やっと船酔いにも慣れ、船のクルー
達とも挨拶程度ではあるが会話が出
来るようになってきた今日この頃、

なぜわたしは剣を手に、甲板にて一
人のクルーと対しているのだろうか
?そんなあたし達の周りを沢山のク
ルー達が取り囲みながら、おもしろ
そうに口笛を吹いたりヤジを飛ばし
たりている。わたしと対しているク
ルーはニヤリと笑っていて「おい
キヨカいつでも掛かって来い」と言
いながら余裕の表情。
(まじで意味わかんない)

わたしの脳裏にはその言葉しか浮か
んでこなくてただ剣を手に青くなる
事しか出来ない。

事の発端は数分前。わたしが船員達
の大量の洗濯物を終えて甲板にロー
プを張り、洗濯物を干す準備をして
いた時だった

「 キヨカ、どんぐらいお前は強いん
だ?」
という一人のクルーの発言から始ま
った。"強い"の基準がよく分からない
わたし、そして「誰かとやり合ってみ
りゃいいじゃねーか」というクルー達
の軽いノリ




「む、む、無理!!わたし剣なんて使
えませんっ!」

「じゃお前は剣術派じゃなくて武術派
か?」

「そうゆう意味じゃなくって…」

「うだうだ言ってんな、エース隊長が
直々に親父んとこに連れて来たお前
だ。弱ぇ訳ねぇだろ?練習がてらち
ょっと相手してくれよ。」


この前わたしの発言で親父さんとエ
ースさんが爆笑した意味が、いま分
かった。(体は強いなんて、わたし相
当バカ発言してしまった…)"強い"の
意味は"戦闘で"という意味だったのか
と今更分かっても時既に遅し。どん
なにわたしが弱いアピールをしよう
とも、もうその気のクルー達は聞く
耳全く持たず。わたしに半ば無理矢
理剣を持たせると甲板の真ん中に押
しやった



「やっちまえーー キヨカ!」

「遠慮はいらねーぞー」


ヒューヒューと囃し立てるクルー達
は完全に面白がっている。本当嫌ん
なる…




「おら、モタモタしてっとこっちから
いくぞ!!!」

「…!!」

そう言って剣をふりかざすクルー、
恐怖に声も出せずになんとかその太
刀を避けると思わず腰が引けて、こ
けそうになる。

そして間髪入れずにふりかかってく
る太刀を咄嗟に持っていた剣で受け
止める。手に響く衝撃、痺れ

「い゛っ……」

もちろんその衝撃に堪えられないわ
たしは反動で後ろにひっくり返り尻
餅をつく。そしてカラン、という音
と共にわたしの手からこぼれ落ちた
剣。

先程までの賑やかさはどこへやら、
しーんと静まる甲板、静まり返るク
ルー達

「弱っ!」

「おめぇら何やってんだ?」

クルーの誰かがぽつりとはいた一言
に被せるように降ってきた明朗な声
マストの方を見上げると逆光で顔こ
そは見えないもののその特徴的なシ
ルエットで誰かは一目瞭然だった。


「…エースさん」

「おら、おめぇら新人いじめてんじゃ
ねーよ」


ひらりと身軽に甲板へと降りてきた
エースさんはわたしの手から落ちた
剣を拾い上げ、それを持ち主へと投
げ返した。くるくると弧を描き剣が
持ち主の元へと戻るのを見届けて、
それからわたしの腕を掴み立ち上が
らせてくれた

「 キヨカもサボってねぇで早く洗濯
物干しちまえ。なんかナース達がお
めぇ探してたぞ、洗濯終わったら手
伝って欲しいことがあるみてぇだぜ
?」

「はいっ!分かりました」


はっとしてエースさんの足元にある
大量の洗濯物に目を向ける、ぎらぎ
らと照り付ける日差しによってその
洗濯物達は微かに乾きつつあるのが
伺える。早く干さなければシワにな
るだろうそれだけは避けなければな
らない。



「エース隊長…あいつ…とんでもなく
弱ぇ……」

「だから雑用なんだろうが」


ナースさん達の手伝いを終え、ナー
スさん達のお茶の時間に混じって少
しおしゃべりをした後、洗濯物を確
認するべく甲板へと戻る。少し生乾
きの様な気もしたが、この異常に天
気の変わりやすいおかしな海。いき
なりの嵐で洗濯物がダメになること
を数日前思い知らされたわたしは小
さなことは気にせずに、洗濯物を取
り込むことにした。

先程まで賑やかだった甲板も今は数
人が昼寝をしていたり、本を読んで
いたりするのみ。珍しい事もあるも
んだなと思いながら洗濯物を畳んで
いると視界の隅にちらりと入ってき
たオレンジ色。そちら側に目を向け
るとテンガロンハットを顔の上に乗
せ、手を頭の後ろにまわし昼寝をし
ているエースさんがいた。

そういえばこの人には助けられてば
かりだ

この前での酒場の一件から始まり、
さっきのクルーとの一件も、そして
この船で仕事をさせてもらえる事、
言えばこの世界で生きてる事自体が
エースさんのおかげなのだ。どうし
て見るからに怪しいわたしなんかを
気遣ってくれるのだろうか。そんな
事わたしが考えたところでエースさ
んの考えてることなんて分かりっこ
ないんだけど、それでもエースさん
には感謝の気持ちでいっぱいだった



(エースさん起きたら、
改めてちゃんとお礼言おう)



そう思ったら大量の洗濯物の中、エ
ースさんの洗濯物だけは丁寧に畳ん
でしまう自分がいて、なんだか可笑
しくなってしまった。



(,why?)


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