<街へ>
どうやら今から上陸する島は、そこそこ大きいらしい。
次の上陸で逃げる予定だったが、ローはこのアザの秘密を何か知っているようだ。それを聞き出すまでは、この船に乗っているほうがいいのかもしれない。そうなると、服などいくつか揃えておきたいものがある。
だが名前は今、お金を持っていない。
(ローに頼むか、盗むか...か。)
どうしようかと迷っていると、ローが一直線に名前のほうへ歩いてくる。
「お前はペンギンと必要なものを買いに行け。金ならペンギンに渡してある。」
「ローは一緒に行かないの?」
「俺は用がある。」
「そっか...。」
そちらのほうが好都合ではある。しかし、心のどこかで残念だという気持ちがあった。
(なんで残念だなんて...。)
何故そう思うのか、名前には分からなかった。
「なんだ?俺と行きたいのか?」
「そういうわけじゃ...。」
「くくっ、仕方ねェな。用が済んだら付き合ってやるよ。」
ちゅーーーーっ。
グイっと引き寄せられて、キスをされる。
「ロー...っ!!」
「くどいようだが、逃げるなんて考えるなよ。名前、お前は俺のものだ。」
「なっ!私にはシ...ッ」
私にはシャンクスがいる。思わずそう言いそうになったが、いま関係がバレるわけにはいかない。
それにシャンクスには振られた身だ。シャンクスがいるとは言っても、彼のものというわけでは無い。そう考えると先ほどまで紅くなっていた顔は、一気に暗くなった。
その名前の変化に、ローはなんだ?と怪訝そうな顔をしたがなんでもないと必死に誤魔化した。
「名前ちゃん!船長から聞いた?街へ行こう...って、船長っ!」
するとそこにタイミングよくペンギンが姿を現す。
「ちょうど説明してたところだ。ペンギン、頼んだぞ。」
「任せて下さいよっ!!」
ペンギンは親指をたてて自信満々に任せてくれ!とローにアピールする。
「よし!じゃあ名前ちゃん、行こう。」
*
「名前ちゃん、これはー?あ、こっちのが似合うかもなぁ...。」
そう言って手渡されるミニ丈のスカートやワンピース。最初は試着していた名前も、だんだんと疲れ始めてきていた。
「ねぇ...一生懸命選んでくれるのは本当に嬉しいんだけどね?全部ミニばっかりじゃない...?」
「いーの、いーの!男のロマンだから。」
男のロマン?もっとパンツとか、動き易いのがいいんだけどなぁ...。
「よし!とりあえずこれだけ買って、もう一軒行こうっ!!」
「えー...もう、いいよ。」
「ダメだ!俺は船の皆の期待を背負っている。」
「えっ?」
「あっ、ほら!船長が買ってこいって言ったんだからさ、甘えなきゃ!!」
何故か張り切るペンギンに肩を押され、その後、何軒も店を回ることになった。途中、昼食を取り休憩もしたが、歩き回った二人はヘトヘトに。
何か甘いものでも食べよう、と街の広場で休憩することになった。
ペンギンがアイスを買ってくる間、名前は噴水近くのベンチに座り、大量の買い物袋とともに彼が帰ってくるのを待つことにした。
「待ってー!」「こっちだよー!!」
目の前を子供が駆け抜けていく。10歳ぐらいだろうか。あれぐらいのときにシャンクスに出逢ったんだなー...と思い出す。
「お待たせ!」
「ペンギン!ありがとう。」
たくさん歩き回ったあとの甘いものは格別だ。
ペンギンも名前が飽きないようにたくさんの話をしてくれたし、ローの秘密も教えてくれた。
「船長はパンが嫌いなんだ。」
「そうなの?!」
「それと梅干しが...。間違ってコックがおにぎりにして船長に出した時、あれは酷かったなぁ。」
「その話、詳しく教えて!」
「それがさ...。」
*
「あはははっ!」
名前の笑い声が広場に響く。ペンギンの話が上手いのもあるが、その時のローがあまりにも想像できて名前の笑いのツボにハマったらしい。
「名前ちゃん、笑いすぎだって。」
「ゴメンゴメン。あーほんとによく笑っちゃった。」
涙目になった目をこすりながら顔をあげると、ふと先ほどの子供たちが噴水の側で遊ぶのが見えた。
バランス取りをしているのだろうか噴水の淵にそって歩いている。
(私もよくやったなぁー...。)
微笑ましく眺めていると、坂のほうから逃げてくれーと叫ぶ男の声が聞こえてきた。
「ん?何か聞こえるな...。」
「あれは...。」
どうやら小さな荷台が、一人でに広場へと坂を転がっているらしい。だんだんと速度をつけ、噴水のほうへと向かってきている。
「子供たち!逃げるんだ!!」
街の大人たちが声をかけるも、その子供たちはあまりにも突然のことにびっくりして、腰を抜かしてしまったようだ。
しかし、荷台はさらに速度を付け噴水目掛けて動いている。いくら荷台が小さいとは言え、逃げなければ危険だ。
「「危ない...っっ!!」」
そこにいる大人たちは、みな目をつぶった。
ガッシャーーーーーン。
大きな音が広場に響き、目をあけた頃にはバラバラになった荷台の破片が辺りに散らばっていた。
「子供たちは.....っ!?」
「あそこだ!」「無事みたいだぞ!」
あたりにいた大人たちは、一斉に噴水のところへいる子供たちに向かっていった。
*
「ハァハァ、大丈夫かーー!?」
荷台の持ち主らしい男も、坂を必死で降りてきたようだ。たちまち、たくさんの人集りができ噴水は見えなくなった。
「びっくりした...。な!名前ちゃん!って、あれ?」
突然いなくなった名前を、ペンギンは必死で探すが見つからない。
まさかあの人集りに?と思い近付いていくと、いきなりずぶ濡れになった名前が走ってきた。
「え!?ずぶ濡れじゃないか!」
「いいの!ほら、行くよ!!」
「あ、待って。荷物荷物...。」
そのままペンギンの手を取ると、名前は再び走りだす。そして、ひと気のない路地に入り込んだ。
「ハァハァ...買い過ぎた。重い...。って名前ちゃん!」
「ごめんね!ハァハァ...。子供たちを助けようとしたら、水の中に落ちちゃった...。」
「えぇ!怪我はない?」
怪我でもしてたら船長に殺される。そう思ったのか、ペンギンの顔がだんだんと青ざめていく。
「大丈夫!急いで逃げてきたけど結構目立っちゃったね...。」
「っていうか、ずぶ濡れ!早く着替えなきゃ...。」
「ごめん、ペンギン。タオル買ってきてくれる?」
わかった、ここで待っててとペンギンは走っていく。その姿が見えなくなったのを確認した名前は、そっと自分の足に触れる。
ズキーーーッ!!
やや熱を持った足首に鈍い痛みが響いた。