<デート>

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「これにしろ。」

そうやってローから手渡されたのは、爽やかなブルーのキャミソールとデニムだった。
名前の瞳の色と同じその青は、よく映えて、似合っている。

「どうかな?」

「.......悪くねェ。」





あのあとペンギンが買ってきてくれたタオルで身体や髪を拭いていると、用事を終えたローに偶然出逢った。
ペンギンは荷物とともに船に帰され、ローはびしょ濡れになった名前の着替えを選んでいると言う訳だ。

「何をしてたらあんなに濡れるんだ。」

「転んじゃって...。」

ローは明らかに疑いの眼差しを向けてきたが、名前は買い物に付き合ってくれるんでしょ?と必死に話をそらした。
とは言っても、必要なものはほとんどペンギンが揃えてくれたため、街をブラブラするだけだったが。

すれ違う人々が美男美女の二人を眺めていく。自然とその姿が目立つ。

(女の子の視線が凄いなぁ〜...。)

彼女たちの視線を痛いほど感じながら、名前は隣を歩くローに目線をやる。なんとなく理由は分かっている。

「どうした?」

「え、あ...いや、その。」

「何かあるなら早く言え。」

こんな風に見つめられると、無意識にドキドキが強くなる。
シャンクスのときとは少し違った恥ずかしいとか照れるとか、よくわからない気持ちだ。

「えっと、その...ローって...。」

自分の中で比べてみると、シャンクスに対する気持ちはあったかい、安心感。そんな気持ちが強い気がした。

「かっこいいんだなって。」

思わず、その言葉が口から漏れた。それはお世辞でもなく、前から思っていたことだ。
しかし、シャンクスを好きだというその気持ちが消えたわけではない。

「くだらねェ。それともなんだ、惚れたか...?」

ドキーーーーっ。だが確実に、ローに対して新しい感情が芽生えていることは確かだった。

「どうなんだ?名前......。」

立ち止まったローはニヤリと笑いながら、上から名前を見下ろす。身長差のせいなのだが、それが余計にドキドキとさせた。

「ちがっ。っ...でも。」

「デートしてるみたいで、何か嬉しいなって思ったり...。」

そっと名前が顔を見上げると、ローはすでに前を向く途中だったが、チラッと手で口を抑えているのが見えた。

「......バカが。」

それだけ言うとしばらくローは、名前のほうを向こうとはしなかった。

「ちょっと歩くの早いよ、待って!」

合わせてくれていた歩く速度が少し早くなり、名前は早歩きで彼の後ろを追い掛ける。
チラッと後ろから見えるローの耳が、なんとなくいつもより赤い。そんな気がした。

「ロー、歩くの早いよ!」

名前は少しずつ痛む足を我慢しながら、ローの跡を追う。





「ハァハァーーー...ッ。」

流石にずっと早足なこともあり、その場に立ち止まる。ふと隣に目をやると、可愛い華奢なアクセサリーがショーウィンドウに飾られていた。
お店のドアにはCloseの文字。しかし、関係無く駆け寄った。

(わっ、可愛い...!!)

やはり名前も女だ。キラキラと光を反射して輝くそれに、心を奪われる。

(あ、あれ...ローのピアスに似てる。)

思わず見惚れてしまった名前は足の痛みを忘れて、食入るように見つめていた。


「.......ふん。」


息も整い、ふと前を見ると少し離れた所でローが立ち止まっていた。どうやら待ってくれているらしい。

「ごめん!ロー...。」

早く行かなければと、足を痛めていることを忘れ駆け出す。

「痛...っ!!」

激痛が走った。名前はその痛みに耐えきれず、足を抑えてその場にしゃがみこむ。その異変に気が付いたローが近づく。

「少し見せてみろ。」

「なんでもないよっ!」

「だまってろ。何でもねェかは俺が決めることだ。」

「.......っ!」

そっと、ローが裾を捲りあげると名前の足首は赤く腫れていた。手を当てると熱を帯びている。

「捻挫だな。何故早く言わなかった!」

「だって...。」

「ずぶ濡れと言い本当は何があった?」

ローの視線が突き刺さるように痛い。冷静に喋ってはいるが、とても怒っているようだ。

「えっと...「あ、お姉ちゃんだ!」」

声がしたほうを見ると、噴水のところで遊んでいた子供が母親らしき女性が、お店のドアノブに手をかけている。

「本当にあの人なの?」

「うん!間違いないよ!!あのお姉ちゃんが助けてくれた!」

その母親らしき女性は、名前の元へ子供を連れて駆け寄ってきた。

「本当にありがとうございました。貴方に助けてもらわなければ、この子は今頃...。」

「どういうことだ?」

「私が説明します。実は...。」

その母親は丁寧にローに説明する。ローはその話を聞き終わるとじっと名前を見たが何も言わなかった。

(あー怒ってそう...。)

「このお店は、私たちの家なんです。もしよかったらお茶でも...。」

「悪いが、遠慮する。氷と包帯だけ貰えないか?」

「えぇ、もちろんです。」

母親とローが店に入るとねぇ!と先程の子供が話掛けてきた。ローの存在が怖かったようで、近付けなかったらしい。

「さっきはありがとう!」

「ううん。大丈夫だった?」

「うん!でもお姉ちゃんが...。」

「大丈夫だよ。」

目に涙を溜めて、今にも泣きそうなその子供を抱きしめて、頭を撫でてやる。

「うわぁぁーーん。」

ごめんなさい、ごめんなさいと何度も謝りながら胸の中で泣く子をとても素直でいい子だなと、名前は思いながら抱き締めていた。

「ヒック...っ、ヒック...ッ」

その子供をよしよしと撫でながら名前は励ましていたが、忍び寄る影に手が止まる。

「何?あなたたち...。」

「おーおー。気が強いねェ...お前、トラファルガー・ローの女だな?」

大の男が1、2、3、4人。その身なりからすると街人では無い。海賊か盗賊か?全員武器を持っているようだ。
名前は子供を自分の後ろへ移動させると、リーダーらしき男を睨む。

「そう睨むな。お前が言うことを聞けば、その子供に危害は加えねェ。」

「何が望みなの?」

「へへ...ついて来てもらおうか。」

ガタガタと後ろで震える子供に大丈夫だからね、と優しく声を掛ける。そして痛めた足を隠しながら平静を装い、立ち上がった。

「約束守りなさいよ?」

「もちろんだ。連れていけ。」





ガチャ――――。

「おい、名前...ん?」

氷と包帯を貰い、ドアを開け外へ出ると先程までいた名前の姿が見当たらない。目の前にガタガタと震える子供の姿が見えた。
それを見て、すぐに何かが起こったのだと察したローは、珍しく慌てた様子でその子供に駆け寄る。

「おい!何があった!!」

「お姉ちゃんが...っ!お姉ちゃんが連れてかれちゃった!」

顔面蒼白になりながらその子供はローの服の裾を、震える手で掴む。

「なんだと...誰にだ?」

「分からない。怖い男の人たち...。」

ちっ!あいつは今、足を痛めてるというのに。

(クソ..........っ!!)






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