霧+茜


「「はぁ……」」

隣ではない。
しかしそう遠くない距離から自分以外のため息が聞こえた。

「「………」」
「どうしたんだよ茜、そんな大きなため息吐いて」
「霧野くんこそ」
「「………」」

両者が暫く見つめあう。
しかしどちらかということもなく目線を外すと二人共再び大きくため息を吐いた。

「神童が心配だ…」
「シン様が心配…」

二人がそう呟いたのはほぼ同時だった。


「せっかく使命とかなんもない、ただただ、勝利を望む、笑いながらサッカーするアイツが見れると思ってたんだけどなー…」
「シン様、ずっと難しい顔してる」
「まぁチームメイトがほぼ初心者だもんなー」

日本代表の選考試合があったのはつい先日の事。
その後、アジア予選の試合をテレビ越しではあるがサウジアラビア戦を見てもはなんとか形にはなってきてはいるものの、やはり日本代表というのはお粗末なプレイばかりだった。

「アイツ、自分にも厳しいけど他人にも厳しいからさ、多分あのGKと仲悪いんだろーなー」
「シン様の活躍もっと見たい…」
「してるけどな、DFで。」
「シン様DFじゃないもん」
「…そうだよな」

瞳が潤み始めた茜の頭を霧野はよしよし、と優しく撫でた。
茜はごしごしと目頭を拭うとそっとカメラを撫でた。

「…シン様には笑ってサッカーしてもらいたい」
「…あぁ…」


アイツが日本代表に選ばれた以上、アイツが辛くても傍にいる事は出来ない。
だったらせめて、

(早くアイツが楽しんでボールを追いかけられる日が来ますように)

遠いこの地で願おうじゃないか。

(負けんなよ、神童)



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