リヴァイさんは猫になれる。
最初、おれは猫を拾って飼い始めた。
けれどある日、一緒に布団でくつろいでいると猫は眩しいくらいに光り、ゆっくりと目を開けたら人間の姿になっていたのだ。
おれは不審者だと思ってトンカチを持ってずっと離れていたけど、瞳の色や匂い、行動までよく似ていて、その存在を認めざるをえなかった。
その後、いつもの猫姿に戻ったことでおれの疑いは晴れた。
あれからはや2年…
「リヴァイさん…おはよ…ございます…」
いつもなら叩き起こしに来るリヴァイさんが、なぜか今日は来ない。
久しぶりに目覚ましで起床したエレンは、気配の消えたリヴァイを探す。
リビングには、昨日まで着ていた服や下着が一ヵ所に脱ぎ捨てられている。
「リヴァイさん…?…どこに居るんですか本当…」
ふいにテーブルへ目を向けると、小さなメモが置いてあった。
『今日は猫らしく街を散歩してくる。
保健所のヤツらには気を付ける。
昼には帰る。 リヴァイ』
「はぁ…気まぐれすぎだろもう…」
たまにあるリヴァイさんの“散歩”には、いつもヒヤヒヤさせられている。
最近、地域で野良猫の駆除を強化したと聞いた。
首輪を嫌うリヴァイさんは、野良にしか見えない。
絶対気を付けて下さい!と念を押したものの、保健所の役員に追いかけられてドロドロになって帰ってきたこともあった。
「あ、バイト遅れる!」
考え事をしている間に時間が経ってしまい、急いでエレンは家を出ていった。
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「リヴァイさんただいま!」
急にすごい雨ですよ…と言う前に、“おかえり”が聞こえないことに違和感と不安を覚える。
相変わらず脱ぎ捨てられたままの服をみて、エレンの抱いた不安は、現実へと染まっていった。
「まさか…リヴァイさん…!!」
考える間もなく家を飛び出したエレンは、傘もささずに街へ出る。
狭い道、大通り、公園…
たくさんの場所をあてもなく探した。
それでもやはりリヴァイさんは見つからず、走りっぱなしの疲れた脚で、とうとう保健所に向かった。
ロビー前のボードには、堂々と書かれた文字。
『本日の捕獲数 16匹
〃 駆除数 30匹』
まさかこの中に…
どうしよう、このままじゃ殺されてしまう。
雨でびしょ濡れになった全身からとてつもない寒気がして、行かないで…と声を漏らした。
「俺は…ここだ、エレン」
左耳から突然入ってきたのは、ずっと考えていた大切な人の声。
猫になって散歩に行ったはずなのに人間の姿で、傘をさしている。
家にあった服をまとい、とても悲しそうな、辛そうな表情をしていた。
「リヴァイ…さん…?どう、して…」
ばしゃばしゃと雨粒が落ちる。
それと一緒に、短時間で積もり積もってしまったたくさんの感情が溢れ出した。
崩れ落ちそうになった冷たい身体を、リヴァイは力強く抱き締める。
「悪かった…心配かけた。野良猫だと勘違いされて連れて行かれそうになった。逃げて家に帰ったらお前が居なくて、時間を見たらもう夜で、探した」
「捕まっちゃったのかと…思って…おれ、もうだめだって……っ」
今日も16匹、捕獲されている。
今までに捕獲された猫は今日、30匹殺されている。
ぎゅっと抱き締めたまま、涙の伝ったエレンの頬にキスを落とす。
早く帰ろう、そう言おうと口を開いたその時。
「っ、…!」
「んっ…は…、リヴァイさん…よかった…」
ふいに奪われたのは唇。
ほっとしたように顔を綻ばせたエレンに、どうしようもない愛しさが溢れる。
持っていた傘を放り、両腕でしっかりとエレンを抱き締めたリヴァイは、もう一度、その小さな唇に触れた。
静寂の夜、雨の音だけが二人を包んでいた。
fin.
×××なキス 終
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