「た、足りない?」

「ああ。全然足りないね」



Tシャツ3枚、ショートパ
ンツ2枚、下着3セット。
それをレジまで持って行く
とレジのちょっと怖そうな
お姉さんに8700ベリーだ、
と言われた。ベリーなんて
単位分からないから「これ
で足りますか?」と巾着の
中のお金を全部出せば、全
然足りないと言われた。

「あ、じゃあすいません。
いくつか戻してきます、」

「あんた、そりゃダメだよ
一度買うと言ったんだ、全
部の代金きっちり払っても
らうよ!」

「…そんな、じゃどうすれ
ばいいんですか?」

「あんたも一端の女だろ?
あたいの知ってる店のもん
呼ぶから、体売ってでも今
日中に払ってもらうよ」

「そんな…!無茶苦茶な、」

「ガタガタうるさいんだよ
なんならここであんたの頭
かちわってもいいんだよ!」

そう言ってわたしの顔にふ
ぅっと煙草の煙をはきかけ
逃がすまいとがっちりとわ
たしの手首を掴み、何やら
カタツムリのような、電話
のようなもので誰かと連絡
をとりだした。
体を売ってでも払ってもら
う、その一言で数週間前の
あの悪夢のような日々を思
い出し、吐き気がした。気
持ち悪い、








「様子見に来てみりゃ、一
体どうしたんだよい キヨカ」

「マルコ隊長、」

振り返ると『外で待ってる
よい』と言って外で待って
くれているはずのマルコ隊
長が店内の騒ぎを聞き付け
て様子を見に来てくれた。

「なんだい連れがいたのか
い」

「どうしたんだよい」

「あの、お金が足りないっ
て言われて…」

マルコ隊長はカウンターに
乗るお金と服をチラリと見
比べたあと、わたしの手首
を掴むお姉さんをギロリと
睨みつけた。睨みつけられ
たお姉さんはあおい顔をし
て口からぽとりと煙草を落
とした。

「これっぽっちで5万ベリ
ー以上もするってのかい?
そりゃあんまりぼったくり
じゃねぇのかい?」

「え、さっきお姉さん8700
ベリーって言って…」

「か、金の数え方も知らな
いその小娘が悪いんじゃな
いかっ!」


そう言った後わたしの手首
をカウンターにたたき付け
るように離すと、髪をかき
あげ、拾いあげた煙草をく
わえふぅとため息をついた
そして横目でマルコ隊長を
見るなり再び煙草を床へ落
とし、次はガタガタと震え
出した。

「あ、あんた…その胸のタ
トゥー…!し、白髭!!?」

「なんだい、知ってんのか
い。ちなみにこいつもうち
のクルーだよい。次、また
こんな真似したらただじゃ
おかねぇよい。」


マルコ隊長はそう言いなが
らわたしの頭にポンっと手
を置くと、またギロリとお
姉さんを睨みつけた。

「…………!ぜ、全部持っ
て早く出て行っとくれ!」

お姉さんはカウンターに乗
る服を支払いも終えないま
ま、紙袋にガサガサと詰め
込むとその紙袋をわたしに
押し付けて店の奥へと逃げ
込んでしまった。



「す、すみません、ご迷惑
かけて」

店を出てマルコ隊長に頭を
下げると、マルコさんは目
を丸くしてわたしを見た。

「 キヨカ、おめぇ金の
数え方も知らねぇのかい?」

「はぁ、円くらいしか分か
らなくて…」

「…えん?ってなんだ?」

「日本のお金の単位です」

「…にほん?」

「わたしの出身国です」

「そんな国初めて聞いたよ
い。どこの海にある国だい?」

「う、海?えーと日本海と
太平洋に挟まれてます」

「にほんかい…たいへいよ
う…?」

「…はい、そうなんです」

「なんだかよくわかんねぇ
よい…」

「す、すみません」


話が全然噛み合わなくてま
た沈黙になった。日本を知
らないなんて、やっぱりこ
こは今まで住んでた世界と
は異なった世界なのだろう
しかし言葉は通じるのが唯
一の救いだと思った。


「支払いの時はおれを呼べ」

「へ?」

「さっきみたいに金払うと
きに絡まれたら面倒だろい
次からはおれが変わりに支
払いしてやるよい。」

そう言って振り返ったマル
コさんは笑ってて、その笑
顔に安心感を覚えたわたし
も自然と頬が緩むのを感じ
た。

「ありがとうございます」

「あ、それと キヨカ、
下着買うならもうちょっと
色っぽいやつにしろよい」

「!!!」


カウンターに乗ってたとき
に見られていたのだ。恥ず
かしすぎる。「 キヨカ顔
が赤いよい」そう言ってマ
ルコ隊長はからかう様にわ
たしの顔を見て笑った。





「強くなる、ねぇ」

「はい、これ以上迷惑をか
けたくないんでせめて自分
の身は自分で守りたいんで
す。」

次にマルコ隊長と訪れたの
は剣やらピストルやらをた
くさん扱うなんだか物騒な
お店。一応あれから毎日筋
トレはやってるのだけど非
力なことに変わりわなく、
武器に頼るしかないと考え
た。

「やっぱり剣ですかね?メ
ジャーだし」

「おめぇみたいな非力なや
つが剣持ったって簡単に跳
ね退けられるのがオチだよ
い」

「………じゃあピスト
ル?」

「護身用にはなるだろうが
戦闘で使うとすぐに弾切れ
なっちまうからな。結構金
は掛かるってイゾウは言っ
てたよい」

「………(それは却下だ)。」

あーだこーだ提案はしてみ
るものの、結局はわたしな
んかに扱える武器はないみ
たいで、とりあえずなんて
理由で高い武器を買える程
お財布に余裕のないわたし
は(生活必需品揃えないとい
けないし)とぼとぼと店を後
にした。


「まぁ強くなるなら悪魔の
実でも食べるのが一番だよ
い」

冗談めかしてマルコ隊長が
笑ったんだけどわたしにそ
の冗談は通じなかった。

「あくまのみ…?ってなん
ですか?」

なぜなら"あくまのみ"なん
てものを知りもしなかった
から。

「悪魔の実も知らねぇのか
い?本当にお前は不思議な
やつだよい」

「…すいません」

マルコ隊長の説明によると
悪魔の実というのは海の悪
魔の化身と言われていて、
食べると特殊な能力が手に
入るらしい。その特殊な能
力を手に入れる変わりに能
力者は海に嫌われて一生カ
ナヅチになる、らしい。

なんだかよく分からないけど


「おれやオヤジやエースや
ジョズも能力者だよい」

「え!そうなんですか!?」

「おいおい、そうでなけり
ゃあんな能力持って生まれ
たとしたらおれ達はとんだ
怪物だよい」


一度、戦闘の時にマルコ隊
長が青い炎に包まれた鳥に
なるのを見ていた。あの時
は本当に夢かとおもった。
まさかそれが悪魔の実とや
らの能力なんてびっくりだ


「だからエースさんも時々
燃えたりしてるんですね、」

「お前、今までそれ知らな
かったってことはおれ達の
こと一体どんな怪物だと思
ってたんだよい」

「皆さんもわたしと同じ人
の子だったんですね」

「当たり前だよい」

そう言って笑うとマルコ隊
長も笑った。なんだか今ま
でマルコ隊長は何考えてる
のかよく分からないし、立
場の違いもあったりしてな
んだか怖くて近寄りがたか
った。
けど話してみると、優しく
て、大人で、すごく感じの
いい人で安心した。


「 キヨカお前は不思議
でおかしなやつだよい」


買い物を終えて船へと帰る
途中、マルコ隊長がそう言
ってくれた。別に褒めても
らってる訳でもないのだけ
ど、なんだか嬉しくて顔が
ほころんだ。
夕焼けがすごくきれいだっ
た。





「お、マルコ!探したぞ、
っておい何だ?マルコと
キヨカ一緒に出掛けてた
のか?」

モビー・ディック号に戻る
とエースさんがマルコ隊長
を探していたらしくわたし
達を見つけて駆け寄ってき
た。あ、やっぱりわたし変
だ。エースさんを見ると動
悸が激しくなって息苦しく
なる。

「オヤジに頼まれて キヨカ
の買い物についてってたん
だよい」

「ふーん、まぁよかったな
キヨカ、マルコとも仲良
くなれて」

「は、はい!よかったです」


ニカっと笑う明るい笑顔に
わたしの名前を呼ぶ声に、
いちいち心臓がうるさかっ
た。ああ、もうわたしって
ば思春期か、


「で、エース。なんでおれ
を探してたんだよい?」

「おっとそうだった、おれ
昨日の夜お前の部屋に遊び
行って帽子忘れてなかった
か?」

「部屋入って探せばよかっ
たろい?」

「いやあ、勝手に部屋入る
ってのも気がひけてよお」


そう言いながら船内に入っ
ていく二人の背中を見つめ
ながら、ドキドキとうるさ
い心臓を静めていた。あ、
マルコ隊長について来ても
らったお礼言わなきゃ、

「マル…「 キヨカ」

わたしが呼ぶのと同時にマ
ルコ隊長が名前を読んで振
り返ったと思ったら、何か
がわたしへと飛んできた。
体制を崩しながらもそれを
受け止めてみると、それは
鞘にきれいな彫刻を施され
た小刀だった。

「餞別だよい、護身用に持
っとくといいよい」

マルコ隊長がいつその小刀
を買ったのかは分からなか
ったけど、それは新品でキ
ラキラと輝いていた。
もう、やることが大人すぎ
ていちいちかっこよかった

「………!ありがとうござ
いますっ」

なんだか涙が出そうなほど
嬉しかったんだけど、泣か
ないってエースさんと約束
したから、泣かない。
そんなわたしを見てエース
さんもよかったな、と言い
た気にわたしを見て笑って
いた。



「またデートしてくれよい、
キヨカ」

そう言ってひらひら手を振
って歩いて行くマルコ隊長。

「え、?」

突然の一言に固まるわたし
を残して、エースさんとマ
ルコ隊長は船内へと姿を消
した。

冗談だとは分かりつつも、
赤面してしまうあたり、ま
だまだわたしは心の中だけ
思春期真っ盛りなようです


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