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「先輩方、お話があります」

「…アーン、何の用だ。もう休憩は終わっただろうが。苗字まで連れてきやがって」

「その苗字の事ですから」

「はよその子返して来いや日吉。紗江はまだこいつにされたこと忘れた訳やないんやから。謝る気になったんやったらまた話は別やけど」

「ちょっと黙っててもらえます?話進まないんで。」

「鳳落ち着け。俺達がここに来たのは謝るためではありません。なんせこっちには謝るような事がないので。」

「クソクソどういう意味だよ!!」

「そのまんまですよ。苗字は何もしてない。」

「………紗江の自作自演だと言いたい訳か、日吉」

「はい」

「随分面白い事言うじゃねえの。」



ちょっと考えてみたらわかるはずの事なんだけどな。恋は盲目って本当だ。この先輩達は疑う事もないようだ。


「誰かを計画的に貶めようなんて技、そもそも苗字には出来ませんよ。このバカが考えてることなんて食い物と寝る事位ですから。」


後ろで鳳が吹いた。苗字が「日吉酷い最低」と悪態をついているがこの際無視だ。宥めるのは樺地に任せることにしよう。


「そういう訳ですから、これ以降こいつに手を出さないでもらいましょう。先輩方も、もちろん中谷先輩あなたもですよ。もし暴力でも振るおうもんなら先輩であろうと容赦はしません。それでは、失礼します。行くぞ鳳、樺地、苗字」


俺達は部室へ戻った。近くで二学年の部員が待機すでにしているだろう。背中で感じ取った先輩達の視線には憤りと少しの戸惑いが混ざっていた。全員知っているのだ、苗字がどんな人間だったかを。

苗字のためにも早くもとに戻って欲しいと、それだけを俺は願った。




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