illumina02



ジェイドの提案でベルケンドで一度検査した方が良いということになり、俺たちは直ぐさまアルビオールに乗って移動した。
 生前(一度俺もアッシュも死んだ様なものだし)世話になった医者や研究員達に囲まれて検査を受け、今はベッドの上に座り、検査結果を待っている。
 結果が出るまで時間がかかるのでジェイド以外の他の皆には宿に行って貰っている。
 検査をしている時から俺とアッシュは一言も発していない。何を話して良いのか分からないのだ。
 聞きたいこともたくさんあった。何を感じていたのかとか、今までどこにいたのか、とか――いや、きっと俺の中なんだろうけど――。
 世界を駆け回っていた時は話したくても何も話せなかったし、一緒に行動するなんて事はなかった。
 俺は俺でアッシュに対して申し訳ないという思いで一杯だったし、アッシュはアッシュで何を考えていたのかはさっぱりわからない。多分怒っていたんだろうな。
 俯き自身の足を見る。手持ち無沙汰な俺は足をぶらぶらと揺らしそれを打開すべく動くのだが、何も変わることはない。
 話すこともなく二人してただどこかを向いているだけだ。
 そわそわと視線を泳がせ、天井やら、床やらを見て回す。隣にいるのだから視界にアッシュが入るのは当然で、それでも俺みたく身体が僅かにも揺れたりしないあたりが落ち着いている。
 子供の身体って不思議だな! とか話しかけたらいいのだろうか。
 動いていた足の動きを止め、少しばかり斜め下を向き話しかけようとした。
 アッシュの顔を見るのは正直勇気が要るのだ。この位置ならばアッシュの方を向いているし、足の部分はばっちりと全て見える。
 馬鹿だな、俺。
 そんな事を考えた自分に落ち込む。
 顔をみる勇気がないのはまだ俺がアッシュに遠慮をしているということだ。
 全て決着をつけたと思ったのに、こうまで根付いている物なのか。足を見て話をしてどうする、と俺自身を叱咤しゆっくりと視線をアッシュの顔へと持って行く。
 ああ、似ている。
 俺たちが似ているのは当たり前なのだが、幼くなった容貌の所為だろうか。目つきの所為だろうか。それともこの雰囲気の所為なのだろうか。
 以前よりも似ていると感じる俺たちの容貌にどきりと心臓が鳴る。少しだけ鼓動が早くなった。
 そんな自身の肉体の変化にとまどいを感じ、どうにもいられなくなってアッシュに話しかけた。

「あ、あのさ、アッシュ。何か子供の身体って変な感じだな!」

 そう俺が口を開くとアッシュが眉根を寄せる。
 そうするとやっぱりアッシュなんだと思うのだけれども、何もそんな風に俺を見ることは無いじゃないかとも思う。

「馬鹿か、てめえは」

 わくわくとアッシュの返事を期待していた俺が馬鹿みたいだ。一言目で切り捨てられた。

「他に言うことがあるだろうが」
「視線の高さが違うとかかなぁ」

 俺がそういうと盛大にため息を吐かれる。

「不安とかそういった感情は無いのか? 肉体が退化してるんだぞ」
「え、あ……っと…」

 確かに普通ならそうだろう。ましてや、アッシュなんて一度死んでいる。ゾンビか何かになったような――流石にそこまでは言い過ぎか――気にもなるだろう。

(つーか、アッシュは死んでも俺の肉体にいられたんだから、蘇りとかそういうのは俺の方じゃねえの?)

 そう思うとつい苦笑いを浮かべてしまった。
 そんな俺を見たアッシュが、ますます眉間に皺を寄せ落ち着いてはいたが、怒気を孕んだ声を放つ。

「何が可笑しい」
「いや、なんつーかさ。俺ってとことん運がいいんだなって思って」

 レムの塔もレプリカの中で俺だけが死ななかった。音素乖離で消えると思っていたが其れも今では助かっている。
 へらへらと笑みを見せるとアッシュがきつい一言を放った。 

「劣化レプリカ野郎は退化したことによって一層脳が劣化したみたいだな」

 その言葉にむっとする。
 生きていると喜びアッシュの優しさに触れた気がしたが今はこれだ。

「喧嘩しないで大人しくしていましたか」

 ほぼ台詞と同時に扉が開いた。二人して音のする方へと視線をやる。
 ジェイドは確実に分かっていただろうにこんな事を言う所は相変わらずだ。それとも気を遣ってくれていたのかは分からないのだけれども、胡散臭い笑みを浮かべているあたりで全て台無しだ。

「見て分からねえか? 最悪だよ」

 其れよりも結果を教えろとアッシュがジェイドを睨み付けた。

「検査結果ですが、音素振動数は相変わらずでしたよ」

 音素振動数が相変わらずということは俺たちは未だ完全同位体で、大爆発の危険性も出てくるということになってしまう。

「それと貴方方の身体についてですが、子供の一般的な数値と同じでしたね。血中フォニム数から始まり、身長、体重、ここら辺は平均値そのままですね。一応体力検査もしてみますか」

 ジェイドがカルテを捲り俺たちに告げる。
 パラパラと捲る紙の音が嫌に五月蠅かった気がした。不安になっているのだろうか。

「ルーク」

 自分の名前部分が嫌にでかく聞こえた気がした。俺の名前を呼ばれ心臓がどきりとする。何か問題でもあったのだろうか。
 問題があるとすればレプリカである俺の方がアッシュよりもあるだろうから当然と言えば当然な事であった。
 音素乖離という四文字が頭に浮かぶ。
 またなのか? 生きていると喜んだ次は奈落へとたたき落とされるのだ。
 告げられることは慣れているがどうにも嫌なことには違いない。ああ、勿体ぶらずに教えてくれ。

「貴方いつから細胞なんてものを身につけたのですか」

 正直意味が分からなかった。



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