いつか、また(蘭ジャン)


「蘭丸、こんな所にいたのですか」
「!ジャンヌ」

目的であったジャンヌとのミキシマックスも成功し、明日は現代へ帰る日となった。
そのためにも早く寝なければならないのだが何故か目が覚めてしまった。

「隣、いいですか?」
「あぁ、勿論」
ジャンヌは礼を言うと隣に座った。
「蘭丸達は明日…帰ってしまうのですね…」
「あぁ…」
改めて口にするともう二度とジャンヌに会えないという事実に押しつぶされそうになった。
「私…あなた達に…蘭丸に会えて良かった。蘭丸のお陰で私は自分に出来る事を見つけられた。本当にありがとう」
ジャンヌが柔らかく微笑んだ。
「そんな…俺の方こそ君には勇気をもらった。君のお陰で俺は迷いを振り切り強くなる事が出来た。俺の方こそありがとう」
「蘭丸…」
そう言うとジャンヌはぐっと下唇を噛んで下を向いてしまった。
何か気に障る様な事を言ってしまったのだろうか?
「ジャ、ジャンヌ?」
「どうして…どうしてそんな事言ってしまうのですか…っ」
顔を覗きこむとジャンヌの目からポロポロと涙が溢れていた。
「わかってます。蘭丸達は帰らなければいけないと…っだからちゃんと笑顔で見送らなきゃって思ってたのに…」
「ジャンヌ…」
拭っても拭ってもジャンヌの涙が止まることはなかった。
「嫌……嫌です私蘭丸と離れたくないです!!だって私蘭丸の事……っ!!」
俺はジャンヌの言葉を遮ってジャンヌの事を抱きしめた。
どうしてもその言葉は俺から言いたかった。
「ら、蘭丸…?」
「好きだ」
「え…」
「好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ…―」
「え、ちょ、ら、蘭丸?」
ジャンヌの耳まで赤くなっていくのがわかった。
けれどどんなに好きという言葉を並べても俺の気持ちを伝えるには足りない位だった。
「俺だって離れたくない。出来ればずっと一緒にいたい…」
「蘭丸…」
「いっそのこと君を一緒に連れて行ければいいのに…っ」
抱きしめる力に更に力がこもった。
「蘭丸…っ」
ジャンヌもそれに応えるかの様に抱き返してくれた。
けれどその肩は小さく震えていた。

わかってる。
そんな事が出来ない事くらい。
別れの時間が刻々と迫っている事も。
だからこそ、1秒でも長くジャンヌに触れてジャンヌの姿を、匂いを、温もりを、全てを覚えていたかった。

「ジャンヌ…っ」

泣くまいと思っていたのに俺の目からも一筋の涙がこぼれた。



「行ってしまうのですね…」
「あぁ…」
他の皆は既にキャラバンに乗り、まだ乗ってないのは俺だけだった。
「君からもらった力、有り難く使わせてもらうよ。大切なものを取り戻す為に」
「はい。蘭丸に神のご加護がある事を祈ってます」

二人の間に優しい風が吹き抜けた。

「…それじゃあ俺はもう行くよ」
これ以上ジャンヌの顔を見ていると本当に取り返しのつかない様な事をしてしまいそうだった。
「…っ蘭丸!!」
「なん……っ!!」
ジャンヌに呼ばれ振り返ると唇に一瞬何か柔らかいものが触れた。
それがジャンヌの唇だとわかったのはジャンヌが離れた後だった。
「大好きです。傍に居られなくとも、心はずっとあなたをお慕いしています」
「ジャンヌ…」
「今回は蘭丸達が会いにきてくれました。だから今度は私が会いに行きます。いつかきっと…必ず」
ジャンヌが綺麗な涙を流しながら美しく笑った。
その笑顔は今まで見たなかで一番輝いていた。

皆に見られていようと関係なかった。
俺はジャンヌを昨日よりも強く抱きしめた。
「あぁ…いつかまた、きっとどこかで会おう」
「はい…っ!!」


「もう…いいのか」
「あぁ…」
隣にいる神童が声をかけてきたが俺は窓の方を向いていた。
「…神童は…ジャンヌの最期を知ってるか?」
「……あぁ」
いつだったか授業で教わった。
ジャンヌ・ダルクはオルレアンを救った英雄だったと。
と、それと同時に…魔女だと罵りられ生きたまま火で炙られたと。
「あの子は魔女なんかじゃない。自分に何が出来るのかと一生懸命もがく、ただの普通の女の子だよ。それなのに…俺は無力だな…俺はあの子に助けられたのに俺はあの子一人助けられない」
「霧野…」
「わかってる。歴史を変えてはいけない事も、変えられない事も。それでも俺は…あの子を助けたかったよ」
「………」
「…タイムスリップというのは残酷だな…例え生きてる時代が違くとも情はわく。それでも俺達はその時代にとっては異質だ。必ず別れの時は来る」
神童は一瞬何かをいいかけてたがすぐに口を閉じた。
しかし何かを考えこんだかと思うと静かに問いかけた。
「…なら…ジャンヌと会わなければ良かったか?」 
「…っそんな事ない!!」
俺は思わず神童の方を振り返った。
「俺はあの子に沢山の事を教えてもらった!!ジャンヌに会えたから俺は強くなれた!!確かに会わなければこんな辛い思いはしなくてすんだだろうけどそれでも俺は…っ!!」
いつの間にか俺は泣いていた。
神童はその涙を軽く微笑みながら拭ってくれた。
「…確かにもうジャンヌには会えないかもしれない。けれどお前の心にはいつまでもジャンヌがいる。そしてきっとジャンヌの心にもお前がいる。そうだろう?」

『傍に居られなくとも、心はずっとあなたをお慕いしています』

「あぁ…そうだな…」

―ジャンヌ、俺も君の事を忘れない。俺の心もいつまでも君の傍に―

『蘭丸!!』

(だからいつか会える日まで…さようなら。また、な)



「好きです!!私と付き合って下さい!!」
「悪いけど…」
時は経ち、本当のサッカーを俺達は取り戻した。
それでも俺はジャンヌの事を忘れた事などなかった。

(あー…そろそろテスト勉強始めないとヤバいなー…)
「あの…」
「はい?」
「これ落としましたよ」
部活も終わり家に帰る途中だった。
振り返ると俺と同い年位の女の子が俺の定期を持っていた。
どうやら気付かないうちに落としてしまっていた様だった。
「え、あ…す、すみません!!どうもありがと……」
近づいてお礼を言おうとした時だった。

そこにはあの時と変わらなぬ、優しく微笑むあの子が立っていた。

「君は…」
「やっと会えましたね。蘭丸」

その顔を見た瞬間俺はその子を力強く抱きしめていた。
今度こそ離れないように。

「あぁ。やっと会えた」


(これからはずっと一緒にいよう)

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