小説 | ナノ
「…!………い!……!」
「…う…?」
「おい!起きろ!トリシー!」
目を覚ますとローと背後に広がる砂漠が見えた。
「…あれ?着いたの?」
「どうやらそのようだな、俺もつい今しがた目を覚ましたから経緯はわからねェが」
アメストリスで砂漠ってことは…
「クセルクセス…
ここにわざと転送したのか、私の運命なのか
私もあの人の子ってことね…」
父の事を思い出しながらボソリと呟き、これからどうするかを考える。
「とりあえず情報収集かしらね…
中央に行きましょ」
「わかるのか?この砂漠のど真ん中で」
「一応コッチの出身よ?わからなくてどうするのよ」
クスリと笑うと、中央へと向かい歩き出す。
ーーーーー
ポッポー!
「…おい、あれはなんだ?」
これから乗る中央行きの列車を見てローが私に聞く。
「列車よ、あっちで言う海列車?とおんなじようなものよ。
さて、あれに乗るわよ」
「乗れるのか?
見た感じ紙切れの様なものが必要そうだが…」
「そうね、本来は必要だけど…お金ないし、身分証もないでしょローは。」
それ以前に大体2人して武器持ちだから、乗る前に止められてもおかしくないけど。
「まだ使えるかわかんないけど、やってみますか!」
隠れていた小道から出て堂々と歩くと、駅員らしき人から声がかかる。
「コラコラ、君たち!そんなのもって乗れないよ!」
「私達仕事帰りで…、中央に戻るところなんだけれど乗れないのかしら?」
「それはっ…!」
一応持っていた国家錬金術師の証、銀時計をチラつかせるとあからさまに態度を変える駅員。
「いいえ!いえいえ!
国家錬金術師様ならどうぞ!お通り下さい!」
「悪いわね、お金は軍に請求しておいて」
サッと身を翻し、乗車する。軍服じゃないし、査定もやってないから通用しないかと思ったけど意外といけるもんだわ…
「へェ、軍ってのはやっぱそういうところ楽だな。」
「コッチでしか通用しないけどね、向こうじゃ無法者だし?」
「まぁな」
話をしながら懐かしい窓からの景色を見て、中央へと向かう。
「今、なんて言った?」
「で、ですから…
イーストシティの駅にて"玉尖の錬金術師"が確認されたそうです…!!」
「そんな馬鹿な…8年もの間行方不明だったのに、確かなのか!?」
トリシーが向かっている中央では、懐かしい顔ぶれが集まっていた。
「…まるで彼が誘拐されたこの事件を察して戻ってきた様だな」
「姉さんが…!」
「アルフォンス君、嬉しい気持ちはわかるけど油断しないでね。この事件との繋がりがないとは言えないから。」
リザの言葉に、わかってます。と話すアルフォンス。
そんな話がされているとは知らず、トリシー達は中央へと向かっていた。
「うわぁ…懐かしい、」
中央、セントラルシティについた私は懐かしさに思わず頬を緩める。
「懐かしがってる場合か、ガキが危ねえんだろ?」
「それはそうなんだけど、たぶんアルや大佐もいるからよくよく考えたら私いるかな…って思い始めて…」
「今更か」
「今更ね」
思わず、ごめんと笑う。
ここまで来ちまったからには助けてサッサと戻るぞと足を進めるロー。
ほんと態度に似合わず優しいなーとフフッと笑ってローを誘導する。
「ここは中央司令部!許可なき方はお通し出来ません!」
ビシリと中央司令部の入り口に立つ警備員。
「あら、私を誰だと思ってるの?」
「えっ」
チャリッ、
「トリシー・エルリック。玉尖の錬金術師よ、そこ…通してもらえる?」
銀時計を出して警備員に見せると、失礼しました!!と言って通してもらえた。
「さっきも銀時計使えたし、私の扱いってどうなってるのかしら…」
「在籍になってるのか、ただ単にその時計に反応しただけか…どっちだろうな」
ローと話しながらコツコツと歩いて行くと、ちらほらと見たことのある顔が驚愕に染まっていく。
「エルリック家長女の…!」
「玉尖の錬金術師…!!」
「何年振りだ…!?」
「相変わらずお美しい…」
「トリシーさんが来たということはやはりあの噂は…」
「随分と有名人じゃねえか」
口々に噂する軍人達を見て、ローが拗ねたように呟く。
「私はそうでもないわよ、ホントに有名なのは弟の方だから」
「どうだかな」
そんな会話をしていると大きな扉の前につく。
バンッ!!!
「開けますよ大佐!」
「玉尖の…随分と久しぶりの帰還じゃないか?」
「ねえさっ…!」
「アル!!エド!!久しぶり〜〜〜!!!」
「私は無視か?」
大佐の返答も待たずに扉を勢いよく開けると、懐かしい弟達の姿を見つけた。
思わず走り出して2人に抱きつき、グリグリと撫でる。
「やだもうアルったらすっかり男前になっちゃって〜!エドは相変わらず小さい…って………あれ?」
撫でていたエドが異常に小さいことに気付き、撫でるのをやめてまじまじと見る。
「…え…?…あら?エドじゃない、わね」
「おれはウィンヤード・エルリック!」
「姉さん、紹介するね!
兄さんとウィンリィの息子のウィンヤードだよ。」
「えっ…!!?」
ウィンヤードというエドの息子はエドにそっくりの外見で、ウィンリィの面影があるとすれば目が碧いことくらいだろうか。
しかし、息子がここにいるということはどういうことだろうか。
エンヴィーが偽の情報を…?
「…ちなみに、ウィンヤードくん以外に子供は…?」
「?いるよー、今はウィンリィと一緒だけど女の子のエリィちゃん。」
「ということは…誘拐されたのはエドの方か…」
「「「!!」」」
ボソッと呟けば全員の顔つきが変わる。
「姉さん!それ一体どこで…!っていうか!!そうだ!今までどこに!!」
「それと、そこにいる男性についても説明してくれるかね?」
「わかった、わかった
わかったから!話すから落ち着こうか」
全員を座らせ、今までのことを粗方話し始めた。
「………それで、エンヴィーにエドの息子が誘拐されたって聞いて戻って来たって感じ。」
「なるほど…ということは玉尖のと同様に彼も戦力に数えても?」
「ああ」
「キング・ブラッドレイの残党って聞いたけど、なに?そんなにヤバいやつなの?」
説明を終え、ようやく本題へと入る。
「賢者の石」
「!?…ちょっと、冗談でしょ?
あの時全て処分したわよね?」
「ブラッドレイの腹心がね、持っていたようなんだ。」
「じゃあ何?エドは錬金術使えない所、賢者の石相手に捕まったってわけ…」
そりゃこの雰囲気になるわ。と思っていると、ローが賢者の石ってのはなんだと聞いてくる。
「哲学者の石 、天上の石、大エリクシル、赤きティンクトゥラ、第五実体など、様々な別名のある伝説上の存在。
錬金術師の力を大幅に増幅し、対価無しの錬成が可能となる代物さ。
ただし、その材料は生きた人の魂だがな。」
「へえ、そりゃすげえ。鋼屋を助けたら、それをくれ。トリシーに持たせれば最強だ。」
「ダメに決まってんだろ!何言ってんだお前!」
「あ?なにか問題あるか?俺たちは無法者だぜ?当然お前らの大事なトリシーもな。」
ローの言葉にハボックが噛み付くと、ローがギロリと睨む。
「姉さん」 「玉尖の」
「わかってる、言いたいことはわかってるから。しょうがないでしょ…捕まっちゃったんだから…」
でも賢者の石だけはダメ、戻ってきても即処分。と言えばローは舌打ちをした。
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