小説 | ナノ
職場体験、当日
「コスチューム持ったな。本来なら公共の場じゃ着用厳禁の身だ。落としたりするなよ」
「はーい!」
「伸ばすな“はい”だ、芦戸。くれぐれも失礼のないように。じゃあ行け」
「楽しみだなぁ!」
「お前九州か、逆だ。あ、滑空、お前は?」
「福岡〜」
「お前も九州か〜」
切島にそう答えると美鳥はサッと視線で飯田を探す。前日にいずくんから飯田くんの詳細を聞いたのだ。かつ、雰囲気がおかしいと。キョロキョロと見まわすと、同じ仕草をしている人物が隣にいて、思わずぱちりと目が合う。
「焦凍くんもいずくんに聞いたの?」
「ああ、まあな」
「確かにちょっと様子がおかしいね」
「そうだな、なにもないといいが」
階段を上がる飯田の背を見送り、美鳥は轟と一緒にホームを目指す。
「福岡ってことは、やっぱホークスのところか」
「うん、まあね。私もつい最近知ったんだけど、イトコらしくて。お父さんも安心だーって。」
「イトコ…!?あのホークスとお前がか…?!」
「その反応わかる〜!ビビるよね」
「でもそうか…なら、まあ、安心か。イトコなら何もねえだろ。」
“イトコなら何もないだろ”という轟の言葉に若干反応して、そ、うだね。と微妙な返事を返してしまった。
いつもと違う反応に?と首をかしげると轟だった。
――――――――――――――――
「ようこそ美鳥ちゃん、改めまして“ウイングヒーロー”ホークスだよ」
大きな赤い羽根、“剛翼”を背負いゴーグルがトレードマークのホークスさんが出迎えてくれた。
「数日間宜しくお願いします!雄英高校1年A組、滑空美鳥です。」
「こちらこそ。ヒーロー名は?」
「フェニックスです。」
「は〜かっこよか!!」
ふにゃり、と顔を緩めたホークスにドヤりと、胸を張るが。
「でもね、俺知ってるんよ美鳥ちゃん。
雄英高校襲撃事件の時、無茶したとね?」
「え」
スッと目を細めたホークスの口から出た、予想外のセリフにヒクリと頬が引き攣る。
「“其は炎から蘇る”だっけ?一度だけ攻撃を全吸収。攻撃の重さによって反動が変わる。」
随分、自己犠牲な技とね。と一瞬悲しそうに笑ってから口を開く。
「でも、俺んとこを選んだからにはそんな技にはさせない。
みんな守って、自分も生きる。」
俺が君をそう成長させる。
言い切ったホークスに、できるかもしれないと拳を握り、息を大きく吸う。
「よろしくお願いします!!」
「こちらこそ。俺も美鳥ちゃんが大事やけん。」
またふにゃりと笑ったホークスは、およそ数個しか年齢が離れていないとは思えないような、大人びた雰囲気で少し胸が高鳴った。
じゃあ、早速パトロールからね!と手を引っ張られ、ホークスがモテる理由がわかるなあと、一人物思いに耽っていると、ホークスが大きな声を出す。
「えーーー!?やだ!!」
「やだじゃありません、ホークス。
あなたはお忙しいんですから、我々が彼女を対応します。」
「…そんなこと言ってぇ、美鳥ちゃん独占したいだけと?」
「ないです。」
どうやらホークスが直々に指導するつもりが、多忙なため駄々をこねている状況のようだ。
結果どうしてもホークスでないと駄目な仕事があり、夕方!!夕方には戻るけん美鳥ちゃん、待っててほしか!!と叫び倒していった。
「すみません、ホークスが」
「え!?いえ、とんでもないです。これからよろしくお願いします。」
「ええ、こちらこそ。」
その後はホークスの側近さんとパトロールを行った。
街をパトロールすれば、色んなところから声をかけられ疲弊した。
気づけばもう夜だ。
―――
「ふぅ…」
「フェニックス、お疲れ様」
「あ、ありがとうございます。」
「また明日もよろしくね」
「あっ、はい!」
事務所に戻り、一息つくとお茶をもらった。
事務所にもいないことからホークスは終わらなかったのだろうと納得して、用意されたビジネスホテルに向けてその日は帰路についた。
――――次の日。
「あ!!美鳥ちゃん、昨日帰ったとね!?」
「わっ!?おはようございますホークスさん」
「ホークス、私が上がっていいといったんです。彼女を責めないでください。」
待っててっていっとったとに〜!と羽根をバサバサするホークスさんをなだめる側近さん。
「今日は俺と自主練するけんね!!」
「!いいんですか?」
「俺が許可します!!可愛い!!!」
ホークスさんに見てもらえる!、パァ!と嬉しい気持ちを前面に押し出すと、悶えるホークスさん。
今日は急ぎの件もないようで、側近さんにも許してもらい訓練室へと移動した。
「確かエンデヴァーさんに指導されとったんよね?」
「まあ、私は焦凍くんのおまけみたいなものなので、炎の個性だけですけどね」
「なるほど、じゃあ鳥の方の個性伸ばそか。」
「!お願いします!」
その日はホークスさんと猛特訓を行った。
「は〜どうやら“其は炎から蘇る”は炎側の個性っぽいね。」
「そうですね、でも代わりに鳥の個性はおかげさまでだいぶバリエーション増えました…!」
手や足の鉤爪化や、翼での超速移動、小回りの仕方、羽根が飛ばせるのかどうか、体のどこまで鳥化できるのか。など炎がなくてもできることが増えた。あとはこれを強化していく。
「まあまだ日程もあるし、パワーローダーさんとかに出すサポート系のものを考案してみるのもよかね」
「あっ、あ〜!確かに…サポート関係すっかり抜け落ちてました」
「また余裕があったら様子見てあげるけん。明日は俺、予定あるんで代理用意しとくね。」
ほんとは俺がエスコートしたいんやけど。とぼそりと呟かれたセリフは小さく消えた。
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