[12. 鬼ごっこ]

「ちょ、ちょっと!待ってって言ってるでしょ!?」

目の前にはデイダラ。
周りには土煙、倒れている木々。
そしてサソリ。

***

白い動物の形をした動く物体。
あれは生き物と言えるのだろうか。
最初はその物体を物珍しく見ていたが、瞬きをした次の瞬間。
次に見聞きしたものは爆音と爆風だけだった。

「うわっ!?…え?」

一瞬の出来事に呆然とする。
さっきまで目の前にあった物体が爆発した。
あまりにも突然過ぎる出来事にどんどん心臓の鼓動が早くなる。
「爆発」をこの目で実際に見た事など今まで生きて来た中で一度もない。

「どうだい?オイラの芸術はすごいだろ!この前は見せてやれなかったからな。うん」

そんな自分の様子はお構い無しに満面の笑顔でそう嬉しそうに話すデイダラ。
そして未だに落ち着かない心臓。

犯人はお前か!
文句の一つや二つでも言ってやろうと声を発しようとしたが、デイダラの次の言葉を聞き言葉を失う。

「今日の修行はオイラの芸術作品が名無しを追い掛けるから、それから逃げる事だ!うん」

じゃあ、今からスタートな!と突然始まってしまった悪魔の鬼ごっこ。
一方的に言い放たれた「スタート」という言葉と同時にこちらに向かって飛んでくる無数の鳥達。
今までの状況からしてデイダラの放つ白い物体は爆発物という事は分かった。
という事は。

「ちょ、ちょっと待て!勝手に始めないでよ!」

どんなに叫び、怒鳴っても止まる事のない鳥達は自分を追い掛け回す。
走ったり隠れたりの繰り返し。
デイダラ曰く、力の弱い者はまず最初に回避能力を高める事が先決だと。
そしていち早くその能力を身体に身に叩き込むには実戦が一番だと言う。

「ククッ。逃げなきゃどーなっても知らねーぞー!」

遠くからこちらに向かって叫ぶデイダラ。
その姿はとても楽しそうで、恨めしそうな視線を送っても全く気付く様子はない。

***

「はっ…、はぁ、はぁ、デイダラ…、後でっ、覚えてろよ…」

人間、自分の身に危険が及べば火事場の馬鹿力ではないが、それなりに動けるようになるものだ。
悪魔の鬼ごっこが始まってかれこれ一時間近くが経とうとしている。
そろそろ心も身体も限界だ。

大きな傷は無いが身体の至る所に出来た掠り傷が痛い。
もう手足だって動かすのも辛い。

「も、無理…。はぁ、はぁ…っ」

デイダラからは死角になろう木陰に身を潜め身体を丸め座り込む。
息が切れ心臓がバクバクとうるさい。
どうにか呼吸を落ち付けようと試みるが中々上手くいかない。

(ここなら…、ちょっと休憩…出来…っ!?)

甘かった。
死角であろう場所にわらわらと集ってくるクモ達。
そしてたちまち回りを囲まれ逃げ場を失う。

爆発する。
そう思った瞬間、強く瞳を閉じ来るはずであろう衝撃に身を硬くする。

***

いつまで経っても来ない衝撃を不思議に思い、ゆっくりと瞳を開ける。
先程まで自分の周りに居た無数のクモ達は姿を消し、その代わり目の前にはサソリの姿があった。

「あっ…、サソ…」

驚きに一瞬言葉が詰まったが、爆発の危険が去ったという事だけは分かった。
しかし、何故あのクモ達ではなく、サソリが目の前に居るのだろうか。
そんな疑問が顔に出ていたのだろう。

「あのバカ野郎!加減も忘れやがって…。殺す気か」

そう呟きデイダラを睨みつけるサソリ。
サソリの言葉を聞き、改めて命の危険から助かったという事を実感する。
そして、緊張が解けた途端ぶわっと涙が自然に出てきた。

「うぅ…、サソリ…!デイダラがぁ…」

半泣き状態でしゃがみ込み、サソリの背丈の低い背中に無我夢中で抱き付く。
微かに小さな溜息が聞こえるが、今はそれを気にしている余裕なんてなかった。
溢れ出て来る涙を拭う気にもなれない。
誰でも殺されかければ、気が動転する。
ましてや爆死なんてごめんだ。

悪い悪いと言いながら全く悪気が無さそうなデイダラに腹が立つ。

「あっちゃー。つい楽しくなってやっちまったな。うん」

泣き止まない名無しをどうにかしようと思い近付こうとするが、近寄るだけで睨まれ、手元にある石や木などを投げ付けてくる。

(まさかサソリの旦那が庇うとはなぁ…。ククッ、面白いもんが見れたな!うん)

「そろそろ泣き止め!泣き止まねーと、またデイダラと修行させるぞ」

その言葉を聞きピタリと泣き止む名無しを見る限り、自分の芸術は相当なトラウマになったのだろう。
その様子がおかしかったのか、少し機嫌が良くなる旦那とは逆に顔を青くさせる名無し。

「ククッ、良い子だ」

***

悪魔の鬼ごっこも終わり、ひとまずアジトへと戻る。
その途中でも旦那の側を離れず常に自分を警戒してる素振りを見せる名無し。
はっきり言えば全く面白くない状況だ。

(名無しは絶対根に持つタイプだな)

そんな事を考えながら二人にちらりと視線を送る。
旦那も旦那でどうせ面白い玩具が出来たな、と思っているのだろう。
自分よりも旦那の方が性格的な事も考えると危険性は高い筈。
近い内に旦那の修行受けた時の名無しの反応が楽しみだと内心思いながらその様子を伺う。

「おい、お前らさっきから俺を挟んで鬱陶しい事してんじゃねーよ!」

二人に挟まれ段々不機嫌になり掛けているサソリ。
サソリが短気なのは初めて会った時から知っている。
もし、これ以上機嫌が悪くなれば絶対に良くない事が起こるだろうと頭が警告している。
デイダラもそれは分かっているのだろう。
先程の恨みはあるが渋々警戒を解く。

「名無しって意外と根に持つタイプなんだな」

「根に持つっていうか、誰でも殺され掛けたらそうなるでしょ!私は殺され掛ける事自体初めてなんだから…」

「あー、ははは。忘れてた。うん」

今日の一日だけでデイダラを何度恨んだ事か。
追い掛け回されている自分にしてみれば、修業ではなくただ純粋に楽しんでいたとしか思えない程だった。
恨めしそうな瞳を向けるも全く気付いていない。

「…ふん。最初からそーすりゃあ良いんだよ。オラ!ダラダラしてねーでさっさと帰るぞ」

そう言い、ズルズルと身体を引きずり先に歩いて行くサソリの後を渋々付いて行くデイダラと名無し。
そんなこんなで、ある日の一日は過ぎて行った。

そして、その数日後。
デイダラの予想通り、以前の修行よりも必死な形相で泣きながら逃げ惑う名無しの姿があった。

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