子育てしましょ♪

「お前さん誰だい?」
マルコは自室の部屋を開けて驚いた。
ベッドの上で子供が本を読んでいる。
「あっ、ごめんなさい。こんにちは」
「こんにちは」
丁寧にお辞儀をされ、ついつい自分もお辞儀を返すマルコ。
だが、すぐに我に返った。
「って、そうじゃないよい!お前さん誰だよい!」
「名前ですか?ビスタって言います」
マルコの問いに素早く答えを返す。
「へぇ、ビスタね。ビスタ。そういえばこの船にもそんなやつが……ってビスタ!?」
「はい」
マルコの眠たげな目がこれでもかと開いた。
「嘘だろい!?」
確かに黒髪でどことなく目元や口元は似ているかもしれなかったが到底信じられるものではなかった。
だって毛がないのだ。
ビスタの代名詞と言えば、あの毛だろう。
あの立派な胸毛も髭もなく、見える腕もつるつる。
目の前にいる子供は可愛らしいがいつもの姿が見慣れている分、こんな毛の無いビスタなどビスタとはマルコには認められなかった。



「ビスタ!お菓子持って来てやったぞ!」
部屋の扉が大きく開き、元気な声が響く。
「サッチ!」
「あれ?マルコ、戻ってきてたのか」
「堂々と俺の部屋に入ってくるんじゃないよい!」
「え〜、かたいこと言うなよ。俺とお前の仲だろう?」
「気持ち悪いよい」
「ひっど!」
「それより何だよい、そのお菓子は」
マルコの喉がごくりとなる。
「これはビスタのだからだめだぞ!お前のは食堂!」
お菓子を前に目の色を変えるマルコにサッチが制止をかける。
「いいじゃないかい。クッキーなんだし、ちょっとくらい……」
「だめだ!」
皿に伸びてくる手を叩き落とす。
途端マルコの表情が鋭さを増す。
思わずサッチが後ずさるほどに。
「そっ、そんな目で見たってこれはやらねぇからな!」
負けじとマルコを睨み返すサッチ。
両者の間で火花が散る。
「あの、いいですよ?」
幼い声が響いた。
「「えっ……」」
思わず二人の声が重なる。
「僕なら後でも別にかまいませんからどうぞお先に」
「いや、それはいいよい……」
クッキーはすぐにでも食べたいマルコだが流石にそれはまずいと感じた。
「そうだぞ。これはお前のために持って来たんだから遠慮すること無いぞ。こいつが節操ないのが悪いんだ」
頭をぐりぐり押さえつけるサッチにマルコは再び睨むも、強くは出れない。
確かに自分が悪い。
「気にしないで下さい。新しく取りに行きますから食堂の場所教えてください」
「いや、だからいいって」
尚も言うビスタをサッチが止めるがビスタはサッチの持つカップを指差した。
「それにそのカップの中身はココアでしょう?」
「ああ……」
「なら、どうぞ。僕は紅茶の方がいいので。だから自分で入れてきます」
そう言って立ち上がり、今にも部屋を出て行こうとする。
「ちょっと待ってよい!」
慌ててマルコが止める。
「俺がやってくるよい!」
「あれっ、お前紅茶なんて入れられたっけ?」
サッチの呟きにマルコが蹴りを入れる。
「いってぇ!」
痛みの声を上げるサッチを余計なことを言うなとマルコが睨む。
「本当のことだろうが!」
ふーふーと蹴られた足に息を吹きかけるサッチ。
「いいんですよ。遠慮せずにどうぞ」
そんな二人の様子を見ても動じず、にっこりと笑うビスタ。
「もう貰っちまえ。ビスタ分は俺が取ってくる」
サッチが諦めたように言った。
「ほら、やるよ」
手にしたクッキーをマルコに渡す。
「……それじゃ、頂くよい」
「はい」
「んじゃ、俺は食堂のクッキーとって来るわ。紅茶がいいんだよな?」
「はい。ダージリンがいいですね」
「……了解」
二人ともなんだか納得いかなかったが、マルコはクッキーを食べ始め、サッチは食堂へと向かった。
ビスタはマルコの横でまた読書を再開した。

サッチがクッキーと紅茶を持ってきてもビスタの丁寧な対応は変わらず、子供相手なのに二人は居心地の悪さを隠せなかった。
さらにそれを見破ったビスタが自分のことは気にしなくてもいいと言ったが一人にするわけにもいかず、ビスタが元に戻るまでの間、なんとももどかしい一日を二人は過ごすはめとなった。


(こんな子供嫌だ……)
(俺たち情け無さ過ぎるよい)

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