ミニスカ(錦水)


「ウ、ウソだろ…このあたしが負けた…?」
「よっしゃーっ勝ったーっ!!」
水鳥が悔しさで震えているのとは対称的に後方ではクラスの男子が万歳していた。
「水鳥ちゃんドンマイ」
茜はそんな水鳥の肩に手をポンと置いた。
「くっそー…絶対勝てると思ったのに…」
「へッへー。んじゃ瀬戸!!約束どーり罰ゲーム受けてもらうぜ!!」
「くっ…わかったよ!!…んで?罰ゲームってなんだよ?」
「そーだなー…おい皆!!どーするよ!?」
「あ、じゃあアレは?」
「あーアレか!!」
男子達が集まって何やら相談をし始めた。
「…っおいお前ら!!コソコソ喋ってねーでとっとと言いやがれ!!」
「水鳥ちゃん、鉄拳禁止」
男子達がいつまでも話しているのに苛立って思わず水鳥は腕を振り上げたが茜に止められてしまった。
「お、怒るなよ…でも決まったぜ、お前の罰ゲーム。それは…」
水鳥はごくりと固唾を呑んだ。


―次の日―
「ん〜、やっと授業終わった〜…天馬ー、信助ー、早く部活行こー」
「うん!!」
葵は嫌いな数学の授業が終わると軽く伸びをして天馬達に声をかけた。
二人も葵の声に応えると急いで支度を始めた。

教室を出て2年生の教室の前を通ると聞き慣れた声が葵達の耳に入ってきた。
「今日は部活サボる!!」
「サボりはダメだよ水鳥ちゃん。それにせっかく可愛いカッコしてるんだから錦くんに見せてあげないと」
「なんでそこで錦が出てくんだよ!?」
何を騒いでいるのかと思い葵はひょこっと扉から顔を覗きこませた。
すると、
「わーっ!!水鳥さん可愛いです!!」
「げっ、葵!!」
入り口付近でいきなり叫んだ葵に水鳥は顔をしかめた。
葵につられて天馬達も顔を覗きこませると口をあんぐりと大きく開けた。
「せ、先輩が制服をちゃんと着てるー!?」
「あーもーうっせーっ!!」
天馬に言われた水鳥は顔をこれでもかという程赤く染めた。
今日の水鳥はロングスカート姿を規定通りのスカートを膝丈に履き、胸元もリボンを付けていたのだ。
「水鳥さんどうしたんですか!?このカッコ!!」
葵はそんな水鳥に構わず目をキラキラと輝かせながら水鳥に詰め寄った。
「水鳥ちゃん、昨日クラスの男子達と勝負したの。でも最後の試合で負けちゃってこれはその罰ゲーム」
茜が微笑みながらそっぽを向いている水鳥に変わって説明した。
「へ〜因みに何で勝負したんですか?」
「腕相撲」
「う、腕相撲ーっ!?」
「くっそーっ!!後1人、後1人さえ勝てれば男子全員抜きだったのにーっ!!」
水鳥は昨日のこと思い出してはまた悔しさが込み上げてきたのか再び嘆いていた。
「というより水鳥さんそれまで全勝だったのですか!?」
「ん?そうだけど?」
「すっご…」
中2にもなればある程度、いやかなりの差が男女間で生まれる。
にも関わらずクラスの男子ほぼ全員に勝ってしまうとは恐ろしい。
「もう帰る!!」
「ダメ」
「ち、因みにクラスでの反応はどうだったんですか?」
葵が水鳥を落ち着かせようと気をきかせて質問をしたが逆効果だった。
「それがさぁ!!アイツら自分達で言い出した癖にいざこっちが開き直ってこのカッコしたら目も合わせないんだぜ!?」
「それって…」
単に恥ずかしくて直視出来なかっただけなんじゃ…と葵は思い、茜の方を見ると茜が小さく頷いたのでおそらくその通りなのだろう。
いつもは隠れている足が今は晒されている。
おそらく男子達が目を合わせられなかった主な理由はこれだろう。
(水鳥さん、只でさえ美人なのに足細くて綺麗だもんな〜) 
葵は羨ましく思い、人知れずため息をついた。「ほら水鳥ちゃん、いつまでもごねてないで行こ?」
「だからあたしは…っ」
「ね?」
「う…っ」
茜は小首を傾げ、上目遣いげに言った。
水鳥はこの表情に弱いのだ。
「…っあーもーわかったよ!!行けばいーんだろ行けば!!」
「さっすが水鳥ちゃん」


「うっわどーしたん瀬戸!!珍しいカッコじゃーん!!」
水鳥の格好にいち早く気づいたのは浜野だった。
「ホントだ、珍しいな。心境の変化か?」
他のメンバーも水鳥の姿を物珍しげに見ていた。
「あーもーうっせー!!こっち見んな!!」
「水鳥ちゃん罰ゲーム中なの。ところで錦くんは?」
「錦なら日直で遅れるってさ」
「えーつまんない」
霧野の答えに茜は頬を膨らませた。
「ってか、さっきからなんで茜はそんなに錦にこだわってんだよ?」
「秘密」
水鳥は訝しげに尋ねるが茜は笑ってばかりで答えなかった。
すると、
「おーい、遅れてスマンのー」
遠方から手を大きく振りながら走ってくる錦がやってきた。
「意外と来るの早かったな」
「おぉ!!ワシは日誌とか書くのは苦手じゃから相手の女子に任せていたきに。わしは他の仕事しかしとらんから早く終わったんぜよ!!」
錦が豪快に笑いながら言った。
すると、
「錦ー、見てみ見てみ瀬戸のカッコ」
浜野がニヤニヤと笑いながら錦を手招きした。
茜はそんな浜野を内心ナイスッ!!と思った。
「ん?………どうしたんじゃ水鳥、その格好…」
錦は水鳥の姿を見ると呆気にとられた様に口をポカーンと開けた。
「どう?錦くん、水鳥ちゃん可愛いでしょ?」
茜が水鳥に腕を絡めさせながら聞いた。
「………」
「な、なんだよ、笑いたきゃ笑えばいーだろ!!」
何も言わない錦に水鳥は焦れて頬を赤く染めながら錦を睨み付けた。
「水鳥…おまん、そうしてると……女みたいぜよ!!」
錦が大きく口を開けて笑いながら言った。

その瞬間錦の腹に水鳥の鉄拳が炸裂した。


「錦…今のはお前が悪いぞ」
倒れている錦に向かって神童が言った。
因みに水鳥はというと、「あたしの事なんだと思ってんだよ馬鹿錦!!死ね!!」と言いながらドタドタと歩いていってしまった。
「そーそー、ちゅーか素直に似合ってるとか可愛いとか言えない訳?」
「水鳥さん可哀想…」
メンバー全員に責められた錦はさすがにへこたれた様だった。
「皆してひどいぜよ…」
「ひどいのは錦くんでしょ。なんであんな事言ったの?」
茜が頬を膨らませながら言った。
「それはじゃなー…そのー…」
錦が言いよどむのを見てこれは何かあると思い茜は他のメンバーを散らし、錦を隅っこに引っ張った。

「ここなら誰にも聞かれないよ。話してくれるよね?」
茜は逆らい難い笑顔のまま錦に言った。
「…水鳥に言わないぜよか?」
「うん」
錦は観念して微笑んでいる茜に話始めた。
「…水鳥の格好、似合ってたぜよ」
「うん」
「…何故かはわからんが誰にも見せたくなかったぜよ」
「だから?」
「…あー言えば水鳥はきっと怒っていつもの格好に戻ってくれると思ったんじゃ」
「要するに錦くんは水鳥のあの格好、独り占めしたかったんでしょ?」
「は?そう…ぜよか?」
茜の発言に錦は呆気にとられた。
茜はそんな錦を見るとにっこり笑った。
「錦くん、今のセリフそのまま水鳥ちゃんに言ってきなよ。水鳥ちゃんきっと喜ぶよ」
「…それはまっことぜよか?」
恐る恐る尋ねる錦に茜は微笑んだ。
すると錦は急に元気になり、
「ならワシ行って来るぜよ!!」
「行ってらっしゃい」
すくっと立ち上がって水鳥が行った方に錦は走っていった。

その数分後、聞き慣れたバキッという音が遠方から聞こえてきた。



おまけ
次の日、錦が机の上で突っ伏していると傍に人の気配を感じた。
顔を上げると茜は微笑みながら立っていた。
「山菜…昨日山菜の言った通りに言ったらまた殴られたんじゃが…」
そう言う錦の頬には湿布が貼ってあった。
「水鳥ちゃん照れ屋さんだから。…でもこれじゃ錦くんが可哀想だから頑張った錦くんにご褒美あげる」
そう言った茜は持っていた分厚い封筒を錦に渡した。
「?何が入っておるんじゃ?……!?」
封を切ってみると中には昨日の水鳥の写真が沢山入っていた。
「や、山菜…これって…」
「水鳥ちゃん、結構ガード堅いから撮るの大変だったんだよ?」
「じゃ、じゃが水鳥の許可も無しにこんなのもらっていいんじゃろか?もしバレたら…」
「撮ったのは私だもん。それともいらない?」
「…いるぜよ」
茜はにっこり笑った。


こうして錦と水鳥は茜によって引っ掻き回される日々が始まった。



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