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私が木兎を好きになったのは3年も前。桜舞う4月。新しい世界に飛び込んだ日だった。周りは知らない人だらけで緊張していた入学式。そんな私は人懐こい木兎の隣の席になって、たくさん声をかけてもらった。
話をしてるうちに仲良くなって、二人でお昼ご飯食べたり、私が木兎の勉強を見たり、二人の時間が増えるにつれて私はどんどん彼にひかれていった。
授業中みせるアホみたいな寝顔や気難しい顔と対極の一生懸命に部活をする姿に心拍数が馬鹿みたいに上がったものだ。今ではいつだって心拍数が高いけれど。

「たーだいまー」

そうこうしているうちに木兎が呼び出しから帰ってきた。少し明るい顔をしているところを見ると、これはきっと…。

「おけーり木兎。どうだった…って聞くまでもないなその顔は。」

「彼女できた!すっげー可愛いんだよ見る?」

「おー」

木兎に返事をしながら、木葉が私のことを気にしている。大丈夫って目で合図すると木兎の携帯を覗き込んだ。可愛い女の子とのツーショット。告白されてすぐ取ったのだろうか。女の子の顔が赤く、けれど幸せそうだった。

顔をくっつけ、木兎の手は彼女の肩に回されて引き寄せられている。

「かわいいじゃん。木兎にはもったいないね。」

「なんだよ名字!」

「次は何か月もつかな〜」

「この子は他の子とは違う気がする!」

「そんなこと前の時も言ってた気がするんだけど」

「いや、ほんと!だって俺がどんだけバレーしててもいいって言ったし、スパイク決める俺が好きなんだって!今日はあかーしに死ぬほどスパイクあげてもらう!」

「わあ…赤葦君かわいそ…」

木兎が浮かれているのがわかる。さっき会ったばかりの相手の話がなんでそんな次から次へと出てくるのだろう。まあ、大半はどれだけ彼女がかわいらしく、かつ自分のバレー馬鹿に理解があるかなのだが。
その女の子はどれだけ木兎の事を知っているのだろう。私は1年生の時から木兎の事が好きで、木兎の事を見ていたのに。恋に日数なんて関係ないけれど、そんなことわかっているけれど、木兎に彼女ができるたびに私はそう思ってしまう。

「はあ…」

「何だよまた溜息かよ。もしかしてどっか悪いのか?」

自分の話をやめて私の顔を覗き込む木兎。お前のせいだバーカって言えたら。そんな気持ちで何でもないよと返す。木兎は腑に落ちない、という顔だ。
可愛い女の子になりたい。好きな人に告白できる勇気のある女の子になりたい。でも私はそんな女の子たちをうらやましく思っているだけで何もしてない醜い女の子。私はきっと木兎の特別ではあるの。友達として特別。でも、きっと恋人にはなれない。木兎をいっそ嫌いになれたら、と何度神様にお願いしただろうか。

「あ、予鈴鳴っちまった!!じゃあな木葉!!名字!!明日の昼飯もまた来るから!!!」

大声で手をぶんぶん振って教室から出ていった木兎。

「明日もくるんだ…」

「彼女と昼飯食ったりすんじゃねえのかよ普通…」

「木兎って、今までも彼女いたって私たちとお昼食べるの欠かしたことないよね」

そういうことするから、特別だって思っちゃう。彼女なんかより、私たちの方がって思っちゃうの。意地汚い優越感で酔ってしまいそう。


私が一番あなたを好きなのに



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