[1. 始まり]
ここは?
何で自分はここに居る?
ここはどこ…?
見渡せば、辺り一面の森。
こんな場所は一度も来た事はないし、知らない。
夢?違う。
これは夢なんかじゃない。
知らないけど、知っているような気がする。
本能的にそう感じる。
急に瞳の奥が何かに殴られたような衝撃を受ける。
それは止む事はなく、むしろどんどん強くなっていく。
「何、なの…?」
問いかけても答えは返ってこない。
そして、そこで意識を手放した。
***
誰かの声が聞こえる。
「名無し」
この声はおばあちゃん。
さっきのは?
やっぱり夢だったの?
でも、夢とは少し違う感覚を身体が覚えている。
意味が分からない。
「名無し?そんな所で寝ては駄目よ。それにまだお昼過ぎなんだから」
おばあちゃんは少し呆れたように笑いながら言った。
あぁ…、やっぱり夢だったんだ。
変な夢を見たから目が覚めてしまった。
そう思いなが寝起きの身体を思いっきり伸ばす。
「ほら、お墓参り行くわよ」
今日は私の両親の命日だ。
二人は私が生まれ間もない頃に事故で亡くなっている。
物心ついた時にはおばあちゃんだけが私のたった一人の家族だった。
だから、両親の記憶は全く無い。
考え事をしている内にいつの間にか墓地に着いていた
おばあちゃんが手際良く準備をする中、その様子をただじっと見つめていた。
いつもの風景、いつものお墓参り。
二人でお墓参りを済ませ、帰る準備をしていた途中、穏やかだった風が急にまるで意思を持っているかのように強く吹き上がった。
「桜花様、お迎えにあがりました」
風が止み瞳を開けると、そこには白く美しい毛並みを持つ一匹の虎が佇んでいた。
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