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「木兎はさ、人たらしだよね。」
私のその一言に、目の前の男はキョトンと目を丸くする。
「たらしてっかなあ?」
「たらしてるたらしてる。女も男も、もうだらっだら。」
ええ〜!?と大きな声。自分の今までの行動を振り返っているのか、木兎の目が右へ左へすいすい泳ぐ。
木兎は天然人たらし。人当たりが良くて、元気で優しくて。木兎はいつでもどこでも誰にでも人気者。そんな木兎を好きな女の子を山ほど見てきたし、木兎も木兎でほれっぽいから告白されればすぐ付き合って、そして別れてを繰り返している。
そしてここにたらされている女がもう一人。私も大概だ。
「木兎って悪口とか文句とか言ってるの聞いたことないけど、この世に嫌いなものとかあるの?」
「そうだな………
キレた時に見せるあかーしの笑顔」
「間違いない」
ニヒニヒ笑い合うこの時間がとんでもなく幸せで、この空間にいるのが私と木兎だけで、この笑顔を独り占めしてるのも私だけで、こいつを好きになる女の子たちより少しだけ優位に立てたような感覚。とっても意地汚いけどでも心地いい。
木兎の特別になりたい。そう思って、もうどのくらいたったのだろう。ため息が自然と出る。
「なんだよそのため息は〜」
「木兎バカだなあって思ってあきれてた」
「バカじゃねえよ!!」
「うるせえよバカ木兎。外までおまえの声丸聞こえ」
「おっ木葉!!」
木兎の頭をパシンと叩いて、そこにたっていたのは木葉。おう、名字と私にも手を振った。木葉、なんか用かあ?と木兎が聞くと、一瞬私のほうに視線をやってから、
「お前呼ばれてんぞ。女子。」
と言った。あぁ、また告白か。今度は誰をたらしたんだろう。今木兎彼女いないし、また付き合うのかな。私はお弁当の卵焼きを箸でつついた。木葉の表情は見えないけれど、きっとバツの悪い顔してると思う。
木兎はクラスの男子に冷やかされながら教室を出て行った。
「悪いな」
「何で木葉があやまんの。何も悪いことしてないじゃん。」
「木兎との楽しい逢い引きジャマしてごめん」
「殴るよ」
「あいつ、ほんっと人たらしな。前の彼女と別れたの、つい2週間前のことだろ?まあ俺たちもたらされてる側の人間だけども」
「その通り。木兎の「仲間は特別!」って精神に好意と勘違いさせられてるんだよね…。わかっちゃいるんだけど」
「乙女心は止まらないってか」
「今日いつもにまして腹立つね木葉」
「そんなにらむなって!!!いってぇ!!!!」
渾身の一撃を食らわす。帰宅部の私の打撃なんて、痛くもかゆくもないだろうけど。ヘラヘラ笑っている木葉は、私の相談相手。私の気持ちを知ってるのは木葉だけ。
「お前も告れば?」
「それじゃ他の女の子たちと一緒じゃん。私は騙されません。」
「強情だな」
あなたの特別になりたいだけ。
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