部屋に戻るまで彼は一言も発することはなかった。口は重く閉ざされており、開くという選択肢すら持ち合わせていないようにも見える。腕も引かれるままで、ただカイジが引いているから進んでいるだけだ。
玄関に立ち、部屋の明かりを点けるためにスイッチを弾くと、びしょ濡れの彼とカイジは初めてお互いの姿を鮮明に確認した。
彼は暗闇で見た通りの白髪で、どこを見ているのか判断しかねる眼は切れ長で赤い。鼻筋がすっと通っていて顎もすっきりとしており、同性のカイジから見ても綺麗もしくはかっこいいと思えた。ずっと掴んでいた腕はやはり細く、冷えのせいか青白い。

「あがれよ」
「…」
「いーから!」

彼は表情にこそ出さないが少し躊躇ったようだ。しかし結局靴と靴下を脱いで上がり込んだ。その間にカイジは風呂の蛇口を捻り、箪笥からタオルを出して彼に歩み寄る。
そして水気でぺたりと張り付いたその白髪にタオルを被せ、わしゃわしゃと拭いてやる。何故そんなことをしたのか、カイジ本人にも解らなかった。彼は子供でも犬でもないのだ──暫く拭いているとまだ名前もわからないということにカイジは気がついた。

「…お前、名前は?」

問えば、冷たく重い口がゆっくりと開かれた。

「…………赤木…、赤木しげる…」

っていうか自分で拭けますよ、と言ってアカギはカイジからタオルを奪って髪を拭いた。

「…ガキじゃないんですよ」
「あ、わ、わりぃ!!ついちょっと…その…」

カイジはしどろもどろになりながらも自分の中でも明確ではない答えを探した。

「それより名前」
「え!?」
「アンタの名前を訊いてるんですよ。フェアじゃないでしょう」

そう言って細められた赤い眼に、ああ、こんな風に笑うのか。と思わずじっと見つめてしまったカイジには、名乗るのに精一杯で、答えを見つけるほどの余裕は無かった。

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