「佐々、どうせ明日暇なんだろ?一人もん同士憂さ晴らしに飲みに行こうぜ!」
「うっさい、勝手に私の予定を決めるんじゃないわよ!」
同期の伊藤に書類を投げつけて、そのまま乱暴にデスクに座る
さーさーさーさーと呼ぶ奴をぷいっと無視してそのままパソコンに入力を始める
佐々 優香(23)
年齢=恋人いない歴な私にとっては、クリスマスなんてただの普通の仕事の日なだけよ!悪かったわね
「お疲れ〜じゃあ優香ちゃん、明日もお仕事頑張ってねぇ」
「彼氏さんと喧嘩して別れちゃえ……」
「ふふふ、聞こえなーいっ」
るんるんるん、と楽しそうに帰る同僚に恨めしい視線を送るが、彼女はそれを完全にスルーしてフロアを出ていった。くそう
クリスマスイブイブ、イライラして仕事が進まなくて残業
クリスマスイブ、大量に休みやがる仲間のせいですでに残業確定
クリスマス、え?なにそれおいしいの?
町角に立っているサンタクロースを蹴り飛ばしたくなったこと多数
イルミネーションのコンセントをぶっちぎってやろうとしたこと多数
全てを未遂ですませた自分を褒めてやりたい
「佐々、目が殺人者になってんぞ。ちょっと落ち着けよ」
「うるさい伊藤。仕事はしてんだからいーでしょ」
「いや、職場の空気とかにも気を使えよ」
「あんただけじゃん。伊藤に使う気なんかないわよ、勿体無い」
お前なぁ、と苦く笑う唯一の残業仲間の伊藤には悪いが少し発散したら大部楽になった。
だいたいどいつもこいつもクリスマスだからって浮かれ過ぎなのよ。
敬虔なクリスチャンじゃないならそんなに騒ぎ立てるなっつーの!
「明日は、美味いレストラン連れてってやるから機嫌なおせって」
「は?悪いけど私明日も残業確定だから」
「はぁっ?!朝に約束しただろ?明日飲みに行こうって」
「約束なんてしてないわよ。それに明日は休みが多いんだから終わるわけないじゃないの。私はフォローに忙しいの」
ぬかった…面倒見良いんだこいつ…
ぶつぶつと呟く伊藤をシカトしてちゃっちゃと入力をしていると、突然がっしりと肩を掴まれて振り向かされた
回転式の椅子がキィと細い音をあげる
「おい。俺が手伝ってやるから何が何でも明日は定時で上がれるようにしろ。」
「はぁ?そんなことしたら日付跨いじゃうわよ、今日の残業」
「いいから、明日は空けろ」
鬼気迫る様子の伊藤に気圧されてしぶしぶ頷く
不機嫌そうにパソコンに向かい直った奴をちら、と見てばれないようにため息をついた
めんどくさ……こんなんなら今日真面目に仕事すればよかった
先に出来ないから後悔なんだ。今はその言葉を深く悔やんだ
とりあえず今の私に出来ることは仕事。
気をとりなしてまた打ち込みを再開した
指輪も、準備した
舞台も、3ヶ月待ちのレストランを予約した
予定も、佐々が誘われないように同僚達に頭を下げて根回して
仕事を休ませないで、プライベートな友達から誘われないようにした
同僚や上司からは呆れたような視線をくらったがそんなの気にしない
本当はなんども事前に言おうとしたんだが、クリスマスのクの字を出しただけで不機嫌になる彼女のせいで誘いがこんなぎりぎりになった
こいつは遠回しなアプローチは何も効かない
面倒見がよくて、たくさんの人を惹き付けるくせに超がつく鈍感なんだ。そんで多分ツンデレ
ツンしか見たことが無いがきっとツンデレ
絶対佐々のデレを見てやる。
とりあえずは、明日だ
明日、俺は佐々に結婚も視野に入れたお付き合いを申し込む
すべては明日!!!
そう気合いを入れながらキーボードを叩きつけた
後編
帰