行き先はガルティアの執務室だった。中に人はおらず、アラウィンはそれを確認するとひとつの棚へと歩いていった。
そこにはいくつもの書簡が保管されており、アラウィンはその山に手を伸ばす。内容を確認しては元の位置に戻す動作を数回繰り返した後に、ひとつを俺へと押し付ける。言葉こそ発してはしないが、視線が読めと言っていたので素直にそれに従えば……


『うちのちかくはおおきいおにいちゃんたちがいっぱいでこわいです。あそぶところがほしいです。』

『数年前の流行り病のせいで若者がいないです。私の息子も孫も流行り病で死に、老いぼれだけが残りました。村の人々は優しいですが、皆仕事も少なく、蓄えも僅かです。こんな辺境を尋ねる客もおらず、行商人も来ません。貧しい暮らしです。どうかお助けください。』


タブレットにはガルティアに対するいくつもの嘆願が綴られていた。拙い文字もあれば、震えながら書いたのか読み辛いもの多い。単語だけが並ぶものも少なくない。平民の中には文字を知らない者のほうが多いだろうから。


「これは……」

「今渡しているものは一ヶ月前に届けられたものですよ。
領民から、領主への嘆願書です。これらに何か覚えはありませんか?」

「……ある。だが、ここにあるもの全てを対処したというのか?」


ガルティアひとりで?
信じられないとアラウィンへと顔を向けると、呆れ笑った。


「彼以外、誰がやったというんです?」


アラウィンの言葉。突き刺さる真実。
今までの言動、行動を振り返る。俺のものと、ガルティアのもの。

ガルティアは遊び場のない子供達に場所を作り、
哀しみくれる老婆や村に活気を与えた。
村で教わったという料理の噂を広め、多くの旅人をそこへ向かわせた。


全ては領民のため。


「おれは………」


揺らぐ思考は、


「あれ? エルにアル、どうしたんだ?」


とたん、後ろの扉から聞こえた声。
振り向かずともわかる。その声の主は俺の主アルジでもあったから。

ガルティアの声に止まった揺れは、戻ることなくそいつのどこか抜けた声音に溶け消えた。


「あぁ、ガルティア。ちょうどいい所に。
緊急の書簡ですよ」

「ありがとう、アル。
あ! エル!」

「っ!? なんだっ?」


先ほど生まれた罪悪感に、ガルティアの呼びがけに焦燥をかんじる。
だが、相手はそれに気づいておらずニコニコと笑いなが俺に近づいてきた。


「ほら! この前からエルがこうるさく言ってた仕事片付けたぞ! 偉いだろう?」

「は?」


ポカン、

そんな擬音がぴったりあうような、間抜けな表情をしてしまった。そんな自覚が持てるほど、気の抜けた己の主の一言。

だが、その言葉は俺の中に渦巻いていた負の感情を全部馬鹿だというかのように洗い去ってしまった。
呆れた、まさかこんな……ふざけたような、子供のようなやつに騙されていたなんて。
しかし、そんなこいつだからこそ、許せてしまうのだ。


「ふっ、やっぱりお前はお前だな」

「ん? なんだ? 面白いことでもあったのか?」

「いや、」


アラウィンの方をチラリと盗み見れば、ただ笑っているだけだった。
こいつも気に食わないが、たぶん俺と同じようなことをこいつもガルティアにされたのだろう。ガルティアを見るアラウィンの眼差しは優しい。


「お前のことは嫌いになれそうにないよ、」


故郷をでて、こいつについてきてよかったのだ。
その紅い瞳は、俺の望む未来を作り出してくれる。
そう確信できる。こいつは普通じゃないから……


「へ? もしかして私、エルに嫌われるようなことしたのかい?」

「……いつもしてんだろ」


そして、俺はまたひとつため息をつく。





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1を載せてからしばらく書いてなかったから何を書きたかったのかさっぱり忘れてた。
最近こんなの多いな。

エルフランさん、多分いいひと。
アラウィンさん、多分いじわるなひと。
ガルティア、羊の皮をかぶったライオン

2013/7/27





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