小説 | ナノ
「白蛇様、お疲れでしょう。慣れない旅は」
「もう一度白蛇と呼べば、その喉掻き切るぞ。これしきで疲れるか」
「やー、そろそろ里が恋しくなった頃かなーと」
「何を言う、姫様が私を望まれたのだ。もしもの時はそなたを守れとな」
「箱入り坊っちゃんが闘えますかねぇ」
先程の件からハクとキジャの言い合いが始まり、あまりの子供じみた言い争いに止めに入ろうとする。
「いい加減に…」
「しずまれぃ」
ごんっ!
と、ふたりの間に挟まれていたヨナ姫が、勢いよく拳を振り上げ二人を打ちのめした。
さすが姫様…先に止めてしまわれた…。
思わずヒュゥと口笛を吹いてしまった。
「これから一緒に旅するんだから、モメないの」
「申し訳ありません、姫様」
「ハク!キジャは初めて外に出て不安でいっぱいなんだからいじめない!
キジャ!ハクのいじめっ子は趣味だから気にしない!」
「ブハッ!…っくく、確かに」
クスクスと笑っていると、キジャはユンに呼ばれ次の目的地について話し始めた。
どうやら1番近いのは青龍のようだとわかったところで、これは確かに便利だ。と思い場所について聞くと、
「そうだな、向こうが、何かもやっとする」
「場所は見事に大ざっぱだね」
「マジか…」
「案ずるな。皆、私の後をついてまいれ」
「案ずるよ!生まれて初めて外出たヤツについていくのは案ずるよ!」
突っ込むユンに同意して、彼の隣へと自分も向かう。
「外に出ずとも外の事くらい知っている。我が一族は各地に飛んで国の情報を集めていたのだから」
「いや、だから」
「まって!足元!」
「え」
ユンが言いかけたその時、自信満々に歩いていたキジャの足元に岩穴を見つけ、注意するが遅かった。
キジャの身体が途端に傾いで、悲鳴とともに岩穴へと落ちていった。
「あーあ。だから言ったのに…おーい、大丈夫ー?」
穴を覗き込み声をかければ、キジャはその地面を顔面蒼白になって見ていた。
そんな彼の足元には、大量の蜘蛛やムカデたちが蠢いていた。
「ななななな、何だ、この者達は!?誰の許しを得てこんな所に居を構えているのだ!?ま、待て、よせ、それ以上は……あっ」
───いやぁあああああ!!!
……やめて、こないでぇえええええ!!!
「…………っしょっと。」
あまりの情けなさに言葉を失いつつも、何とかキジャを引っ張り上げる。
するとユンが目を半眼にして吐き捨てるように彼に告げた。
「白龍様は最後尾をのそっとついて来な」
そんなキジャの姿をみたハクは、格好の獲物を得たとばかりにいじり倒し始めたが、聞こえてきた足音にハクとキジャを呼び止める。
「お二人さん、気づいてる?」
「「!!」」
自分の言葉にハッとした様子で表情を変えた2人。頼むぜホント。
「私が姫様とユン君を担当でいいかしら?」
「さすがだな、ユンシェ。姫さんたち頼んだ。」
「え?なに?なんなの?」
突然庇われるように背後に隠されたユン君が、困惑したようにそう尋ねる。
「んーとね、たぶん山賊?」
「えっ、」
「しかも結構な数だな」
「ああ、あまり品のいい足音ではない。」
そこで戦闘とわかったヨナ姫が手を挙げた。
「ハク、弓を使っていい?」
「ダメだ。師匠は許しません。黙ってユンシェに守られてなさい。」
「はーい」
いつもなら言い返しそうなところを素直に従う姫様。まぁまだまだ心配なのはわかるし賛成。
「さあ、お出ましだね。」
ばきり。と枝を踏みながらゾロゾロと山賊たちが姿を現す。
「おい、こんな所に獲物がいたぞ」
「なんだよ、大したモンは持ってなさそうだな」
「そうでもねぇぜ、あっちに女が三人だ」
ぺろりと舌なめずりをしながらこちらを見やる山賊。
「さっすがユン君さっそく標的にされてるよ」
「美少年だからね!!守ってくれるんでしょ!?」
「もっちろん」
そしてついに、2人が動く。
「……まだそなたらの詳しい事情を知らんのだが、とりあえず刻んで構わんのだろう?」
「隠れてても構わんよ」
キジャの質問にそう答えるハク。
「誰が」
「へえ…白龍様は顔に似合わず好戦的…っと。」
ハクの返答に火がついたのか、ギラリと燃え上がるような目をしてくつくつと笑うキジャ。
そんな様子に山賊の連中には気付いていないようで、
「ん?何だ兄ちゃん。震えてんのか?心配すんなって、大人しくしてりゃ殺したりしねーから」
そう言って、山賊の1人がキジャの腕に手を伸ばす。
ジュワッ
「う、わ!?」
キジャの腕に触れたその男は悲鳴をあげてのけぞった。
「どうした?」
「こ、こいつの手、沸騰してるみてェに熱いんだよ!」
「はぁ?何バカ言ってんだ……な、なんだ、それは……」
その場にいた全員が言葉を失い、キジャの右腕を目を押し開いて見ていた。
私もまた、見た事のない光景に固唾を飲まされながらも、何故がその腕を懐かしく感じた。
「不用意に触れぬほうがよいぞ
数千年……主を守るために待ちつづけたこの力……私でさえ抑えがきかぬ…!!」
大きく振り上げたキジャの腕は肥大し、巻かれた包帯を引きちぎる。
その猛々しさはキジャの言う通り、数千年待ちわびたとばかりに力を振るい山賊たちを薙ぎ払っていく。
「うわぁあああ!!!」
「何だあの腕!!」
「ば、化け物だ!!!」
「顔に似合わずエグイねぇ」
ハクが武者震いするようにそうこぼして、私もまた同じく震えていた。
「私も根っからの戦闘狂かな…」
「…ん?何か言った?ユンシェ」
「いいえ、なんでもないですよ」
敵対していなくてよかったと思う気持ちと、自分も手合わせしてみたいと言う気持ちがせめぎ合う。
「まだ足りぬ……!それで、ハクとやら。姫様のご命令通り、そなたも守ろうか?」
「お構いなく。間に合ってるんで…!!」
背中に背負っていた大刀をようやくその手に取り、ハクは一気に駆け抜けた。
あーぁ…あれは傷口が開いていそうだ。と山賊たちを薙ぎ払っていくハクを見て思う。まだ完全に治ったわけじゃないのに無茶をして。
どうやら私と同じでキジャを見て滾ってしまったようだ。
カチャ、
「ユンシェ?」
「姫様、ユン、動かないでね。」
2人に薙ぎ払われていく山賊たちを見て、こりゃら出番なさそうだと思っていたが、背後から近寄る気配を感じて鉄扇に手をかけた。
「ヘヘッ、人質になってもらうぜ…!」
「おっと、それ以上は近付かないでね。生憎、人質になる気はないんで…潔く諦めてくれたら怪我しないと思うなぁ。」
「何を、お嬢ちゃん達だけで何が出来るっていうんだ?」
「なんとでも。私、おにーさんより強いし。」
「おのれ、小娘!!人質は2人いりゃ十分だ!お前は切り捨ててやる!」
「えー?」
「ちょっと!ユンシェ!!!」
慌てるユン君の声を聞きつつ、切り掛かってくる男をしっかりと見据え、一歩踏み込んで男の懐に入り込み一線。
「ぐ、あ……っ!?」
「残念、ちゃんと言うこと聞いてればいいのに」
悲鳴を上げて男はその場に倒れこむ。
「な、なに、今の……全く見えなかったんだけど!!!」
ユン君が興奮したように目を丸め、信じられないとばかりに私を見てくる。
「いやいやそんな大したことしてないよ。っつ…、」
「ユンシェ!?」
走った激痛にずるりと崩れ落ち、その場にぺたんと座り込むと、心配して駆け寄ってきたヨナ達。どうやら思い切り動き過ぎたようだ。
「って、そうだよ!いくら元武将だからって、あんな動きしたら傷が開くに決まってるでしょ!!」
「次期武将です」
「屁理屈言わない!!」
ハッとして、同じくユン君も駆け寄ってきて、すぐさま薬袋を漁る。中から取り出した塗布薬を持って、背中を見せろと言うが大丈夫と言い続けるととりあえず今は諦めてくれた。
「ユンシェ!?どうした!?」
「姫様!?ご無事ですか!?」
「あーぁもう、めんどくさい」
ひと通り片付けたらしい2人が、こちらの異変に気付いて駆け寄って来る。
「なんでもない、1人やっつけただけだから。みんな無事だよ〜」
「お前なぁ…」
けれどもキジャは、状況がわからないと言った顔でこちらを見つめ続ける。
「ユンシェよ、怪我をしているのか?」
「ちょっとだけね。」
「ちょっとじゃないわ、重症よ!無茶ばかりするんだから。キジャ、ユンシェを守ってちょうだい」
「姫様!?」
「本来なら絶対安静の重症だしね」
「ユン君!?!」
「あのね、ユンシェは女の子なんだから。キジャや雷獣と一緒にしちゃダメ。」
「女の子とかむず痒いですユン君」
そんな話をしていたが、気になっていたことを思い出しハクに向き直る。
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