[強引なカウントダウン]

*長編/From here to there with youヒロイン

「はぁ、はぁ…」

「こんなんでバテてちゃ先が思いやられるな、うん」

膝に手を当て、呼吸を落ち着かせる。
今日はいつもと同様、回避能力と体力を上げる為の修行をしていた。
変則的な動きでこちらに飛びかかってくる爆発物をただひたすら避ける修行。
初めてこの修行を受けた時は、危うく殺されそうになったが、今はちゃんと爆発物の加減をしてくれているのか、死の危険は今のところはない。

「後はこれだけだな!ちゃんと避けろよ」

そう言うなり、デイダラの掌から数匹の鳥の爆発物がこちらに向かって飛んで来た。
それは四方八方に散らばり、自身を狙う。

「ちょっとは、待ってって、ばっ!!うわっ…!」

とにかく、死に物狂いだった。
いくら死の危険は無いとはいえ、多少でも自分の身体に当たれば、それなりに怪我もする。
元々の体質なのか、傷の治りは普通の人よりは早いし、今更傷などはいちいち気にしないが、やはり痛いものは痛い。

「ククッ、残念。名無し後ろだ」

デイダラのその言葉に、後ろを振り返れば、右手の肘付近を飛んでいる鳥が見える。
見えてはいるが、目の前に迫り来る鳥を避けるだけで精一杯で、それを避ける術は無かった。
案の定それは右肘付近で爆発し、煙を上げる。

煙が風に流され、名無しを目視出来たは良いが、そこには、いつもと違う姿があった。
右肘から手首にかけて軽く抉られた様に真っ赤な血がその腕を染めていた。
名無しの顔は歪み、悲痛そうな表情が目に入る。

「あーあ、やっちまったな。大丈夫か?」

その問い掛けに、痛みで声も出ないのか、瞳を閉じ眉間に皺を寄せたまま小さく首を左右に振る。
今まで多少の傷はあったものの、今回の様に痛みで話せない程の傷は初めてだだった。
その姿に以前、名無しを暁に置く時にリーダーから言われた言葉を思い出す。

『名無しを傷付ける様な事はするな』
これは別に故意に傷付けた訳ではなく、修行で出来たものであり、自分は悪くない筈。
でも、これって管理不届きって事でオイラが悪い事になるのか?

うーん…。
取りあえず、こんな状態でこの場に置いておく訳にもいかず、一先ず治療のためアジトへと戻る事にした。

***

「くだらねぇ事で怪我してんじゃねーよ」

丁度、自室から出て来た旦那を捕まえ、手当てをしてもらった。
旦那が医療忍術を使える事は知っていたが、実際にそれを目の辺りにすると、酷く違和感を感じた。
大蛇丸と組んでいた頃には人体実験や禁術開発、他にも色々な事をやっていたらしい。
倫理に反する事をしようと一切気にしない。
だから、余計に違和感を感じる。
さっき名無しを治した時だって 、素人の自分から見てもそのレベルが一端の医療忍者と違う事ぐらい分かる。
まぁ旦那の場合、医療目的というより、傀儡と毒調合の為って感じだけど。

「おいデイダラ、コイツ殺すんじゃねーぞ」

「…旦那もかよ。そんな事は分かってるよ、うん。それにしても旦那が素直にリーダーの命令聞くなんて珍しいな。いつも文句言ってたくせに」

「あいつが名無しをどーするのかは知らねぇが、俺にとっても無傷の方が都合が良いしな」

治療を終え疲れたのか、そのまま眠っている名無しの頬に手をやる旦那は、いつもの不機嫌そうな顔ではなく、まるで何かを期待しているかのような、そんな顔。
あれは絶対に何か悪い事を考えている時の顔。
イタチと鬼鮫程ではないが、オイラも旦那とツーマンセルを組んで、それなりに経っている。
旦那の性格や戦い方だって、他の奴よりも知っている。

(…ま、オイラもバカじゃないしな。そう易々と傀儡になんかさせねーよ、うん)

名無しはオイラのものだ。
リーダーや旦那だろうと、誰にも渡さない。
傀儡になんか絶対にさせない。
名無しは、自分の意思で自由に動き回ったり、感情があるからこそ芸術なんだ。
次の瞬間には、また新しい別の表情を見せる。
その表情一つ一つが、一瞬で記憶に刻み込まれる。

オイラの芸術と同じ。
儚く散りゆく一瞬の美。

「旦那に名無しはやらねーからな」

その言葉に旦那は驚く事もせず、ただ鼻を鳴らすだけ。
旦那は、オイラが名無しに好意を寄せている事は勿論知っている。
今更隠す必要はない。
同じ芸術家として尊敬はするが、名無しを「永久の美」にするつもりはない。

***

「…食べ難い…」

サソリのおかげで傷は塞がったが、動かそうとすれば鈍い痛みが走る。
食事は飛段と自分のを作るついでにと、角都が一緒に作ってくれた。
利き手が使えない事がこんなにも不便な事だったなんて、こんな風になって初めて気付いた。
何とか食べ終えた頃には、折角作ってくれた料理も大分冷たくなっていた。

***

「え、ちょっと…!だ、大丈夫!それぐらい出来るから、大丈夫だって…っ!」

「うるせーぞ。黙って介抱されてれば良いんだよ。うん」

「ダメだって!!これぐらい一人で出来るから…!お願いだから入って来ないで…!」

先程からデイダラとずっと攻防戦を繰り広げている場所は、自身の部屋の洗面所。
食事を終え、少しのんびりした後、軽くシャワーだけでもと洗面所に向かった後にデイダラが部屋に来たらしい。
最初は何も気付かなかったが、服を脱いでいる最中に名前を呼ばれ、その時に初めてその存在に気付いた。
洗面所の扉のすぐ向こうで自分を呼ぶ声が聞こえた時は、心臓が止まるかと思った。

「…あと5秒以内にこの扉開けねーと爆発させるぞ」

「は!?え、ちょ、ちょっと待ってっ!!」

「5、4…」

今の自分の格好は、上下とも下着しか着ていない。
まさか、部屋に人が入って来るなんて思わないし、シャワーに入るなら当然服は脱ぐ。

「3、2…」

そう考えている間にも、カウントダウンは進む。
流石に爆発されるのはまずい。
急いで脱いだ服を着ようと試みるが、焦りで脱いだ服を上手く着られず、せめて何か隠せる物をと、目の前に用意してあったタオルを下着の上から巻き、
そして、爆発される前に急いで扉を開ける。

「1…、…ククッ、ホントに爆発させるかと思ったのか?そんな事したら、角都に後で殴られるからな。やる訳ねーだろ。うん」

「は…?」

こっちは、爆発されるかと思って、必死だったのに…。
しかも、勝手に部屋に入って来てるし!
あんな嘘に引っかかるなんてバカだなって鼻で笑いながら楽しそうにしているデイダラが憎たらしい。
文句を言おうと意気込み、声を発しようとしたが、デイダラの行動に言おうとしていた文句が引っ込んでしまった。

「…え、何してるの?」

「何って、右腕いつも通りに使えねーんだろ?」

そう疑問を投げかけたら、さも当然の様にそう答えられ一瞬言葉を失う。
デイダラはいつもの黒いコートは着ておらず、シンプルな服を着ていた。
自分と話しながらも、髪の毛を簡単に一つにに束ね、テキパキと自身の履物を脱ぎ、裾を捲り上げて行く。

今の自分のこんな格好を他人に見られるのは、かなり恥ずかしいし、今すぐにでも着替えたい。
でも、これから起こるであろう事態に顔が引き攣り、身体が動かない。

「…うん、これぐらいで良いな。よし、さっさと洗って終わらせるぞ」

そう言うなり腕を引っ張られ、叫ぼうが暴れようがそのまま浴室に連行される。
こっちは、いくら下着を着ているからとはいえ、こんな姿を他人に見られるのは堪ったものじゃない。
胸元をきつく掴み、バスタオルが落ちないように気を付けつつ、反抗し暴れてみるが、それも虚しく、デイダラにいとも簡単にズルズルと引きずられていく。

「あー!もう諦めろって!バスタオル剥ぎ取られたくなきゃ、大人しくしとけ!うん!」

そう言えば、真っ赤な顔で驚き、恨めしそうにこちらを見て来る名無しと目が合う。
やばいな、うん。
その顔すっげーそそられる。

名無しが暁に来てから、非番は修行に付き合ったりして、中々女を買う時間もなかったから、正直なところ結構溜まってる。
今ここで、このまま押し倒して奪う事は簡単だが、相手は自分が好意を寄せている相手。
他の奴等が入り込む隙間が無い程に名無しを自分に惚れさせなきゃいけない。
下手に手を出して、警戒されたら堪ったもんじゃない。

確実に自分のものにするには、焦りは禁物。
とは言っても、結構やばい。
いつもと違う名無しの格好。
洗面所に居た時点で、シャワーに入るとは思っていたし、それを分かってて押し入った。
まぁ…、ちょっとぐらいなら見たって良いだろう、という気持ちもあったが。
細いな、とか思ってた以上に胸あるな、とか色々。
色町の女とは違う、心も身体も全部欲しい女。

「うぅ…、わ、分かったから、ちょっと待って…」

どうやらさっきの言葉が効いたのか、渋々という感じだが素直に付いてきた。

ずっと見ていても全然飽きないし、名無しの行動一つ一つが自分にとって真新しく感じる。
からかい甲斐があるというか、とにかく面白い。
名無しは自分に様々な刺激を与えてくれる。
芸術家ってのは 常に身近に存在するものに、より強い刺激を求めてねーと感情がにぶっちまうから。

名無しの存在は、自分にとって必要不可欠なものだ。
だから、余計に手に入れたい気持ちが溢れ出す。

(…このまま、食っちまっても良いんだけどな…)

自分の目の前に大人しく座っている名無しの背中を見つめながらそう考える。
その姿を見ていたら、さっきまで考えていた事が消え掛かっている事に気付く。

でも、分かってる。
そんな事したって、本当に欲しい物は手に入らない。
勿論身体は欲しい。
でも、それ以上に欲しいのは名無しの心。

遠い昔に捨てた人間の「情」
今となっては、それが何だったのかさえ忘れてしまった。
自分に誰かを慈しむ心があるのか。
今、自分が感じているこの気持ちは本物か、偽物か、それが分からなくなる時がある。

今までに「愛」なんてものは貰った事も感じた事もない。
だから、余計にそれが何だか分らない。
ただ、側に居たいっていう気持ちは偽物じゃない。
それだけは、はっきりしている。

今ここで無理矢理にでも名無しを手に入れたら、きっとその答えは一生分からなくなる。
今はまだその時じゃない。
もう少し、あともう少しだけ。
その答えが出るまで、心には触れられない。

***

後ろから無造作に座ったままの名無しの頭をタオルで拭き、簡単に水分を拭き取る。
今の格好のままでは湯冷めしてしまうので、とりあえず先に着替えに行かせ、その間に自身の身なりを直す。
少しは、緊張が解けたのか、洗い終わった後には感謝の言葉まで掛けてきたのには少し驚いた。
そんな事をぼんやりと考えていたら、着替え終わったのか、名無しが洗面所に戻って来たと同時に、そのまま入れ替わるようにリビングへと移動する。

(…こうして、名無しの部屋で寛ぐって初めてだな。…それにしても殺風景な部屋だな)

部屋にはベッド、ソファー、机や本棚といった必要最低限の家具だけ。
所々に名無しの私物であろう物はあるが、それでも殺風景な事には変わりはない。
全体を見渡した後ふと、窓辺に目をやれば、そこには花束のような物が目に入った。
良く見るとそれは紙で出来ており、恐らく小南から貰った物だと推測出来る。

その花束をじっと見つめていたら、自然と手が動いた。
それはあっという間に出来あがる自分の芸術作品。
我ながら、芸術的造形だな。うん。
掌にあるそれを窓辺にある花束の横に置く。
何でそんな事をしたのかは、自分でも良く分からないが、自然と手が動いてしまった。

「あれ?デイダラ何して…あっ!!、ダ、ダメ!お願い、それ爆発させないで…!」

ただ、ぼんやりとその作品と花束を見ていたら、後ろから自分を呼ぶ名無しの声が聞こえた。
自分の姿を見て、声を掛けたのと同時に窓辺にある粘土に目が行ったのだろう。
突然、必死そうな顔で自分に懇願してくる名無しの様子に少し驚いたが、すぐに笑いが込み上げてきた。

オイラの芸術は爆発だ。
修行で色々な起爆粘土を爆発させながら、追い掛け回してきた今までの事を思えば、そう思うのも仕方ない。
これはただの粘土で爆発なんかしないと言ってやれば、心底安心したのかいつもの表情に戻った。

「…もう、びっくりさせないでよ。爆発するかと思ったんだから…。寿命が縮むかと思ったよ…」

「大げさなんだよ。ま、オイラの芸術作品は爆発してこそ真価が発揮されるんだけどな。…それより、これ小南から貰ったのか?」

そう問うデイダラの視線の先には、以前小南さんから貰った紙で出来た花束。
それを貰った時に初めて小南に会ったとか、たくさん色々な話をしたとか、その時を思い出すかのように楽しそうに話している名無し。
他人を思い、話している名無しの顔はとても嬉しそうで、それが自分に向けられていない事に少し嫉妬する。
それは簡単に言えば、まだ「自分」という存在が名無しの中で何も変わっていない事を意味していた。

(女に嫉妬するなんて、オイラもつくづく大バカ野郎だな。ククッ…、まぁ、今はこれで我慢するか)

目の前に居る名無しの手首を軽く引っ張ってやれば、いとも簡単に自分の元へと手繰り寄せる事が出来る。
筋肉は付いてはいるが、その身体は思っていた通り細くて、想像していたよりも小さかった。
丁度、自分の鼻先に当たる名無しの髪。
その髪に軽く顔を埋めれば、さっき使ったシャンプーの香りが心地良く鼻を通る。

「すげーぶっさいくな顔してるぞ。可愛い顔してんだから、もっと良い顔しろよ。うん」

「なっ、あっ…、ちょ…っ!」

言葉にならない声を発しながら、口をパクパクさせている名無しの顔は勿論、耳まで真っ赤で、こういう事に慣れていない事が分かる。
今思えば、さっき無理矢理風呂場に連れて行ったのは名無しにとって、かなり衝撃的な事だったのかもしれない。
ここまで男に慣れていないとは思っていなかったし、男女間の付き合いは経験していると思っていた。
顔は良いし、そこら辺に居る女とは比べ物にならない。
それに加え、内に秘める能力の高さを感じさせる程の著しい成長の速さ。
それが旦那が名無しを手に入れたい理由でもある。
リアリズムで量より質にこだわる旦那にとって、名無しは次の良い獲物なのだろう。
イタチに拾われ、この組織に身を置く事になり、オイラや旦那に狙われるなんて。

「ホント、つくづく運の悪い奴だな」

「へ?わ、私の事?」

自然と口から出てしまった言葉に反応し、顔を上げる名無しと至近距離で目が合えば、恥ずかしくなったのか、少し視線を泳がせた後またすぐに俯いてしまった。
そんな姿を見ていたら旦那程ではないが、ちょっとした加虐心が生まれた。
少しぐらい強引な方が余計印象に残るしな。うん。

「ひっ…!な、何!?わっ…!」

突然、首筋を何かに舐められるような感覚を感じる。
初めて感じる感覚に身体中に鳥肌のような、何か鋭いものが身体を走る。
そして、すぐにそれがデイダラの手だと気付く。
初めて見た時には信じられなかったが、今ではもう当たり前になっているデイダラの左右の掌にある二つの口。
一体どういう構造になっているのかは気になるが、今はそれどころじゃない。
今はただ、首筋に感じる感覚に耐えるしかなかった。

***

「あー…オイラが悪かったって。うん…」

「………」

ソファーに膝を抱えながら顔を埋めている名無しの姿。
顔は見えないが、髪の隙間から見える耳は赤く、容易にどんな表情をしているか想像出来る。

ここまで男に慣れていないのも、ある意味貴重だ。
今までよくこんな男だらけの組織で生活出来たものだと思う程。
イタチに拾われ、この組織に身を置く事も名無しにとっては仕方のない事だったのかもしれない。
あの時、もし名無しがイタチの提案を断っていたとしても、きっと暁は名無しを手放さなかった。
今までこんな環境で生活出来たのも、ここでの生活に適応するしか生きる方法がなかったから。
そう考えると、名無しに自由なんて最初から無いのかもしれない。

「…なぁ、ここで生活して嫌じゃないのか?」

柄にも無く、そんな事を思った。
ただ純粋に名無しがここでの生活をどう思っているのか、その答えが知りたかった。
そんな疑問を投げ掛ければ、きょとんとした顔でこちらを見つめる名無しと目が合う。
突拍子も無い質問だったからか、すぐに答えは返って来なかった。

「私は、ここでの生活が嫌だなんて思った事はないよ。確かに修行は大変だけど、それは自分の為だしね。それに、ここでの生活は好きだよ」

いつもの笑顔でそう答える名無しの言葉に嘘は無く、それが本心である事が分かると同時に、小さな安堵感が生まれた。
もし、名無しが自分の意思で、今まで住んでいた世界に戻ると言った場合、自分はどうなるのだろうか。
現実味がないぶん、自分の本心が分からない。
そんな事を考えるには早すぎる事は分かっている。
今はただ、自分のすぐ隣に座りながら、微笑んでいる姿をいつまでも自分の目に留めておきたい。
その声をいつまでも聞いていたい。
決断するその時が来るまで、絶対に自分から離れられなくなるぐらいにしてやる。

「…覚悟しとくんだな。うん」

はっきり、名無しに聞こえる声でそう伝えた。
今、その言葉の意味に気付かなくてもいい。
オイラは諦めが悪いからな。

「さっきの爆発しねーからちゃんと飾っておけよ?うん」

さっきの言葉の意味を考えているのか、未だ微妙な面持ちの名無しの頭をひと撫でし、そのまま部屋を出る。
全てを手に入れるまで、諦めるつもりはない。
覚悟、しておくんだな。

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