ぼくはきみが好きだから、だから世界は終わればいいと思う



 アクゼリュスへと向かっていく中、ルークの心占めていたのは彼に対する思いだけだったのかもしれない。レプリカとして生まれ、彼の代わりを今まで務めてきた。

 ルークはファブレ家での甘やかされた空間が好きになれなかった。かといって、己が熱心に勉学に励んでいると、昔の“ルーク”と比べられる。なので、ルークはそんな姿を誰にも見せたくはなかった。「かったりぃ」と言って講師を追い出すのも初めはそんな些細な事からだったのかもしれない。オレはオレなのだ、今も昔もオレなのだ、といった少しの反抗から来た些細な物だった。講師達は貴方の昔は…などと話をよくした事も反抗に拍車をかける原因の一つだったと思う。その話を聞く度にオレの中に何か穴が空いていく気がした。誰も今のオレを見てはくれない。オレの中の昔の“オレ”を皆通して見ている事が嫌で嫌でたまらなかった。強がって、言葉遣いを悪ぶってみせ、常にオレ様を通した。
 そうでもしなければ、ルークと“ルーク”の差にルークは押しつぶされてしまいそうだったのだ。わざと物を壊したりもしたし、メイド達に悪戯としては少々度が過ぎる事もやった。そうして、皆に注目されることで己の存在を確認していた。
 そんなこんなで何かと面倒な講師達から教わるよりも一人で勉学するという事を選んだルークはフォミクリーと言う単語を知った。公爵家にある本では足りなかったが、少なくとも自分の欲しい情報は手に入ったとは思う。初めはそんな物が有るのか…適度の物だった。が、調べていく内に、読み進めていく内に、どうにも自分と重なる事の方が多かった。
 どくりと心臓がなったのを覚えている。自分の持てる最速で走ったときよりも大きい音がした。
 誰にも言えなかった。怖かった。だが自分が誰かの代用品であるという怖いという感情と同時に、オリジナルの存在を嬉しく思えた。己の中のもやもやとした物がすっと無くなった気もしたし、ぽっかりと空いた物が埋まった気がした。もう、昔の自分と比べられなくて済む。そういった安堵もあった。別人なのだから、当たり前だ。これで、オレはオレとして確立することができたのだ。初めて己を己として認識したときもこの時だったのかもしれない。オレにとってその時のオリジナルの存在は無くした体の一部を見つけたのと同じだったのだ。

 オリジナルと初めてあった時は、嬉しくて、嬉しくてたまらなかった。感動のしすぎで涙が出そうになったが押しとどめた。
 オリジナルは鮮血のアッシュと呼ばれていた。後ろ姿と声だけで彼がオレのオリジナルだと分かった。同じだ、と本で読んだ内容を思い出そうとした。その時は余りに、彼の行動が早すぎて何も出来なかった。初めて人を殺したという普通ならば精神を犯す事実も彼に出会えた事で全てが吹っ飛んだ。ジェイド達はオレが人を殺めてしまった事にショックを受けていたと思っていたらしいが、オレは無言で、ただ彼に出会えた喜びを噛みしめていた。体がぶるぶると震える。歓喜で震えるなんて初めての体験だ。
 一日で生まれて初めての経験を二度したのだ。それでも、彼に会えた喜びの方が強く、強く、こんな事を言っては人としてどうかとも思うが(オレはレプリカだが)人を殺めた事なんて本当にどうでもよかった。
 いつからか、アッシュの声が聞こえる様になった。彼からのコンタクトによって起こる頭痛は酷く痛かったが、彼からの言葉一つ一つが全て胸へとしみこんでいく。屑と呼ばれようが、何と言われようが全てがオレにとって麻薬のように歓喜させるのだ。
 しかし、アッシュに何と話して良い物か全く分からないのはどうにもならなかった。会いたい。会って話がしたいとでも言えば良かったのだろうか。オレがレプリカだという存在を知っていて、その上オリジナルである彼に   といった様な感情を持っているという事を話すべきなのか。この一見傲慢で、お前の存在を知らないといった態度を取ってしまうのは、何を話して良いか分からず、また今まで仮面のように被り続けた物が取れないからだと、言ってしまいたい。
 ああ…、ああ…。と彼へ対する思いは募るばかりだ。

 そして、その言葉を口にしなくて良かったと、ある日オレは神に(神様なんか信じてはいなかったが)感謝した。

 彼からのコンタクトがされたのとほぼ同時期に、オレはオレの生まれた理由を知った。随分と間抜けな話だが、オレが生まれた意味、つまりはオリジナルルークのレプリカが何故必要なのか今更ながら知ったのだった。時折ふと見える景色はアッシュの視線からのものだったのだろう。時折聞く言葉はアッシュに話しかけられている物なのだろう。オレとは違い、アッシュは頭痛は起こらなかったみたいだし、オレが見て、聞いていると言うのは分かっていないらしい。
 オレはオリジナルを生かす為に作られた存在だったのだ。
 其れを知ったのがアクゼリュスへ向かう道中というのも、なんという偶然か。
 それならば、とオレは考えた。オリジナルを生かすために生まれたのならば、其れに従おうと。いや、そうじゃない。オレはオレで有ると同時に、オレは彼なのだ。オレはオレであると認めて欲しかったが、オレは彼であるとも認めて欲しかったのかもしれない。オレの半身。そんな風に言ったら、図々しいとか、レプリカ風情が、なんて思われてしまうかもしれないが、それでも、オレは彼の半身であると望んでいるのだ。アッシュが師匠に怒鳴っているのも何度か眼にした。彼は先生が馬鹿なことを…とかなんとか言っていたけど、預言って言う物は遵守すべき物だと習った。それに、オレがアクゼリュスを落とさなければ彼が死んでしまう。オレがやるしかないのだ。オレはルーク・フォン・ファブレなのだから。
 誰かの為に死ぬなんて馬鹿らしいけど、其れが彼の…オレの半身の為ならそれでいいと思った。オレはお前にしか感心が無くて、他の人間なんてどうでもいいから。




 もしかしたら、ただの依存から来ている感情なのかもしれない。




2006.09.27
御題元「やることないから。」

彼はまだ7歳児という純粋な心を持っているので一応の大人のルール、世界のルールにも多少縛られている。
だから、預言は遵守されなければならないものだと思っている。しかし、アッシュの存在は今のルークにとって誰よりも大事な存在で、=オレという存在と認識してしまってる。



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