霧+天


「はぁ…」

休憩中の事だった。
いつもは信介達とじゃれている天馬がベンチで一人座っていた。
珍しい事もあるもんだと思い声をかけた。

「天馬、」
「!、霧野先輩」
「さっきからため息ばかりだけどどうかしたのか?」
「…そんなについてます?」
「あぁ。何か悩み事か?」

そう聞くとしばらく躊躇っていたが視線を神童にやるとポツリと答えた。

「…どうして俺なんかがキャプテンなんでしょうか」
「え?」
「だって俺には神童先輩や太陽みたいにチームの皆を引っ張る事も出来ないし、試合の時だって…」

だんだん天馬の声が小さくなっていった。
こうしていると昔の神童を思い出す。

「どうして…か、…でも神童だって最初は…今もだけどもっと泣き虫で毎日部活の後ぼろぼろ泣いてたんだぞ?」
「神童先輩が…?」
「お前が思う程あいつも完璧じゃないって事さ」
「でも…」

それでも納得出来ないようだった。
やれやれ、新キャプテンも旧キャプテンに劣らず手のかかる奴だ。

「そうだな…俺もはっきりとは言えないけど神童にはないものをお前が持ってるからじゃないのかな」
「神童先輩が持ってないものを…?そんなの…」
「言っとくけどお前以外の奴は皆『それ』を知ってるよ」
「え…って事は霧野先輩も知ってるんですか!?」
「まぁな」
「教えて下さい!!」
「ダメ。」
「え!?」

ホントにコロコロ表情が変わる奴だ。
見てて面白い。
けど、

「…それはお前が自分自身で気づかなきゃ意味がないからな」
「自分で…」
「答えはお前のすぐ傍にあるさ」

俺はポン、と天馬の頭を撫でた。

「以上!!先輩からのアドバイスでした!!」
「え?」

調子を変えて明るく言うと天馬は呆気にとられたようだった。

「大丈夫。お前にもお前にしか出来ない事があるさ」
「俺にしか…」
「じゃあな」

俺は天馬の傍を離れた。
天馬は俺が言った言葉を繰り返していた。


「霧野。」
「ん?」
「天馬と何話してたんだ?」
「あ―…」

さっきの天馬と神童がかぶって見えた。
目の前の神童は不思議そうに小首を傾げてる。


「新旧共にキャプテンは世話がやけるって事だな」

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