2011/05/26 21:50 珍しく。そう。珍しく。 あいつがものすごく真剣な顔をして、おれの目をじいっと見据えた。 あのね、兵助くん。 言いたいことがあるんだ。 ……僕と、 発せられた言葉に、拒否以外のどんな言葉で返せばよかったのだろうか。ぐるぐると混乱している頭では、わからなかった。 「え、は?…ねえ、兵助。もう一度言ってくれない?」 「だから、結婚を申し込まれた。断ったけど」 「誰から?」 「……斎藤」 ▽▽ 何をしているんだ、馬鹿!と怒鳴られてのばされた手はすんでのところで届かなくて。ぐんぐんと遠ざかる見知った顔が絶望にそまるのがやけにはっきりと見えた。 それが、最後の記憶。 あーあ。約束、破っちゃった。 〇 なんとなく。そう、なんとなくだ。 鳴き声が聞こえた気がしたんだ。 振り向いたらちょうど電柱の陰になるところにそれは倒れてて、驚いた。 ぐったりと四肢を投げ出してぴくりともしない、小さなそれ。 なぜだろう。気がついたらそれを抱えて家への道を急いでいた。 らしくないと思ったけど、どうしてもほっとけなかったんだ。 …なんとなく、だけど。 〇 目が覚めて最初に感じたことはいつもより目線が低いこと。 次に感じたのは、体が強張り思うように動かせないことと、今自分がいる場所が見知らぬところだということ。 自分のおかれている状況を把握していくうちに感じたのは恐怖と意外と冷静な自分に対する驚きだった。 ふと、人の近づく気配を感じて背筋に冷や汗が流れた感じがした、のだが。 「あ。起きてる」 現れた、いつもよりも大きく見える人影に固まるしか出来なかった。 〇 |