雨が、降っていた。
雨が降るとアカギがやってくるような気がしたが所詮それは気がするというだけの話で。必ずしもそうというわけではない。しかし、期待が抑えきれない自分に少し呆れる。もっとアカギと居たい、あわよくば、まあ、触れていたい。
溜め息をつくと、玄関の方から物音が聞こえた。

(…アカギ?)

もしかしたら、と期待の泡が少し膨らむ。
一歩玄関へと進む度にひとつずつ膨らむその泡。
ドアを開けるときにははちきれんばかりに膨らんで、

「あ……」

弾けた。
ドアの向こうには確かにアカギが居た。しかし、その姿はなかなかに酷いものだった。衣服は裂け、あちこちに痣のようなものが見える。喧嘩をすることもあるとは聞いていたがいつもはもっとスマートに決めていたはずだ。こんなにぼろぼろのアカギを、カイジは見たことがなかった。玄関にアカギから水が滴る音だけが響く。そしてただ俯いていたアカギはカイジと目線を合わせた。

「カイジさん」

カイジは動けなかった。タオルを持ってこないととか、どこに行っていたのか訊きたいとか、頭の中では色々なことをしようとしている筈なのだが何一つ伝達されない。頭と身体が離れてしまったかのように。しかしアカギの次の言葉はそれを無理やり繋げ合わせた。

「────抱いてよ」
「は?」
「抱いてって言ってるの。カイジさんにならいい」

それはアカギの口から出る言葉にしては現実味が無さすぎた。寧ろ言う筈が無いくらいの言葉。
カイジが呆気に取られていると、アカギはさらに続ける。─今日はやけに、饒舌だ。

「おい、おい…何言って」
「男同士でもやり方くらい知ってるでしょ?綺麗にしてゴムだって使えば衛生的にもなんとか、」

そのときカイジはアカギの首元に目をやる。シャツの少し破れた白いそこには、紅い痕が散っていた。まさかと思いアカギの顔に目を戻すと、そこには見たこともない表情があった。大きい表情の変化ではないが、感情の色が僅かながら見てとれる。

「だから、頼むから、抱」
「…オマエ、なんて顔してやがんだよ…!!」

うちひしがれて何かを諦めたような、そんな青をしていた。

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