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「#エロ」のBL小説を読む
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 こういった可能性がゼロだと考えていたわけではない。ただ、運が悪かったのだ。
 臨也は久しぶりに池袋に足を踏み入れた。だからといってその存在を忘れていたわけでもない。毎度のように目ざとく臨也を見つけた静雄は、近くにあったコンビニのゴミ箱を力任せに投げつけてきた。いつもの臨也なら難なくかわせただろう。
 しかし臨也は訳あってここ二ヶ月、新宿のマンションに引きこもっていたのだ。激しい運動に身体がついていかず、臨也の頭にゴミ箱が掠った。掠めただけでもその威力は十分だったようで、それ以降の記憶は途絶えている。そして今に至るわけだ。
 意識を取り戻すも臨也の視界は黒一色だった。弾力や肌触りからして、ご丁寧にも臨也は気を失っている間ベッドに寝かされていたようだ。暗い視界にまだ意識が覚醒しきっていないのかとも思ったが、そうではなかった。瞬きするたびにまつ毛が何かに触れる。どうやら目隠しをされているようだった。
 ひとまず起き上がろうとするも、両手首を背中の後ろで何かに縛られていたようで、バランスが取れずにベッドへ再び倒れこむ。間違いなく静雄の仕業だろうが、目隠しをされていてもここが静雄の家でないことは直感した。
 煙草の匂いがしない。あれだけの量を吸っていれば、窓際で吸うなどと気を遣っても壁や家具に匂いはつく。物音もするし気配もあるから、この部屋のどこかに静雄はいるのだろう。
 圧倒的に不利な状況だったが臨也は動じなかった。これくらいの拘束ならばいつでも抜け出せる。
「シズちゃん? そこにいるんだろ? こんなことして一体なにがしたいわけ? 歴とした誘拐罪……いやこれだとどちらかというと監禁罪か。どちらにせよ浅学な君にもわかりやすく説明してあげるとね、おまわりさんに捕まるってことだ。とっととこれ解いてここから出せよ。そしたら今日のことは不問にしてやってもいい」
 臨也は静雄の気配に向かって諭すように話しかけた。気配はゆっくりと大きくなって、ついに臨也の横たわるベッドに腰掛けスプリングを軋ませる。つうっと肩から脇腹を撫でられ、思いがけない刺激に臨也はびくりと身体を跳ねさせた。
「臨也くんよお、手前は本当に色々してくれたよなあ。暴力が嫌いだっつてるのに、わざわざ変な連中けしかけて暴力を振るわせる機会を増やしたり、俺のことトラックに轢かせてみたりよお。おかげで俺の身体はますます化け物じみたもんになっちまって、みんな俺を避けていく。……俺は手前のせいで一人になったんだ。だったら手前も俺のために一人になるべきだよなあ?」
 臨也相手には何を話しても無駄だと有無を言わせず殴りかかってくることの方が多かったからというのもあったが、いつもは寡黙に近い静雄がここまで饒舌になるを見たのは数える程度にしかない。そしてそれは大体臨也にとって都合の悪いことが起こる前触れだった。
「なにそれ。俺のせいで君が一人ぼっちになったって言うの? 妄想も甚だしいね」
 ハッと嘲るように息を吐く。縛られていなかったなら大仰な身振り手振りもつけていたところだろう。
「いいかい、人間ていうものは生まれてきてから元々一人ぼっちな生き物なんだよ。一人で生まれ一人で死ぬ。その恐怖を紛らすために人間は様々なコミュニティー、学校であれ職業であれに属してその中で関係を築いていくんだ。シズちゃんみたいな人間のフリをした化け物だって、一応コミュニティーには属しているだろう? その中で人間関係を築くか壊すかは俺の知るところでないけどさ。馬鹿力のせいで孤独になったって言いたいみたいだけど、その馬鹿力だって俺が植え付けたものじゃない。元来シズちゃんに備わっていたものだ。いま君が孤独を感じているならそれは、自らの感情や力をコントロールできなかった君の行動の結果だよ」
 抑揚をつけて静雄の嫌う長広舌をふるう。一発くらい殴られるだろうかと思ったが、静雄の反応はなかった。聞こえる微かな呼吸も臨也の挑発前と変わらず落ち着いている。
「手前がなんて言おうがそんなのはどうでもいい。手前が俺に色々と面倒事を仕掛けて、俺が失くしたものがあるのは事実だ。その借りをきっちり返してもらう。これはもう決定したことだから手前に拒否権なんてねえんだ」
 静雄の意思は固いようで、得意の舌で丸め込むことは不可能だった。それならそれで静雄がここを空けた時に脱出するだけなのだから構わない。静雄はもう一度臨也を撫でてベッドから立ち上がる。
「逃げるなよ。仕事に行かなきゃなんねえからな。夕方には帰ってくる」
 やや遠くでガシャンと安物だと思われるドアが閉じる音がした。静雄が出て行ってから十分は経過したはずだ。
 そろそろいいだろうと、臨也は器用に手首の関節をくねらせ縄を解き目隠しを外す。いきなり光が飛び込んできた眩しさに瞳孔がついていかず目を細めた。一見する限りどこかのアパートの一室のようだ。だがこの部屋は、明らかに普通のアパートの一室ではなかった。その異様さに臨也は思わず目を眇める。
 部屋のありとあらゆる窓が厚みのある木板で塞がれている。その目的が外を見せないことなのか、それとも見られないようにするためなのかはまではわからないが、これでは電気が点いていなければ真っ暗で何も見えないだろう。静雄の仕業にしては随分と悪趣味だと眉を顰める。
 窓が塞がれていること以外は特に変わったこともないありふれた一室だ。強いて特異な点をあげるならば、部屋に物がなさすぎて生活感がまるで皆無であることくらいだろうか。
 部屋には臨也の横たわっていたベッドとそのおまけのようなサイドテーブルに、部屋の中央にやや大きめの折りたたみ式テーブルが置かれているだけだった。テレビもなければ当然パソコンなどないし、新聞の一部も置かれていない。物の少なさがこの部屋の不気味さを引き立てていた。
 つい癖でポケットに手をかけ、臨也はそこでようやく携帯を取り上げられていることに気づく。それどころか財布やサバイバルナイフなど全ての持ち物が没収されているという念の入れようだ。ざっとそれらを隠せそうな場所を探してみたが、臨也の持ち物が見つかることはなかった。
 夕方に帰ると静雄は言ったはずだ。明るさからおおよその時間すら特定することはできないが、あの口ぶりだと外はまだまだ明るいのだろう。なんにせよここから出てしまえばわかることだ。
 トイレや風呂場の窓にまで木板が打ち付けられていたというのに、玄関のドアは内側から開けられるどこにでもある仕様で南京錠などで固定されているわけでもない。これならば縄を解くことができない人間でも脱出することができるだろう。つくづく詰めが甘いと静雄の間抜けっぷりを嗤う。
 出ていってくださいと言わんばかりのドアノブに臨也は遠慮なく手をかける。とっととこのような場所からおさらばしてしまおうとドアを開けて、固まった。
 静雄が、すぐそこに立っていたのだ。
「シズ、ちゃん」
 静雄の無表情ぶりに悪寒にも似たゾクッとしたものが臨也の背中を駆け抜ける。そして静雄はゆるりと破顔した。
「いざやあ。俺、言ったよな。逃げるなよって」
 ゆっくりと近づいてくる静雄に臨也はじりじりと後退する。静雄が手を伸ばした瞬間、弾かれたように臨也は走り出す。はずだったが、静雄のほうがわずかに早く臨也の腕は静雄の手の中だった。静雄を振り払えるほど臨也の腕力は強くない。
「言うこときかねえ臨也くんには躾が必要だよなあ?」
 静雄の目は普通ではなかった。ギラギラとした光を放っているのに、その瞳は沼のように澱んでいるのだ。
 臨也は抗う術なく再び部屋へと引きずり込まれ、靴も履いたまま力任せに壁に放り投げられる。ろくに受け身もとることもできずに臨也は壁と衝突した。
「かっは……!」
 背中を強く打った衝撃で息が詰まる。重力に従い臨也は壁から床にずり落ちた。静雄は動けない臨也の腹に容赦なく二打目を撃ち込んだ。
「ぐあ!」
 無防備な腹を殴られ、想像を絶する痛みに臨也は呻いた。次いで静雄は崩れ落ちた臨也の背中を蹴りつける。静雄が本気で蹴れば骨など簡単に折れるだろうから、力加減はされているのだろう。それが余計に腹立たしかった。
 静雄はぐったりと痛みで力の抜けた臨也の前髪を掴み、自身の顔の高さまで持っていく。鼻と鼻が触れるまで近づけられるも、静雄の表情を把握できるほど臨也の意識は明瞭でなかった。呼吸をする度にひゅうひゅうと気管が鳴る。臨也の頬にそっと静雄の手が添えられた。
「手前の性格は気に食わねえけど、その面は気に入ってんだ。殴らせるなよ?」
 遠ざかる意識の中で、静雄が口にしたとは思えないおぞましい言葉を確かに耳にした。絞り出すように吐き出した死ねという単語が静雄に届いたのかはわからない。内臓を直接掴まれるような痛みに耐えられず、臨也は完全に気を失った。
「じゃあな、仕事行ってくるからよ。おとなしく待ってろな」
 静雄は意識のない臨也に語りかける。臨也を軽々と抱え上げベッドに横たえて、静雄は再び部屋を去っていった。


「う、う……」
 身体のあちこちに激痛を感じて目が覚める。痛みを自覚するほどに臨也の意識は戻ったが、視界ははじめと同様に真っ暗だった。また目隠しをされているのかと顔を触ったが、それらしきものが臨也の手に触れることはない。どうやらこの真っ暗闇の原因は電気にあるようだ。痛みをこれ以上ひどくしないようにゆっくりと身体を起こす。
 臨也が気を失ってからどれくらいの時間が経ったのだろう。なにぶん時計も携帯も没収されており、外からの光りも木板で塞がれているために時間を憶測することすらできない。だからいつ静雄が帰ってくるのかなどこの部屋でわかるはずもなかった。
 何もないに等しい部屋だが見えなければそれはそれで不便だと、手探りで壁にあると思われる電気のスイッチを探り当てる。一瞬にして部屋は黒から白へと変わったが、臨也の視界は未だふらふらと定まらずにいた。
 明かりが灯ったところで時間がわかるわけでもないが、それでも静雄が帰ってくると宣言した夕方まで気を失っていたとは考えにくい。先程は気が急いていた。今回はもっと慎重に脱出しなければいけない。いい加減静雄も仕事へ向かっただろう。静雄の勤務態度がそれなりに真面目なことは臨也も知っていた。
 それにしても静雄は本当にあのような支離滅裂な理由で、臨也をこの場所に監禁し続けるつもりだったのだろうか。それならいっそ先ほどのようにたこ殴りに殺されるほうがよっぽどいい。このような生殺しは、死ぬより屈辱であることを臨也は嫌というほど理解していた。
 足音を殺して玄関のドアの前まで忍び寄り息を潜める。ドア越しに人の気配は感じられない。数分の間そうしていたが、外の様子に動きはなさそうだった。音を立てぬように静かに鍵を回す。臨也の観察通り、ドアの外に静雄の姿はなく胸を撫でおろした。こうしていとも簡単に、臨也は狂気を孕んだ部屋から脱出したのだ。
 例えばこの状況が愛する人間達によって作り出されたものだったら、臨也はもうしばらくの間その状態を甘受していただろう。だが相手はあの化け物だ。それならばとっとと脱出してしまうに限る。
 それにしてもなんと不用心なのだろう。臨也を逃したくなかったのであれば、それこそ解くことができないほどにきつく複数箇所身体を縛りつけておけばよかったというものを。
 臨也は何事もなかったかのように、アパートの階段をカンカンと響かせながら下りていく。段差に足をかける度に静雄に殴られた傷が痛むが、動けないほどではなった。
 どうにもこのアパートからは人の気配が感じられない。それが余計に不気味だった。都心で誰も住んでいないアパートなど、探そうと思ってもそうそう見つからない。
 このような薄気味悪い場所から一刻も早く離れたかった。なんとか階段を降りきってすぐそこの角を曲がる。ここがどこかは知らないが、慌てることはない。電柱に住所が書いてあるだろうし、少し歩けばコンビニなどいくらでもあるはずだ。
「よお、臨也くんよお」
 背後から聞き慣れた低い声が投げかけられ、臨也は固まった。声だけで静雄の怒りがひしひしと伝わり、冷や汗が一つ臨也の首筋を滑り落ちる。後ろを振り返ることはできなかった。
 とっさにこの最悪な状況を打破しようと駆け出すも、静雄の登場で先ほどのダメージが残っているということが懸念事項から外れてしまっていたのだ。臨也が万全であればこうはならなかっただろうが、あっという間に静雄は臨也に追いついてその細腕を捻り上げた。
「シズちゃん、なんなの……今日はやけにしつこいじゃない」
 痛みと静雄の異常性に声が震える。明らかに普通でないのが、雰囲気にも表れていた。
「なあ、俺は待ってろって言ったよな。それなのに逃げるってことはよ、当然捕まる覚悟もできてたんだよなあ……?」
「相変わらずシズちゃんって話が通じないよね。なにそのめちゃくちゃな理論。そもそも逃げるなって言われて逃げない人間なんて、子どもでもいないだろ」
 臨也が軽口をたたくと、静雄はますます捻り上げる腕に力を入れた。さすがに骨を折られるのは勘弁だと、臨也はあっさりと口を閉じる。
 腕を捻り上げられた状態のまま連行されるように歩かされ、再び例の部屋へと連れ戻されてしまう。結局臨也があの真っ暗で何もない部屋から離れることができたのは、ほんの数分と数百メートルだった。
 ついさっきまでここで静雄に酷く殴られたことを思い出し、動揺を悟らせぬように奥歯を噛みしめる。静雄は臨也を強引にベッドに座らせ、どこからか取り出した目測六十センチの茶色い紙袋を臨也の腕を掴んでいないほうの手で漁りだす。中から取り出されたのは手錠だった。それも一目で玩具ではないとわかる本格的な代物だ。
 静雄は掴んでいた臨也の手首にそれを嵌め、臨也の背後にあるベッドのポールに鎖をくぐらせて、もう片方の暴れる臨也の手首を捕らえ固定した。可動範囲が急激に狭められる。さすがの臨也もこの拘束を破るのは簡単でないと、内心焦りを覚えた。
「言葉で言ってもわからねえみたいだからよ。これ」
 すっと差し出された静雄の手のひらには、ライターより二回り大きい白い箱のようなものが乗せられていた。ピアッサーだ。静雄が何をするつもりかを察し、臨也はこれ以上後ろに下がることなどできなかったが、それでも更に奥へ逃げようとギリギリまで後ずさる。
「なに、それ……正気? シズちゃんほんとに、どうしちゃったわけ?」
「俺のもんだって印つけとかなきゃと思ってよ。万一手前が逃げても帰ってこれるように」
 静雄と話が噛み合わないのは毎度のことだが、自分の述べた文章までもが矛盾していることに静雄は気づいているのだろうか。静雄はドラックストアでよく見かける、消毒液を染み込ませてある脱脂綿の封を切る。アルコールの匂いがツンと鼻をついた。静雄は臨也の右の耳たぶを念入りに拭いていく。
「やめろ……! なに考えてんだよ!? 離せ!」
「っと、動くなよ。曲がっちまったら大変だろ?」
 静雄から逃れようと顔を背けるも、顎に手をかけられ首を正面に固定される。たいした力が込められているわけでもなさそうなのに、臨也の首は微動だにしない。この辺りかと探るように耳たぶにピアッサーを充てがわれて、身体が強張る。なんの前置きもなくバチンと勢いよく針が飛び出し、臨也の柔らかい耳たぶを貫いた。
「っ……!」
思わずあげそうになった声を、ギリギリのところで噛み殺す。じわじわと耳が熱を帯びていくのがわかった。
「おお、綺麗に開いたな」
 静雄は自ら開けたピアスホールを確認して満足げに笑い、臨也の耳たぶをふにふにと揉んだ。できたばかりの傷口を弄ばれて、臨也の眉間にしわが寄る。
「いくつか色があったんだけどよ、やっぱり手前は赤だよな」
 大切なことのように静雄はピアスの色について語ったが、そのようなことは臨也にとって至極どうでもよかった。
 ほらと手鏡を差し出され認めたくもなかったのに、臨也が見えるように顔の前に持ってこられたそれを覗いてしまった。確かに臨也の耳の今まで存在しなかった穴に、真っ赤なピアスが突き刺さっていた。
 身体の一部に穴を開けられたのだ。それは今まで静雄から与えられてきたどのような傷とも意味合いが異なる。ふつふつと燃えたぎるような殺意が湧き起こり、臨也の身体は怒りに震えた。これまで静雄に向けたことのあるどの感情よりも、はるかに純度の高い殺意だ。
「……殺してやる…………!」
「まだそんなこと言うのか。だったら次はこっちの耳も開けるか?」
 じゃらりとビニール袋の中身がぶつかり合って音を立てる。袋の隙間から、音を立てたものの正体が臨也の目に映ってしまった。臨也が一瞬で確認できただけで、少なくとも十のピアッサーが放り込まれている。その中にはボディ用のピアッサーも数個含まれていた。静雄は袋の中からロブ用のピアッサーを選び、見せつけるように取り出して臨也の左耳の縁をなぞる。
「や……!」
 どうにかして静雄から逃れようとするも、ガチャガチャと手錠が鳴るだけだった。外れることなどないとわかってはいたが、それでも拘束から解放されようと力の限り手首の金属を鳴らし続ける。
「そんなに怖がんなよ。冗談だ。初めから沢山開けちまうのはもったいねえもんな」
 よくわからぬ理由を口にして、静雄は取り出した未開封のピアッサーをサイドテーブルに置く。臨也がほっと肩の力を抜いたことが面白くなかったのか、静雄は先ほど通したばかりのピアスを引っ張ったり回したりと弄ぶ。その度にチリチリと焼けるように痛む傷口に、細く息を吐いて耐える。これ以上余計なことを口にして、穴を増やされたらたまらない。
「綺麗だ」
 耳たぶをうっとりと見つめる静雄の目は恐ろしいくらいに穏やかで、臨也の知っている静雄の面影はなかった。狂っている。そして何を思ったのか、静雄は唐突に臨也の耳たぶをピアスごと口に含んだのだ。
「つ、う……!」
 静雄の唇に食まれ、熱い舌で舐られ、固い歯で甘噛みされる度に臨也の身体は跳ね、手錠が耳障りな音色を奏でる。耳たぶだけでなく耳殻にまでも舌を突っ込み嬲られて息が上がる。
 蹂躙と呼んでも違わない行為から逃げようにも、ベッドに手首を括り付けられたままでは少しの距離も広げられない。臨也はとにかく声を殺すことに専念した。ようやく静雄が耳から口を離したのは、臨也が抵抗に疲れ手錠の音が響かなくなってからだった。
「臨也」
 殊更優しく名前を呼ばれ、臨也の筋肉はコンクリートのように固まった。
「次逃げたら、今度はここな」
 ここ、と静雄が舐っていたのとは反対側の耳を撫でる。返事を強要されて、臨也は頷いてしまった。不気味な熱を放つ静雄の視線から逃れたい一心だった。わかったならいいんだと爽やかな表情で頷いて、静雄は臨也をベッドに括り付けたまま部屋から去っていく。
 ただでさえ引きこもり続きで体力が落ちているというのに、この疲弊した身体で静雄に逆らっても状況が好転することがないのは明らかだ。これは一旦様子を見たほうがいいと判断し、臨也はおとなしく静雄の帰りを待つことにした。
 静雄が再度この部屋に戻ってきたのは、正確なところはわからないが臨也の時計の感覚ではおよそ四時間後のことである。部屋に臨也の姿を認めると静雄は鷹揚に頷いた。それに神経を逆撫でられた臨也は、科を作ってわざとらしい上目遣いで静雄を見上げ甘ったるい声を出す。
「おかえりなさい、ご主人様……なあんて言えば満足?」
「やめろ、気持ち悪い」
 静雄は心底嫌そうな顔をする。それもそうだろう、臨也も静雄に同じことをされたら似たような表情で唾を吐き棄てるはずだ。このあたりはどうやら正常らしい。些細な意趣返しが成功したことで、臨也は少しずつ調子を取り戻す。
「おや、こういうのを求めてたわけじゃないんだ。全く君の考えてることってわかんないよね。理解したいとも思わないけど。それにしてもひっどい言い草だなあ、散々気持ち悪いことをしてるのはシズちゃんのほうだろ?」
 鋭い眼光で睨みつけられ、臨也はおっととわざとらしく口に出して首をすくめた。このまま怒るだろうかと若干危惧したが、静雄はさして気にせずに話題を変えた。
「そういえば手前、今日飯まだだったよな。腹減ったろ」
 静雄は臨也の返事など待たずに一人で勝手に納得し、やたらと大きな荷物を抱えたまま台所に閉じこもり調理を始める。臨也の繋がれているベッドからはその様子は窺えない。
 しばらく台所で作業をしていた静雄が、鍋からよそいサイドテーブルに乗せたのは真っ白い粥だった。これなら料理下手な人間が作っても、それなりの味になるだろう。
「いっぱい殴っちまったからよ、こういうもんのほうがいいかなって」
 申し訳なさそうに眉を下げる静雄に、底知れぬ狂気を垣間見た気がした。先ほど臨也の軽口にこめかみをひくつかせた静雄より、こちらのほうがよっぽど危険だと脳が警鐘を鳴らす。
 ほら、と何度かふうふうと息で冷ましたれんげの粥を臨也の口元に近づける。静雄の手からなど食べれるかとふいと口を逸らすと、静雄は不機嫌そうに眉を寄せた。この状況では無闇に怒らせないほうが得策だと臨也は慌てて弁解する。
「いや、ご飯くらい一人で食べれるからさ。これ外してよ」
 冷たい目をした静雄は、粥をもう一度掬い直し臨也の唇に押し付けた。臨也が口を開かなかったために、ぼたぼたと容器に粥が垂れる。冷まされていない出来立ての粥は、臨也の唇を焼いた。
「あつ!」
「外したら、逃げようとするだろ?」
「しない! しないから! この状況でそんなことするわけないだろ!?」
 静雄の前で逃亡を図るなどと無謀なことを、臨也がするわけもない。もしするとしても、それは段取りを整えてからだ。必死に逃げない意思表示をするも、静雄は手錠を外そうとはしなかった。
「食わねえなら明日まで飯なしだぞ」
 嫌なところを突かれて、ようやく臨也は小さく口を開けた。腹が減っていなかったわけではないのだ。もっと開けと催促され、やけになってこれでもかというくらいに大きく口を開く。他人に口内を見せるなど恥辱以外のなにものでもなかった。普段隠されているところを無理やり暴いて、静雄はさぞかし優越感に浸っていることだろう。
 静雄は湯気の立っている粥に息を吹きかけ、透明なれんげを臨也の口に押し入れた。臨也の舌が粥を汲み取ったのを確認して、ゆっくりとれんげが引き抜かれる。
 無音の部屋に臨也の咀嚼音だけが響く。噛み砕いた粥を嚥下すると、喉仏がごくりと鳴る。それがやけに生々しく聞こえて、臨也の頬は羞恥に赤らんだ。粥が胃に落とされると、静雄は二口目を淡々と臨也の口内に差し入れる。臨也はやや塩味のある粥を無心で咀嚼し続け、どうにか容器を空にした。
 食べ終えたあと臨也の腹に残ったのは満腹感ではなく、羞恥や屈辱とそれを上回る巨大な怒りだった。殺してやると心の中でつぶやく。
 臨也の餌付けのような食事を終えた静雄は、次いで自らの食事へと取りかかった。臨也が粥で静雄が普段の茶碗によそわれるご飯と漬物だというのが暗に力の差を表しているようで、臨也の怒りは一層濃いものになっていく。臨也の食事にはあれほど時間をかけたのに、静雄はかき込むようにして五分程度で食事を終える。静雄のする何もかもが臨也の癇に障った。
「もうこんな時間だからよ、風呂は明日な」
 こんな時間と言うからには、もうとっくに空に星が散らばっているのだろう。長いこと無理な姿勢を強いられ続け、臨也の身体の節々が不満の声をあげていた。
 臨也を外界から隔離して痛めつけるのと、このように親鳥が雛に世話を焼くような行動をとるのはまた別の問題だ。静雄の真意を測りかねじっと観察する。一体このようなことをして、静雄はどうしたいというのだろう。何度となく様々な角度から考察したが、それでも核心にたどり着くことはできなかった。
 人間とは大小の差はあれど、行動に目的を伴うものだ。仮に静雄を人間であるという前提で考えても、静雄が何をしたいのか臨也には見当もつかなかった。
「でも歯は磨かねえとな。ちょっと待ってろ」
 静雄は臨也が無反応でも一人で話を進めていく。これでようやくこの忌々しい手錠が外されると緊張が緩む。
 しかし静雄が用意したのは錠を解く鍵でなく、水の入ったコップと洗面器、そしてすでに歯磨き粉のついた新品だと思いたい歯ブラシだった。まさかと静雄の顔を凝視する。
「ほら、一旦口ゆすぐぞ」
 静雄は臨也の顎にくっと手をかけコップの水を流し込む。角度的に食道が開かれて、臨也の意思に反しその水を少し飲み込む羽目となった。ごほごほとむせる臨也を見て静雄は困ったように笑う。
「飲んじまったらだめだろ。ほら」
 もう一度コップを傾けられ、今度はなんとか口内で水を留めることに成功した。本来であれば自分でできる行為を他人の手でされるというのは、大変なストレスだ。怪我や病気なら諦めもつくが、健康な身体の自由を奪われるとなるとそれは耐え難いものだった。なぜ静雄にそのような姿を晒さなければならないのだと考えたが、飲み込むわけにもいかず洗面器に水を吐き出す。悔しい。恥ずかしい。静雄が憎い。
「おお、できるじゃねえか」
 褒めるような声をかけられ、臨也の腹の奥は煮え返った。なるほど臨也が思っていた以上に、静雄は臨也の殺しかたをよく知っているらしい。
「よし、じゃあ磨くから口開いとけ。さっきみてえに大きくな」
 静雄はあー、と口を開くのを促す声を発しながら歯ブラシを近づける。ふざけるなと今度こそ臨也は口を開かなかった。強引に歯ブラシが唇を割って門歯をプラスチックの頭が叩くが、頑なに口を開けることを拒んだ。臨也、とぼそっと名前を呼ばれる。
「また仕置きされてえのか」
 穏やかでない単語に臨也の身体が固くなる。洗面器や用意したものをサイドテーブルに置き、静雄は無感情に再度口を開けることを督した。
「最後のチャンスだ。開けろ」
 だが臨也もこれ以上簡単に屈服してなるものかと、前屈みになり鋭く静雄を睨みつける。体勢を変えたことで臨也の自由を奪ったままの手錠が鳴った。
「なら仕方ねえな」
 どうしてやろうかと呟いて、静雄は臨也の身体に手を這わしていく。ゆっくりとした動きで移動する手に、臨也の身体が恐怖を隠しきれずにびくついた。脛に手を置かれると骨を折られるのではと警戒し、痛みが残る腹を撫でられれば再び殴られるのではと腹筋に力を込める。そうして最終的に静雄の両手は臨也の首にかけられた。これから自分の身に起こることを予感して、臨也の目は大きく歪む。静雄に見つめられ、声を上げることもできなかった。静雄は徐々に臨也の首にかける力を強くしていく。
「ふっ……!」
 酸素が圧倒的に必要量を下回り、臨也は苦しげにもがいた。両手を首に持っていきたいが、相変わらず手錠が嫌な音を立てるだけだ。酸素を取り込むためにぱくぱくと口を開閉すると、ようやく首元を解放される。急に大量の酸素が気管を駆けて、臨也は無様にむせかえった。生理的な涙が瞳に滲んでいる。
「ごほっ、げほ、はあっはっ……」
 いくらか呼吸が落ち着くと、静雄は臨也の口内に歯ブラシを遠慮なく突っ込んだ。う、と軽くえづいて反射的に異物をどうにかしようと舌で追いやる。
「見えねえからもっと口開けろって」
 言いつつ静雄は歯ブラシを握るもう片方の手で臨也の首をさわさわと撫でる。その行動の意図を理解して、臨也は慌てて口を開けた。静雄はおとなしく口を開いた臨也にいい子だと微笑みかける。なにがいい子だと、心の中で悪態をつくのが精一杯だった。
「んむ、んふっ……んうぅ」
 人に歯を磨かれるなどいつ以来だろうと、怒りの絶頂を通り越した頭で考える。妹達の歯を磨いていた記憶こそはあれど、臨也自身が親に歯を磨かれていた記憶などほとんど残っていなかった。
 体勢的に重力に逆らいきれなかった唾液が臨也の頬を濡らすたびに、静雄が少し湿らせたタオルで拭き取っていく。奥歯から前歯までを丁寧に磨かれ、そうしてまた奥歯へと何度か行ったり来たりするのを繰り返し、全ての歯を磨き終えると静雄はようやく歯ブラシを臨也の口から引き抜いた。
「おら、ペって」
 洗面器を口元に寄せられ、臨也は口内のものを素直に吐き出した。少しでも早く口内を空にしたかったからという以上の理由はない。次いでコップを唇に充てがわれ、控えめに水を注ぎ込まれた。何度かくちゅくちゅと頬の筋肉を動かして、歯磨き粉の残る粘膜を清潔にし水とともに洗面器に排出する。
 最後に静雄は臨也の口元を拭き取り、歯磨きと呼ぶには暴力的な行為を終えた。そして褒美のように臨也の頭を数度撫でる。
「結構時間経っちまったな……これ片付けたら寝るから、おとなしくしてろよ」
 この状態で、待つ以外のことなどできるはずもないだろうとは声に出さない。静雄はすぐに臨也のもとへと戻ってきて、ベッドに腰を下ろし臨也を囲うように壁と両腕の間に閉じ込める。何をされるのかとヒヤリとしたが、それは臨也にとって少なくともマイナスのことではなかった。
「寝るときは辛えだろうからよ。外してやる」
 静雄は臨也の肩に顎を乗せて、その背後にある手錠に触れる。音を立てて手錠が外れたのがわかり、腕を前に回すともう片方の手首も解放された。女性のように細い手首は赤く腫れてヒリヒリと痛んだが、それでも自由を取り戻したことに深く安堵する。
 だが身体の自由を喜んだのもほんのわずかな時間だった。電気を消して寝ると宣言をした静雄は、おもむろに臨也を腕の中に閉じ込めたのだ。これでは自由が利かないといった意味では大して変わりない。むしろ拘束具が静雄になったということに臨也は凄まじい嫌悪感を抱いた。なぜ静雄とこうして向き合って眠らなければならないのだろうか。静雄はすぐに眠りに落ちたようで、耳元から穏やかな寝息が聞こえる。つくづく憎らしい。
 この男の前で眠るつもりなど毛ほどもなかったが、臨也は自覚していた以上に心身ともに困憊していた。このような非日常の下に無理やり身を置かれたのだから、それも当然だ。襲いかかってくる眠気の波を何度も向こう岸へと追いやったが、今度こそ臨也は津波のような睡魔に呑まれた。
 

 臨也の意識が覚醒した時、静雄はまだ眠っていた。その無防備さに腹が立つ。いつか絶対にこの雪辱を何倍にもして、静雄に叩きつけてやると臨也は心に決めた。
 相変わらず辺りは闇に包まれており、夜なのか朝なのか皆目見当がつかない。今になってやってきた生理現象を恨む。ほとんど何も口にしていなかったとはいえ、よく一日持ちこたえたものだ。とにかくトイレへ、そしてあわよくばこの機会に不気味な部屋から脱出してしまおうと身をよじる。臨也がもがいたことで静雄は抱き枕がベストポジションでなくなったのを嫌がるように、うんんと唸り臨也を元の位置へ抱え直した。手錠こそはされていないものの、静雄の腕の中に閉じ込められているということはピアノ線で身体をぐるぐる巻きにされているのとほぼ同義で、逃れることは困難を極めた。
 ひやりと嫌な汗をかく。大丈夫だ、あと三十分は耐えられると心で繰り返し唱える。それまでに静雄が起きることを祈ったが、静雄は一向に目を覚まさない。騙し騙しにしていた尿意も限界だった。他に手段も思いつかず、恥を忍んで静雄を揺すり起こす。
「シズちゃん、起きて」
 静雄はすうすうと一定な寝息を立てたままで、起きる気配はない。さらに強く揺さぶると静雄はようやく目を開けた。
「んん……なんだよ……」
 寝起きでやや機嫌が悪そうだったが、そのようなことなど気にしていられなかった。静雄が起きたという事実に一先ず胸をなでおろす。
「シズちゃん起きろってば。トイレ行きたいからこの腕離して」
「もうちょっと我慢できんだろ……」
「できないから起こしたんだよ。頼むから」
 呑気な静雄に焦りと苛立ちを感じる。切羽詰まった声で告げるも、静雄はまだ半分夢の中にいるようで臨也を抱きしめ再び目を閉じる。
「おい、くそ、起きろって。トイレ行きたいの、お願い……!」
 極限まで追い詰められた臨也の声は震えている。せがむように静雄の胸を叩くと、静雄は仕方なさそうに頭を掻いて起き上がった。そして排泄欲と同時に、今なら逃げられるかもという欲が頭をもたげる。しかしそれはすぐに断念させられた。
「ほら、行くぞ」
 ごしごしと目をこすりながら静雄は臨也の手を引きトイレまで誘導する。どこまでも臨也のことを信用していないようだ。それは臨也も同じなので構わない。トイレのドアの前で待機するとばかり思っていたが、静雄はあろうことか個室の中にまで入ってきた。
「シズちゃん、俺、トイレしたいんだけど」
 遠回しに出て行けと言ったのだが静雄には通じなかったようで、腕を組んだまま臨也のすぐ横で突っ立っている。眠たいのかその目は半分閉じられていた。
「おう。すればいいだろ」
「いや、だからさ。出てってよ、さすがに人前でするのはちょっと……」
「男子便所なんてどこもそんなもんだろ」
「あのねえ、状況が違うだろ」
 化け物には何を言っても無駄だとため息をつく。正直なところ、このようなやり取りをしている時間すら惜しまれた。出ていくことを期待したが、いつまでたっても静雄は立ち去ろうとしない。膠着状態だった。
「眠いんだからよ、早くしろって」
「だから君が出ていけば済むことだろ」
 静雄は眠そうにあくびをすると、臨也の後ろに回りこんで細身のズボンと下着を一掴みにして床に落とした。
「な、や……!」
 慌てて静雄を振り払おうとするも、当然力で敵うわけもない。それに便器を前に焦らされ続けた尿意のほうも限界だった。性器が空気に触れて早く吐き出したいと震えている。
「とっとと出しちまえって」
 臨也の代わりに静雄は性器を握る。ふざけるなと力なく首を振るも静雄は臨也の身体をがっしりと掴んで離す気はないようだった。
「やだ、離せ、一人でできるから……!」
「手前が手間かけさせんのが悪いんだろ」
 ぐりっと膀胱の辺りを服の上から強く刺激される。限界まで水分を溜め込んでいたダムは、簡単に決壊した。
「あ、ああ……!」
 じょわあっと便器に溜まっていた尿が流れ出ていく。必死に腹に力を入れて止めようとしたが、それは臨也の意思に逆らい止まることはなかった。
「全部でたか?」
 さらりと訊かれて言葉に詰まる。放心状態に近かった。静雄は答えぬ臨也の代わりに水を流し手を洗い始める。屈辱という言葉では足りなかった。
 用は済んだだろうと言わんばかりに、静雄は臨也の手を引いて部屋へと戻りベッドに潜り込む。最悪だ。よりにもよって、静雄の前で、あのような痴態など。
 静雄は平然とした顔で臨也を抱えあっという間に再び眠りに就いたが、臨也はすっかり目が冴えてしまっていた。あのようなことをされて眠りにつけるほど、臨也の精神は頑丈にできていない。自らの痴態から目を背け、静雄の異常性の考察に集中した。そうでもしなければ臨也は憤死してしまいそうだった。
 この化け物は果たして自分のした行為を理解しているのだろうか。男の、それも大嫌いだと公言する人間の性器を掴むなど正気ではない。やはり静雄はどこかおかしい。重要な役割を果たしていたストッパーが外れてしまったようだった。ついに身体だけでなく、心まで化け物じみてきたかと嘲る。
 とにかく外にさえ出ることができたなら勝機はまだある。あの一瞬だけでは現在地など把握できなかったが、池袋からそう遠く離れていないことはなんとなく雰囲気でわかった。それまでに外との連絡手段をどうにかしたいところだ。携帯はきっと静雄が没収しているのだろう。壊されてなければいいと、信じてもいない神に祈った。携帯さえあれば事は有利に進むはずだ。場合によっては形勢逆転だって可能だろう。
 そのためにはまず静雄に隙を作らねばならない。抵抗を一切やめて懐柔された振りをして徐々に静雄を油断させる、それがベターであろう。以前では静雄が臨也相手に油断をするなどありえないと考えただろうが、怒りすら覚えるくらいに現在進行形で無防備な寝顔を臨也に晒しているのだ。チャンスは必ず巡ってくる。このままここにいたら日付の感覚も狂ってしまう。時間との戦いだった。




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