」
目の前の顔が嬉しそうに歪んだ。
「……やっ!」
風が吹いた。
掴まれた足からどう表現すべきかわからない闇が溢れ出し、体を這い始める。
淡い感触のみで温度の感じないそれはいっそ気持ちが悪い。
首まで浸食され、それが顎に到達しようというときマルコの唇が動いた。
「お、お前は俺が好きなんじゃないのかよい……!」
震える唇で訴えるように呟かれたそれに闇が消えた。
「うっ……!」
間髪入れず、地面へと叩き付けられる。
「伝わってなかったか?初め会った時にちゃんと言ったろう?」
「おい、何して……!」
「わかってないみたいだから教えてやるんだよ」
「やめろ!」
ちゅっ、という音がして肌蹴させられた胸に唇が落ちる。
「最初だけじゃない、俺はいつだってあんたに好意を向けていたはずだ。違うか?」
「ひっ……」
「なのにあんたはいつまで経っても受け入れようとしない。それでほんのちょっと悪戯心を起こした。それはそんなにいけないことか?」
「……やめろよい!」
悲痛な声を上げるマルコに指が止まった。
肌蹴た胸の上には赤い痕がいくつか刻まれていた。
「もう、やめろ……」
顔を覆い、肩で息をするマルコ。
唇で濡れたその肌をサッチは無造作に引き抜いた己のスカーフで拭った。
そして動かないマルコの衣服を自らの手で整え、戻した。
だがマルコの息はまだ整わない。
「なぁ、不死鳥。俺は知っているんだ。お前は恐怖するかもしれないが闇も海賊もちゃんと温かい部分を持っているんだぜ?」
崩れたマルコの前髪を掻き分け、額へとサッチは唇を落とした。
「俺に呑まれてくれよ、不死鳥。愛してるんだ」
懇願する腕に抱かれる。
そこから伝わってくるものをマルコは乱れた意識の中で感じていた。
感触だけではない、確かなもの。
合わさる胸からは必死に音を鳴らす心臓の鼓動が伝わっていた。
自分のものと競うように鳴り響く心臓。

本当はもうとっくに気づいていた。
自分がこの男を拒み続ける本当の意味を。
自身が理解できないほどに掻き乱されるのが恐ろしかったのだ。
忙しく鳴り響く心臓は日常よりも自分の体を熱していた。
そして自分を抱くこの男も熱を発している。
「愛してるんだ」
再び呟くサッチの顔を見てマルコはその言葉に嘘偽りがないことを確信した。
そんなことをしなくてもすでにそのことは知っていた。
投げ出されていたマルコの腕がゆっくりと動き、そっと男の首を抱いた。
「……不死鳥?」
不思議がるサッチにマルコの唇が触れる。
なんの言葉も音もない静かな口づけ。
「え……」
「お前の言うとおりだよい。・・・闇も悪くない、温かいよい」
自身を抱き締める体をマルコはぎゅっと抱き締め返した。
「不死鳥、本当に……」
マルコの急とも言える変化に戸惑うサッチ。
マルコはそれには応えず、ずっと気になっていたことを聞いた。
「……ところでお前さんはいつまでそうやって俺を呼び続けるつもりだい?」
マルコの問いにサッチは首を傾げた。
「想い人に語りかけるのに“あんた”だの“不死鳥”だの失礼だと思わないのかよい?・・・なぁ、サッチ?」
初めて呼びかけられた自分の名にサッチは瞳を開いた。
「呼べよい、俺の名前を」
マルコの言葉にサッチの喉が唾を飲みこむ。
震える唇が動いた。
「……マルコ」
「ああ」
「マルコ」
「ああ」
「マルコ……!」
マルコを抱き締める腕がより一層力を増す。
「……もう絶対離さねぇ」
誓いを立てる様に唇が囁いた。
「ああ、絶対に逃すなよい」
その誓いを返すようにマルコの唇もまた言葉を吐き出し、縋るその体に自らも力を込めた。


(熱伝う闇に堕つる蒼)

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