生まれ変わりだなんて絶望させる様なこと言わないで



 白い花から光がひらひらと天へと上がるかのごとくその場をうめた。咲き乱れた花達から出たは風が一撫ぜするだけで花から花弁を飛ばしているのだと錯覚を与えた。冬の季節ではないというのに、まるで雪が降っているかのようだ。夜の闇に白が映えた。
 絶望というよりは、虚しさを。悲しみというよりは、嘆きを。
 この日この場所に彼がいない。その場に集まった五人は様々な感情を胸に抱えていた。彼がいなくなってから二年が経つ。その間、一人はぶつけようのない感情を持てあまし、一人は己の罪から研究をし、一人は彼の事を思い出さないようにと走り回り、一人は彼がいれば一緒に行うであろう使命を全うし、そして一人は信じつづけた。
 いや、一人ではない、五人は信じつづけていた。あり得ないことだと分かっていた、彼が居ず過ごした時間が何よりも重くのし掛かってくるが希望を捨てずにはいられなかった。
 彼の物は何一つなかった。第七音素で構成された肉体は全て音素へと還り、身につけていた物は大地と共に海へと消えた。
 唯一存在する彼が居たと物理的に証明する物が、彼が居なくなってしまった原因とも呼べる世界だけとは何と皮肉な事なのだろうか。
 世界の端まで届くように。遙か高くにある音素帯へと届くように。この星へ思いを込めて。
 歌が響き渡る。柔らかな音であると同時に胸が締め付けられる様な音色であった。
 歌が終わると、久方ぶりに顔を合わせた5人が口を開いた。そして、その場を後にしようとしたときだった。
光が舞い散る中、青年が突如その場所へ現れた。自然に、自然に。其れは風がなびくのと同じだった。全く違和感を覚えなかった。まるで初めからそこにいたかのように…。
 深淵の髪が風に揺られなびいた。青年の姿に気が付き少女の面影が僅かばかり残った女が駆け寄った。二人の表情は見えない。
「どうしてここに?」
女が聞いた。声からは、驚き、期待、喜び、様々な感情が読み取れた。
「ここならホドを見渡せる」
 青年が僅かに首を動かした。
「それに、約束したからな」
 青年は落ち着いた音色で女に答えた。約束をした。彼と彼女。彼と彼。そして…。
 自分の中に存在する、彼らの記憶、彼らの意志、彼らの思い。今ここにいる自分は彼らの生きた証。
 女が嗚咽を飲み込み涙を流した。遠ざかろうとしていた四人も青年へと近寄った。一人だけ、何かに気が付き口を開くが、また直ぐに閉じた。
 風が吹いた。上空へと上がろうとした風によりマントまでもがあがる。腰に差した剣は彼が携えていた時と同じ挿し方であった。
 青年が一度まぶたを閉じ、開いた。微笑みを僅かに浮かべた。
 彼は絶望の言葉を彼らに伝えなければならなかった。
 混雑した記憶によって形成された人格はもはや彼らのどちらとも違う。
 彼との約束、彼らとの約束。記憶があろうとも、青年にとってそれは物語を読むのと同じ。ただの情報でしかなかった。
 約束をした。自分の人格を形成した彼らへの一方的な約束、消えた子らへの青年なりの餞であった。




2006.12.8
御題元「群青三メートル手前」

あの約束っていうのは誰との約束だったんですかね。
ティアとルークの約束か、アッシュとルークの約束か、第三者との約束か。



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