真っ暗な空だ。
真っ暗な空からは叩き付けるように水滴が止めどなく落ちてくる。
ここ最近の突発的な豪雨に、カイジは最早癖になってしまったような溜め息をついた。

カイジの毎日は今、同じ事の繰り返しだ。
バイトとギャンブルの繰り返し。稼いでは擦り稼いでは擦り。ならギャンブルなどやめれば良い、と人は言うだろうけど、やめられるくらいならとっくにやめている。そしてそのサイクルは今日とて例外ではなく。
時間帯は深夜、バイトが終わってあとは雨の中ビニール傘をさして家に帰るだけの、筈だった。


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水溜まりもクソもない、もうこれではどこからが水溜まりなのかわからない。それほどに辺りは雨水によってびしょ濡れだった。不快感も消え去るほど中までしっかり濡れきった靴がその水を蹴る音さえも、降水の音に圧されている。叫ぶような雨音。思わずビニール傘の耐久力を心配した。
こんな深夜にこんな雨ではカイジくらいしか歩くものはいない。好き好んで歩くものもなかなか居ないだろう。

暫く歩き、帰路も半分を切ったあたりで、ふと視界に入るものがあった。
暗く細い路地裏の入口に、踞っている──人間。
思わず足を止め、視線を向け観察する。華奢だが男性であることは明白だ。
真っ暗な中で暗い色の服装をした人間を見つけられたのはきっとこの髪色のせいだろう。彼の髪は外見年齢に見合わぬ白髪だった。かと言って似合ってないというわけではない。その白髪はしとどに濡れ、眼はどこかをまっすぐぼんやりと見詰めている。割と長い時間見ていた気がするが、こちらには目もくれない。その眼が、カイジにはどう見えたのか。

「なあ、」

気がつけばカイジはしゃがみこんで彼に声をかけていた。しゃがみこみでもしなければ声が届かないかもしれなかったからだ。
どこかを凝視していた彼の眼が顔ごとカイジに向けられる。

「風邪ひくぞ…?」

そう言って傘を傾け、彼を雨水の猛攻から解放してやる。

「金はねーけど、屋根と風呂くらいはあるから」

彼の細い腕を掴んで立たせ、そのまま引っ張って帰路に戻った。彼はすんなりとついてきた。

夜明けにはまだ、遠い。


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