[もしも - 瓦間が生きていたら H]

「…どうだ?」

うるさく鳴り響く鼓動が更に自身を緊張させる。

包帯を解かれ、その声を合図に震える手を抑えながらゆっくりと瞳を開ければ、薄暗い部屋の中で心配そうな面持ちをしたマダラの姿があった。
久しぶりに見た色のある世界に自然と視界がぼやけ、ぽろぽろと涙が零れ落ちる。
堪らず目の前に座っていたマダラに抱き付けば、まるで子供をあやすかの様に優しく背中を撫でてくれた。
真っ暗な中でずっと悪い事ばかり考えてしまって怖かった。
本当に怖くて仕方が無かった。

「もう大丈夫だ。よく頑張ったな」

その言葉にどれ程安堵したか。

まるで、長く続いた悪夢から解き放たれた気分だった。
返事を返す代わりにより一層抱き締める腕に力を込めれば、背中を撫でていた手が身体に回り、優しく抱き締め返してくれた。

***

「名無し…っ!もう大丈夫なのか?どこも痛くはないか?何か欲しい物はあるか!?」

「落ち着け」

勢い良く身を乗り出しながらそう聞いて来る柱間に苦笑いを浮かべつつ大丈夫だと返せば、心配そうな表情はいつもの明るさを取り戻していった。
柱間も仕事の合間に来てくれたのか、いつもの火影装束を着ていた。
わざわざ自分の様子を見に来てくれ、こんなにも心配してくれていたのかと思うと胸が熱くなる。
久しぶりに見る光景にまた涙が零れそうになり、小さく鼻を啜れば二人に優しく頭を撫でられた。
そんな風に優しくされて我慢出来る筈も無く、涙がゆっくりと頬を伝い落ちる。

「元気そうで何よりぞ!しかし、いくら治ったからとはいえ、まだあまり無理はしてはならんぞ」

「…うん。ありがと」

「どうやら、その首飾りも役に立ったようだな。扉間も粋な事をする」

突然、柱間との会話に出て来た人物の名前に驚く。
本来こんな場所で聞く筈の無い名前だ。

久しぶりに聞いたその名前に、ふと、あの雨の日の事を思い出した。
扉間とはあの日以来会っていなかったから、今どうしているのかは知らない。
柱間の言葉を聞く限り、扉間が自分の事を知っていたと言う事は分かった。
そして、柱間の口振りからもこの首飾りが扉間から贈られた物だという事が分かり、混乱する。
この首飾りもマダラが付けてくれた物で、てっきりマダラからの贈り物だとばかり思っていたから。

「…ありゃ不法侵入だぞ」

「ガハハハ!それぐらい大目に見てやれ」

二人の会話を聞いても、知らなかったのは自分だけだったのだろう。
それでも、どうして扉間がそんな事をしたのか分からなかった。

***

「ねぇ…、この首飾りって何か特別な物なの…?さっき「その首飾りも役に立ったようだな」って言ってたし…」

今この部屋には自分と柱間の二人しか居ない。
マダラは用事があったのか、どこかへと行ってしまった。
自分のその言葉に茶菓子をつついていた手を止め、こちらへと顔を向ける柱間をじっと見つめる。
どうしても柱間が言った「役に立った」と言う言葉が引っ掛かり、気になって仕方が無かった。

「そういえば名無しには説明しておらんかったなぁ。まぁ簡単に言えば、自然エネルギーによる治癒力の向上を手助けする効果をもたらすという事だな」

「自然エネルギー?」

「オレ達が扱うチャクラとは違う万物に存在するエネルギーの事ぞ。自然エネルギーは精神、身体エネルギーとは違い仙術を使い外から体内に取り込むもので、
忍術や体術、治癒力が大幅に強化される。その石は自然エネルギーを吸収し発散する事が出来る特別な鉱石でな。仙術を身に付けとらんでもそれに近い効果を得られる」

軽い口調で話し始めた柱間の言葉を静かに聞けば、この首飾りがただの首飾りではない事が良く分かった。
そして、自分なんかが持つべき代物ではない事も良く分かった。

「オレは傷を受けても木遁のお陰なのかすぐに傷は治るが、扉間達はそうはいかんからな。だから父上も二人に遺したんだろう」

「え、じゃあこれって…、お父様の形見って事?…そんな大切なもの貰えない。返さなきゃ」

「なに、気にするな。扉間もそういうつもりで贈った訳ではないだろうしな。それに、あいつも随分と心配しておったぞ。オレの部屋にまで押し掛けて来たしな」

柱間の言葉に気付かれぬ様に顔をしかめる。
嬉しくない訳がない。
でも、あんな風に突き放すぐらいなら優しくなんてして欲しくない。
そう思う事が自分の我儘だって分かってる。
でも、自分じゃなくてもっと大切な人に贈れば良いのにって思ったらじわじわと不快な感覚が心の中に広がって行くのが分かる。

扉間はただ純粋に心配してくれているだけなのに、それでもそう思えて仕方が無かった。
そして、そんな風に思う自分が嫌で嫌で堪らない。
そんな卑屈な考えに嫌気が差し、その顔を隠す様に俯く。

***

「まったく、任務だと思ってたから吃驚したわよ」

「…ごめん」

部屋に入るなり説教の雨を降らす桃華。
そしてそれを宥める瓦間と大笑いしている柱間。
そんな二人の姿にそう小さく返せば、大きく溜息を吐いた後に呆れた様な表情をした桃華に頭を軽く小突かれ、そのまま抱き締められた。
瓦間もいつもの顔で頭を撫でてくれて、二人がこんなにも自分を気に掛けてくれたのかと思うと、さっきまでの嫌な感情が少しずつ薄れて行く様な気がした。

「そういえば、扉間はどうした?お前達と一緒に来るかと思っておったが」

「あぁ、用事があるとか何とかでどこかに行ったよ」

「むぅ…、せっかく名無しの眼が治ったというのに、タイミングの悪い奴ぞ」

正直なところ、この場に扉間が居なくてほっとした。
マダラが言った「不法侵入」と言う言葉から、飛来神の術で気付かれぬ様に飛んで来たのだとすぐに分かった。
そして、何も言わずに首飾りだけを残して行った。
会いたくない訳じゃない。
でも、会ったとしてもどんな顔をしたら良いのか分からないし、扉間が何を考えているのかも分からないから困る。

それに、またあんな風に避けられたりするぐらいなら会いたくはなかった。

「さて、仕事も残ってる事だしそろそろ戻るとするか。名無しも無理しない様に気を付けるのよ。…ほら、お前達もさっさと行くぞ」

桃華に促され渋々立ち上がる柱間と瓦間の顔は不満そうで、それが少しだけ面白くてつい笑ってしまった。
あれから皆が出て行った後の部屋は一気に静けさを取り戻し、しんとした空気が部屋を包み込む。
マダラには大人しくしていろと言われているし、病み上がりの状態で出来る事は少ない。
それでも、ただ窓の外を見ているだけでも飽きる事は無かった。

今まで何気なく見ていた景色は前と今では全く違う。
色や光、そして大事な人達が居る世界。
当たり前の事だけどとても尊くて胸が温かくなる。

「…見えるんだ」

無意識に出た言葉はどんどん現実味を帯び、心の中に広がって行く。
そう思ったら、また少し目頭が熱くなった。

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