アカギが風邪を引いた一件以来、カイジの部屋では奇妙な生活が始まった。
部屋に帰るとアカギが居たり居なかったりする生活だ。
お互いにそれぞれの用事で昼夜問わず出掛けては戻ったり戻らなかったりした。もっとも戻らなかったりするのが多いのは部屋の主でないアカギのほうなのだが。
そしてカイジがバイトから帰り部屋の鍵を開けると、そこには今日も人気が無い。

(…今日も居ないのか)

最近アカギが居ない。
しかし合鍵を渡しただけであり、アカギが本格的にここに住んでいる訳ではない。居ないことはそうおかしいことでもないのだ。
それでもカイジは、少し前までの、帰ると人がいるという状況に精神的に甘えていたようで。
部屋のドアを開けたら、いつもと何ら変わりのない貧乏臭い部屋で、「カイジさん…おかえり」と心底どうでもよさそうに言葉を放りながら煙草を吸うアカギの姿を無意識に求めるようになっていった。

「…アカギ」

この部屋には居もしない男の名を呼ぶ。
呼んだら応えてくれるだろうかという馬鹿な期待からの行動だったが、それはカイジの胸の虚無感を倍にするだけだった。
もとよりここにアカギは住んでいるわけじゃない。ここは野良猫の仮住まいにすぎないのだ。そう自分に言い聞かせてカイジは靴を脱いだ。
陽も傾き、薄暗い室内を明るくするために電気をつける。
ぱちん、と乾いた音が照らし出したのは、依然として人の居ない部屋だった。その冷たさはついこの間まで当たり前だった筈なのに、ちくりと小さくカイジを刺した。
カイジのこれまでのギャンブル生活─そんなに毎日やっていたとか、そういうわけではないが─では、他人にこんなにも依存することはあまり無かったように思う。
初めての感情と状況に、カイジは、俯くことしかできなかった。

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