海軍と海賊の恋

「捕まえたよい」

「またお前かよ!」
「そんなに嬉しそうにするなよい」
「誰が!」
捕らえられた手を縛るのは枷ではなく、相手の手。
指の間に同じく骨ばった太い指が挿し込まれ、握られる。
まるで恋人のような仕草。
「気色悪いんだよ!」
離そうともがいても絡められた手の平は硬く握られている。
「そんなに照れるなよい」
「だから何でそうなるんだ!」
必死に手を揺さ振るものの一向に離れない。
両手を塞がれた姿はとても不様だ。
「俺の手を振り払えるとでも?」
ゾッとする声が響いた。
殺されるとかそういう部類のものではなく、心臓を丸呑みされるような泥甘い魅惑的な声だ。
「ッ!」
「諦めろい」
舌がゆっくりと這う。
首筋から這うそれは段々と下降し、すでに開かれた胸元へと降りていく。
喉元を唇が吸い、鎖骨に歯が立てられる。
「ッあん……」
胸の飾りを弾く舌先に意志に反する声が上がる。
「このまま犯してやろうか?」
口端が上がる。
完全なる捕食者の目だ。
「バカ言うな!」
とんでもない提案に即座に首を振った。
「つまらないねい」
「海賊抱こうとするお前がわからねぇよ!」
「気に入ったって言ったろい?」
手は握ったまま頬を摺り寄せてくる。
おかしいだろ、こんなの。
はためく上着に書かれているのは“正義”の二文字。
この行為はその正義に反する行為ではないのか。
「離せよ」
「離したら逃げるだろい」
「逃げねぇよ」
逃げないから早く手を離してくれ。
拘束されたまま頬擦りされるとか格好悪いことこの上ない。
第一見つかったらどちらも裏切り者と罵られるだろう。
「しかたないねい」
するりと手が解かれる。
握り込まれた手がひんやりとした空気に触れる。
手の平から逃げていく熱を感じて変な気分に陥る。
「いつになったら俺のものになる?」
手を離しておきながらまた触れてその手を己の顔へと持っていく。
人差し指にカチリと歯が当たった。
「ならねぇよ」
何度捕らえられ、何度聞かれようが答えは同じだった。
「手強いねい」
「いい加減、諦めてくれよ」
ため息を吐いた。
こいつと出会ってからというものしつこく付きまとわれている。
本当に捕らえられて牢に入れられないのはありがたいとは思ているが正直疲れる。
「俺のどこがいいんだよ」
うんざりして呟けば呆気に取られたような顔。
「そんなの可愛いからに決まってるだろい」
うわっ、マジ止めろ。
40近いおっさんに対して同じおっさんが言う台詞じゃないだろ。
「そんなに顔を引きつらせるなよい。お前を見てると本当にそう感じてしまうんだよい」
笑う言葉には温もりが感じられて調子が狂う。
「海賊なのに?」
「身分で相手を選ぶのかい?」
「……」
「立場なんざ関係ないよい」
手の甲に落とされる唇。
それを拒否しないのは抵抗するのが無駄だと知っているからか、それともその考え方に一目置いたからなのか。
「お前は何で俺を拒否し続けるんだい?」
「何度も言ってるだろ。俺は海賊で・・・」
急な問いかけに驚くものの答えを返す。
けれどさっきの答えを聞いた後だとなんとも頼りなかった。
「なるほど。仮に俺も海賊だったらお前は俺を受け入れるのかい」
「ちがっ……!」
「違わないよい」
鋭く切り返される。
「お前は立場を盾にして逃げてるだけだよい」
言葉が胸に突き刺さる。
「海賊の方が立場を気にするなんて笑っちまうねい」
言われる言葉に胸が痛むのは自分もそうだと感じている証拠だ。
笑みを浮かべる相手に無性にイラついた。
「……なら、捨ててみろよ」
気が付けば言葉が口から洩れていた。
「俺が好きだっていうならその地位を捨ててみろよ」
目の前の相手を睨んだ。
そんなに俺を好きだというならやってみればいい。
「悪いがそれは出来ないよい」
「ハッ、やっぱり立場が惜しいんじゃねぇか」
「お前もな」
嘲る様に言った後言い返されて言葉に詰まる。
「捨てられないなら捨てなきゃいい」
平然と述べる。
「それいで俺も欲しいって?欲張り過ぎるぜ」
子供の言い分だ。
聞いてる方が馬鹿馬鹿しい。
「海軍が欲張っちゃいけねぇのかよい?俺も人間、一端の欲はあるんだよい」
そう告げるやつの目は獣のように煌めいている。
「よく考えろい。お前も俺も今ある立場を捨てられない。だからって目の前にあるもんを手に入れるのを諦めるのもおかしいだろい」
「ばれたらどうすんだよ」
「ばれるへまなんかするのかい?」
意地悪く笑う顔に噛み付いてやろうかと思った。
けれど本当にしたらその前に唇を奪われるに違いない。
「真面目過ぎるのも考えものだねい」
やれやれという表情を浮かべる。
何で俺がそんな態度を取られなきゃいけないんだ。
「お前が中将だなんて海軍も終わってるな」
「踏ん切りつかねぇのを人のせいにするような隊長をもつ4番隊のやつらも苦労しているだろうねい」
「なんだと!?」
近い。
顔に熱い息がかかる。
怒鳴った瞬間、壁に押さえつけられた。
「諦めるのはお前の方だい。もうそろそろ認めてしまってもいいんじゃないのかい?」
突き付けられる問い。
何を言っているのかわからないのでは無く、認めたくない。
認めてしまったら俺はオヤジを裏切ることになる。
それだけは絶対に嫌だ。
「海軍と恋に落ちたからといって裏切りにはならねぇよい」
人の想いを見透かしたように続く言葉。
お願いだから止めてくれ。
「同時に考えるから狂うんだい。海軍と海賊は敵。けれど今の俺たちはただの人間同士だ」
なんの作為も感じられない素直な声色。
本気で俺を求めている。
頭が痛い。
その声にこそ狂ってしまいそうだ。
「サッチ、愛してるよい」
訴えかけられる愛。
俺はどうしたらいい?

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