それはわたしなりの“覚悟”
だった。

とても痛くて、怖くて、どう
しようかと随分迷った。お母
さんがこんなの見て泣いちゃ
ったらどうしようとか、温泉
にももう行けないのかな、と
か色んなことを考えた。けれ
どこれはわたしなりの“覚悟
”の表現。
海賊として生き、どんな生死
も受け入れ、命を奪い合う、
覚悟の表現。


久々に感じるお父さんの
匂い、それらはわたしをすご
く安心させた。

「 キヨカ、もう体調はいいの
か?」

膝の上でピューマ姿のままで
頷くと、お父さんは「そうか
」と言ってわたしの首元を撫
でる。
お父さん程の人だから、きっ
と昨日までのわたしの体調不
良の原因は風邪だけでは無い
ことくらい分かっているはず
だ。けれどもそれ以上は何も
聞かないで、穏やかな笑顔で
膝に乗るわたしをいつも通り
受け入れてくれた。
その優しさが、さりげない気
遣いが、すごく嬉しかった。


「お父さん、」


お父さんの膝から降り人間の
姿に戻ると、袖をめくりお父
さんに“それ”を見せた。
お父さんは一瞬驚いた顔をし
たあと、グララと笑ってわた
しの頭を撫でた。


「これでわたしも本当に白ひ
げの家族になれましたか?」

「ハナッタレが、そんなもん
無くったっておめぇはもう家
族だったろうが?」

「……っ、ありがとうござい
ます。でも、何て言えばいい
のかな…これはわたしなりの
覚悟なんです、」

「…覚悟?」

「…海賊として生きていく覚
悟、どんな生死も受け入れる
覚悟、命を奪い合う覚悟、い
ろんな覚悟です」


朝、彫り師に頼んで彫っても
らったばかりの二の腕の白ヒ
ゲマークのタトゥーは、まだ
ヒリヒリと鈍い痛みを伴って
いる。けれどその痛みが、な
ぜたか誇らしいのはわたしが
お父さんを、白ヒゲを心から
尊敬してるからに違いない。


「これはわたしの“覚悟”。
そして“誇り”です。」


へへっと笑うと、お父さんは
もう一度「このハナッタレが
」と言って、それでも嬉しそ
うに笑ってくれた。

わたしはこの人に命を預け、
この人の為に大好きな人と共
に生きよう。

そう心に秘めた、そんな日だ
った。


「オヤジ、喜んでたか?」

甲板で寝転がってひなたぼっ
こをしていたエースさんが、
近づいてくるわたしに気づき
声をかけた。
こういうまどろんだ表情、そ
のほっぺにあるそばかす、
わたしはそれがすごく好き

「“ハナッタレ”って言われ
ちゃいましたけど、喜んでく
れたみたいです」

「オヤジ照れてんだよ、」


にかっと笑うエースさんの隣
に腰掛けると、エースさんは
起き上がりわたしの方に向き
直った。


「まさか キヨカがタトゥー入
れるなんてなー」

「意外でした?」


今朝彫り師の部屋を出て、わ
たしはすぐにエースさんの姿
を探した。どうしても一番に
エースさんにこのタトゥーを
見て欲しかった。

食堂を出たばかりのエースさ
んを見つけて、わたしは何も
言わずにこのタトゥーをエー
スさんに見せつけた。最初目
を丸くしていたエースさんは
そのうち「ばかやろう」と言
って笑いながら頭を撫でてく
れた。

「まぁ驚いたけどな。けどそ
れはおめぇの覚悟なんだろ?」


「…はい。それから…タトゥ
ー入れたらなんだか、やっと
本当に白ヒゲ海賊団の仲間に
なれた気がして、わたしすご
くすごく嬉しいんです。」


そう言ってタトゥーを撫でる
と、まだ酷くヒリヒリした。
でも痛みすら誇らしいのだ。


「本当、おめぇはばかだな」


そう言いながらわたしの頭を
撫で、再び寝転ぶエースさん
は何を思ったのやら、わたし
が女座りをする膝へと、自分
の頭を乗せると満足気に目を
閉じた。
「…エースさん、?」

突然のことに声が上擦りそう
なのを必死で堪え、わたしの
膝へ頭を乗せるエースさんに
声をかける。緊張と、動悸の
激しさのせいで一気に体が硬
直する。
だって、目線を下にやればす
ぐそこに黒い癖っ毛や長い睫
毛、整った鼻筋や大好きなそ
ばかすがあって、手をやれば
すぐに触れられる距離にある
んだもの。

ひそかにエースさんに想いを
寄せるわたしが平常心でいら
れるはずがないじゃないか


「ちょっとくれぇいいだろ?
キヨカ柔らかくて、いい匂い
するし、何か落ち着くんだ」


瞳を閉じたままそう言うエー
スさんに、心の中では「どう
ぞ、どうぞ!」なんて叫びな
がら、まるで体中の血という
血が顔の一点に集まってるか
のような、そんな感覚を感じ
ていた。

そして聞こえてきた静かな寝
息。
恐る恐る手を伸ばして、起こ
さないように、気づかれない
ように、そっとエースさんの
髪を指にすくった。
少し癖っ毛で柔らかくて、そ
の感触に、胸の奥底から愛し
さとか切なさとか、そんな色
んな感情が沸き上がってきて
それを止めることなんて、わ
たしには出来なかった。


愛しさとはどこからきて
どこへ向かえばいいのか、

そんな答え、分かる訳ないけど
この人の為なら、どんなことだ
って、なんだって出来てしまい
そうな自分がとても恐ろしいん
だ。
愛は斯くして全盲なり
20101201 title by3gramme


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