*神田さんとその周囲のみなさん。

*神岩(神←岩)要素含みます。

*道徳的によろしくない表現(日野様ルール)、ネガティブ要素を含みます。

*神田さん偽物注意報発令につき、ご注意&ご容赦下さい。




 人間の価値について。命の価値についてどう思う?

 確か、出だしはそんなところだったと思う。どうしてそんな話になったかは思い出せない。

 親友は言う。この世には、存在する価値のある人間と、その価値のない人間の二種類がいて、死んでいるのは全て後者なのではないだろうか。その価値を誰が決めているのか。或いは神という存在なのか。またそれは、一体どのような基準でどのようなものなのか。それは一切わからないし知りたいとも思わないけれど、けれど、神という奴はその基準を全ての人間に当て嵌めていて、そいつがいくら周囲に大事に思われていようとも、神に価値がないと判断された瞬間に、そいつは命を落とすことになるのではないか。

 例えば今ここで、誰かが死んだとしよう。
 いい奴だったとそいつの友人や親や恋人が、皆が涙したとしよう。
 けれど、そいつは所詮、死ぬべき人間だったんだ。
 死んだということは、そこで死ぬべき命だったということだ。

 人間なんかにはわからない基準で、「死ぬべき命」と、「価値のない命」と判断されたと。そういうことだ。

 逆に返せば。生きている奴は、「価値のある奴」なんだ。
 どんなに否定されている奴でも。周りから目の敵にされ不要だと思われているような奴でも。
 生きているうちには、なんらかの、価値がある。そして価値がなくなった瞬間にそいつは死ぬんだ。

「……なんかの本のうけいりか?」

 なんてことを言うんだと俺は親友に目で訴えた。親友はいつもの真面目そうな顔にどこか冗談交じりの笑みを浮かべて楽しそうに笑っている。楽しい、話題ではないと思うのだが。どうしてこんな話になったんだっけ。

「まあ、そんなとこだ。ただうけいりじゃなく、受け売りな。入れてどうする」
「そっちこそ売ってどうするんだ」
「いや、元々問屋から仕入れた物を他に売るという意味だろ。そこから発展して他人の説をさも自分が考えたように話すことを受け売りということになったんだ」
「……そうだっけ?」
「ああ、そうだよ」
「日野は物知りだな。はいはい」
「褒めたふりして逃げるなよ」
「ちっ、バレたか」

 冗談交じりの笑み受けて、冗談で流してしまうことにした。うけいりって、うけいりじゃなかったのか。てっきり「いり知恵」の「いり」だと思ってたぜ。そう言うと、「肝心の知恵が全く入ってないじゃないか! しかもそれも「いり知恵」じゃなく、「入れ知恵」だ!」とツッコミが倍になって返ってきた。流石、新聞部員で優等生な日野クンは日本語に厳しい。そう言って笑う俺を、不機嫌な声が一喝した。

「くだらねぇ」

 バンっ、と何かを叩く音がして音源に目線を移す。
 隣の席にいた新堂が、自分のカバンを乱暴に机に置いた音だった。俺と日野の話が聞こえていたんだろう。いい年してカミサマの話だなんて馬鹿馬鹿しいぜと履き捨てて、学生カバンを自分の肩に乗せた。新堂が俺の方を向く。目が合う。

「死ぬ奴は死ぬし、生きる奴は生きる。それだけの話だろ」

 ああ、なるほど。それはわかりやすい。俺がそう新堂の意見を肯定すると、しかし新堂はますます不愉快そうに顔を顰めるのだった。がたん、とイスを乱暴に机の収め、やれやれと首を振る。カミサマだとか。ああ、くだらねぇ話だな。新堂はそう言う。

「まあ」

 そう言って、俺の方へ近づき、耳元で一言。

「――お前の価値なんか、俺にとってはハナっからねぇんだけどよ」

 背筋がぞわり、と震えたような気がした。気がした、だから、震えなかったかも知れない。
 けれどそれ程衝撃ではなかった。ああ。と思っただけだった。

「おい、こらッ新堂ッ!」

 すぐ近くにいた日野にも聞こえてしまったみたいだ。日野が声を荒げると、新堂はべっと舌を出してそのまま振り返らずに教室を出て行った。乱暴に閉められたドアが跳ね返り、また半分開く。新堂の姿はもう見えなかった。ふぅ。溜息をついたのは俺じゃなくて日野の方だった。

「……困った奴だな。おい大丈夫か? 神田」
「なにが?」
「……いや、お前がいいなら、いいんだが」

 別に。いい。

 新堂は俺を嫌っているのはいつものことだ。いきなり仲良くしてこられた方がびっくりしてしまう。日野は新堂とも交流があるみたいだから、俺のせいで新堂との仲が気まずくなってしまっているのなら申し訳ない。日野は新堂と俺との仲介に入ろうとするけれど、新堂は俺を許すつもりはないらしい。だからこの溝は一向に埋まらない。けれど、俺も新堂に何を許されば良いのかがわからない。だから謝罪することさえ叶わずに、この境遇を受け入れる以外には方法がない。

 なんで、新堂はいつもあんなに頑張っているんだろうと純粋に疑問に思う。
 俺なんか殴ったりしても、つまらないだろうに。出せる金もないし。目的がわからない。動機もわからない。だって、俺には、

「……もう俺も帰るよ。日野は今日も部活だろ。締め切り近そうだし、頑張れよ。次のも楽しみにしてるからさ」
「あ、ああ。任せてくれ。詳細は教えられないが、今回は特別面白い企画を用意しているんだ」

 廊下で日野と別れ、玄関へと足を進める。たくさんの生徒が行き来していて、その途中で誰かにぶつかった。階段でぶつかるのは危ないな。相手は逃げるように走っていってしまったけれど、怪我はなかっただろうか。俺にも怪我はないし、あんなに元気に走れるのなら大丈夫だろう。廊下は走ってはいけません。呟きながら歩いているとすぐに玄関だった。靴箱を開ける。持ち上げる靴。靴の底で細長い何かが、うにょん、と揺れていた。

「……なんだこれ」

輪ゴムだった。

「……なんだこれ」

 ひっくり返してみてみる。輪ゴムが十本。輪を切られて細長い状態で靴底に貼りつけられている。たぶん瞬間接着剤だろう。一本試しに引っ張ってみると引っ張った分だけびよんびよんと伸び、手を離すと靴底にぶつかって元気よく揺れた。意味がわからない。もう少しだけ考えてみる。

このまま気づかずに履くと、どうなるんだろう。輪ゴムと床が擦れて、足を取られてすっ転ぶ――って、内履きならまだしも、外ではそうはならないだろう。つるつるなリノリウムの床ならまだしも、土や砂利で整えられた校庭やざらっざらのコンクリートの上じゃ、輪ゴムは摩擦に耐えられない。






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